2008.03/12(Wed)
君に初恋、桜色。9−2
chapter9−2
ぽかぽか暖かくて気持ち良くて、秋家は石富の運転するSUVの助手席でうとうとしていたが、頭がかくん、となったせいでハッと目を開けた。
「どうした、眠いのか?」
それを見ていた石富が手を伸ばしてきて、頭をよしよしと撫でてくれた。それがまた気持ち良くて、目を閉じたら本当に眠ってしまいそうだった。
最近は少し慣れてきたけれど、石富は割とスキンシップが多い。何かと秋家の体に触れてくることが多くて、最初の頃はいちいちドキドキして大変だったが、今は贅沢にも、触れてもらえることが当然の生活になっているので、“頭なでなで”くらいでは驚かなくなった。
「ん……ちょっと眠い。朝早かったし……」
「そうだなぁ。それに昨夜は……」
そこまで言うと石富は、髪に触れていた手でするりと頬を撫で、ちらっとこっちを見て意地悪そうに笑った。
「めちゃくちゃ疲れさせちまったしな」
「…っ……もう、ばか……」
秋家は昨夜のことを思い出して、顔を赤くした。
(エロおやじ……って、おんなじ年なんだけどね……)
なんなら秋家の方が誕生日は早いので、おやじというなら自分の方がそうなのかもしれない。でも最近、若くなったとか肌ツヤがいいとか、えつみによく言われるので、色々満たされてるせいかな、と思ったりする。
恥ずかしいけれど、若く見られるのはやはり嬉しいものだ。
ふぁ、と一度大きくあくびをして、秋家は視線を窓の外に向けた。すると、お花見スポットとして有名な公園が少し向こうに見えてきて、思わずわぁ、と声を上げた。
「見て、剣二!すごい!」
「お、満開だな。ちょうどいいじゃねーか」
「うん、晴れてよかった」
今日はお墓参りから帰ったら、お店のアルバイトの子達と一緒にお花見に行く予定になっている。
昨日えつみが、明日もし店長達の都合がいいなら、みんなでお花見に行こうと言いだした。オープンからこれまで、店のみんなでどこかに出かけたことなど一度もなかったのだが、石富も行きたい、と言うので行くことにした。
そうと決まれば、とえつみは晴希や木幡に連絡をし、OKの返事をもらい、さくさくと予定が決まった。
秋家も有利子に電話してみたのだが、春休み中で子供が家にいるので無理だと断られた。『もっと早く言ってくれれば誰かに預けたのに〜!』そう有利子は悔しがっていたが、こちらとしても急に決まったことなので、すみません、と謝るしかなかった。
なのでメンバーは店の人間5人、プラス、晴希の甥であり彼氏である少年、聖一と、その聖一の元彼女で、えつみの友達、弥生(やよい)の7人ということで決まった。
一時、晴希と弥生は聖一を挟んで揉めに揉めていたけれど、今はもう、たまに3人が店に揃う時でも、昔のように張りつめた空気は一切感じない。だから今日も、きっとみんなで楽しんでくれると思う。
だがとにかく、今日みんなが1番楽しみしているのは、石富の作るお弁当だろう。日頃のみんなへの感謝ということで、石富が全員分作ると言ったものだから、朝の6時半に起きて店の厨房で一緒に準備をした。
まだ完成していないから、帰ってからはその続きが待っている。
通り過ぎていくピンク色の風景を眺めながら、秋家は楽しみだな、と1人こっそり微笑んだ。
(命日の日に誰かといるなんて、初めてだ……)
今までずっと、2人の命日は1人で過ごしてきた。そうであるのが当然だった。
1人で墓参し、夜には1人で酒を飲み、そんな一日も悪くないと思っていたけれど。
だが西澤も、いつまでも秋家が1人で墓参に訪れるのを、心配してくれているはずだ。きっと今日、石富を連れて行ったら、草葉の陰でとても喜んでくれるだろう。
運転手の石富に場所を説明しながら、予定通り9時半頃墓地にたどり着いた。
途中で買ったしきびと、お供え物の和菓子、カップ酒、ウイスキーの小瓶を2つずつ、それと線香の入った袋を持って車から降りる。バケツに水を入れると、石富がそれを持ってくれた。
