2008.03/23(Sun)
君と恋愛、海の色。1
#1
(※序盤はキリリクでご希望いただきました、『石富の過去編』になります)
海の水温は、例年のこの時期と比べたら高い方だろう。地球温暖化の影響と考えると少々複雑だが、いつもより早く波乗りのできる季節になったことは、素直に嬉しいと思う。いや、サーフィンが『できない季節』というのは存在しないのだから、『できる季節』という言い方も、本当は適当ではないのだが。
ただ個人的な事情で、寒い時期には海へ入ることを自粛している石富剣二にしてみれば、待ちに待った『できる季節』という表現に、どうしてもなってしまうのだった。
ボードに腹ばいに乗り、パドリングて沖へ進む。手で漕ぐ動作をパドリングというのだが、これで沖に出て波を見つけ、さらにこれをしてテイクオフ、つまり立ち上がって波に乗って初めて、サーフィン、と云える。
そしてパドリングには、かなりの体力を必要とする。腕力はもちろんだが、簡単にバテない基礎体力が必要だ。沖に出るだけならまだいいが、良い波を追いかける時に疲れていて逃しては、話にならない。そのため寒い、海に入らない時期でも、石富は筋力トレーニングを何年も欠かしていなかった。
そのおかげで、33歳の年など感じさせない、若い肉体を今でもキープできている。だが石富の本職は調理師なので、そこではあまりこの体を重宝することもないのだが。まぁ、丈夫なのでめったに病欠しない、という意味では、便利なのかもしれない。
やはりこの強くて丈夫な体を有効利用できるのは、趣味であるこのサーフィンと、あとはあの時――つまり夜に体力を使うアレの時だろうか。
(鍛えといてよかったよなぁ……)
そして石富の意識は、今砂浜で石富を見ているだろう恋人・秋家尚和の元へと向かっていった。
昨夜も休みの前日だからと、いつものようにむちゃくちゃしつこく秋家を抱いた。体力のない秋家はすぐにばてて、最後の方には目も開けられなくなり、だらんと四肢を伸ばしたまま息を上げていたのだが、それでも離さず抱き起こし、至るところを舐めて吸って触って揉んで……本気で嫌がられるまで続けた。秋家のことを思うと、体力あり過ぎなのも問題かもしれないけれど。
(あいつちょっと弱いからなぁ……まぁ、そこが面白いんだが……)
昨夜の秋家の艶態を思い出し