いつもなら西澤の命日と次郎の命日との間、2回くらいはお参りに来ていたのだけれど、石富とねんごろになってしまったばかりに、それがおろそかになってしまった。
申し訳ありませんと心から反省しつつ、5ヶ月ぶりに2人の墓の前に立った。
西澤家之墓。
秋家は石富に、彼らがオーナーであったことの説明はしてあるが、西澤と次郎の関係についてはまだ話していない。そして、今日は次郎の命日だと言ってあるから、墓石に彫られたその文字を見て、石富は少し、不思議そうな顔をしている。
「西澤家……?なぁ、今日は大内次郎さんの命日なんじゃないのか?」
「うん、次郎さんの命日だよ。そして次郎さんは、ここに眠ってる。西澤さんと一緒にね」
秋家は石富の方を見て、にこっと笑った。石富はちょっとだけ驚いた顔をしたが、すぐに納得した表情になって、そうか、と呟いた。
「あんまり驚かないね」
「んー…まぁ、そもそも、仏壇が並んで同じところにあるっていうの、不思議に思ってたしな」
「そっか、そうだね」
身内でもない人間のところに仏壇があるというのでさえ、すでにおかしいのに、さらに他人の仏壇が隣に置いてあるなんて、そりゃあ不思議に思って当然だろう。
「次郎さんの名前、本当は西澤次郎なんだ。2人は……紙の上では親子だけど、夫婦だったんだよ」
「……そうか。それで一緒に、お店やってたのか」
「うん……俺はね、西澤さんに、いっぱい助けてもらったんだ」
その時。
ふわっと春の風が吹き、頬を優しく撫でられた。足元で、小さな花びらが渦を巻くように流れていき、柔らかな暖かい空気を、肌に感じた。
(西澤さん、この人が、俺がずっと大好きだった人です。ずいぶん時間かかっちゃったけど、気持ちを伝えて、そしたら、同じ気持ちをくれました)
きっと今、2人は側にいる。
【More・・・】
春らしい、暖かな陽気に包まれた、4月7日。ぽかぽか暖かくて気持ち良くて、秋家は石富の運転するSUVの助手席でうとうとしていたが、頭がかくん、となったせいでハッと目を開けた。
「どうした、眠いのか?」
それを見ていた石富が手を伸ばしてきて、頭をよしよしと撫でてくれた。それがまた気持ち良くて、目を閉じたら本当に眠ってしまいそうだった。
最近は少し慣れてきたけれど、石富は割とスキンシップが多い。何かと秋家の体に触れてくることが多くて、最初の頃はいちいちドキドキして大変だったが、今は贅沢にも、触れてもらえることが当然の生活になっているので、“頭なでなで”くらいでは驚かなくなった。
「ん……ちょっと眠い。朝早かったし……」
「そうだなぁ。それに昨夜は……」
そこまで言うと石富は、髪に触れていた手でするりと頬を撫で、ちらっとこっちを見て意地悪そうに笑った。
「めちゃくちゃ疲れさせちまったしな」
「…っ……もう、ばか……」
秋家は昨夜のことを思い出して、顔を赤くした。
(エロおやじ……って、おんなじ年なんだけどね……)
なんなら秋家の方が誕生日は早いので、おやじというなら自分の方がそうなのかもしれない。でも最近、若くなったとか肌ツヤがいいとか、えつみによく言われるので、色々満たされてるせいかな、と思ったりする。
恥ずかしいけれど、若く見られるのはやはり嬉しいものだ。
ふぁ、と一度大きくあくびをして、秋家は視線を窓の外に向けた。すると、お花見スポットとして有名な公園が少し向こうに見えてきて、思わずわぁ、と声を上げた。
「見て、剣二!すごい!」
「お、満開だな。ちょうどいいじゃねーか」
「うん、晴れてよかった」
今日はお墓参りから帰ったら、お店のアルバイトの子達と一緒にお花見に行く予定になっている。
昨日えつみが、明日もし店長達の都合がいいなら、みんなでお花見に行こうと言いだした。オープンからこれまで、店のみんなでどこかに出かけたことなど一度もなかったのだが、石富も行きたい、と言うので行くことにした。
そうと決まれば、とえつみは晴希や木幡に連絡をし、OKの返事をもらい、さくさくと予定が決まった。
秋家も有利子に電話してみたのだが、春休み中で子供が家にいるので無理だと断られた。『もっと早く言ってくれれば誰かに預けたのに〜!』そう有利子は悔しがっていたが、こちらとしても急に決まったことなので、すみません、と謝るしかなかった。
なのでメンバーは店の人間5人、プラス、晴希の甥であり彼氏である少年、聖一と、その聖一の元彼女で、えつみの友達、弥生(やよい)の7人ということで決まった。
一時、晴希と弥生は聖一を挟んで揉めに揉めていたけれど、今はもう、たまに3人が店に揃う時でも、昔のように張りつめた空気は一切感じない。だから今日も、きっとみんなで楽しんでくれると思う。
だがとにかく、今日みんなが1番楽しみしているのは、石富の作るお弁当だろう。日頃のみんなへの感謝ということで、石富が全員分作ると言ったものだから、朝の6時半に起きて店の厨房で一緒に準備をした。
まだ完成していないから、帰ってからはその続きが待っている。
通り過ぎていくピンク色の風景を眺めながら、秋家は楽しみだな、と1人こっそり微笑んだ。
(命日の日に誰かといるなんて、初めてだ……)
今までずっと、2人の命日は1人で過ごしてきた。そうであるのが当然だった。
1人で墓参し、夜には1人で酒を飲み、そんな一日も悪くないと思っていたけれど。
だが西澤も、いつまでも秋家が1人で墓参に訪れるのを、心配してくれているはずだ。きっと今日、石富を連れて行ったら、草葉の陰でとても喜んでくれるだろう。
運転手の石富に場所を説明しながら、予定通り9時半頃墓地にたどり着いた。
途中で買ったしきびと、お供え物の和菓子、カップ酒、ウイスキーの小瓶を2つずつ、それと線香の入った袋を持って車から降りる。バケツに水を入れると、石富がそれを持ってくれた。
いつもなら西澤の命日と次郎の命日との間、2回くらいはお参りに来ていたのだけれど、石富とねんごろになってしまったばかりに、それがおろそかになってしまった。
申し訳ありませんと心から反省しつつ、5ヶ月ぶりに2人の墓の前に立った。
西澤家之墓。
秋家は石富に、彼らがオーナーであったことの説明はしてあるが、西澤と次郎の関係についてはまだ話していない。そして、今日は次郎の命日だと言ってあるから、墓石に彫られたその文字を見て、石富は少し、不思議そうな顔をしている。
「西澤家……?なぁ、今日は大内次郎さんの命日なんじゃないのか?」
「うん、次郎さんの命日だよ。そして次郎さんは、ここに眠ってる。西澤さんと一緒にね」
秋家は石富の方を見て、にこっと笑った。石富はちょっとだけ驚いた顔をしたが、すぐに納得した表情になって、そうか、と呟いた。
「あんまり驚かないね」
「んー…まぁ、そもそも、仏壇が並んで同じところにあるっていうの、不思議に思ってたしな」
「そっか、そうだね」
身内でもない人間のところに仏壇があるというのでさえ、すでにおかしいのに、さらに他人の仏壇が隣に置いてあるなんて、そりゃあ不思議に思って当然だろう。
「次郎さんの名前、本当は西澤次郎なんだ。2人は……紙の上では親子だけど、夫婦だったんだよ」
「……そうか。それで一緒に、お店やってたのか」
「うん……俺はね、西澤さんに、いっぱい助けてもらったんだ」
その時。
ふわっと春の風が吹き、頬を優しく撫でられた。足元で、小さな花びらが渦を巻くように流れていき、柔らかな暖かい空気を、肌に感じた。
(西澤さん、この人が、俺がずっと大好きだった人です。ずいぶん時間かかっちゃったけど、気持ちを伝えて、そしたら、同じ気持ちをくれました)
きっと今、2人は側にいる。
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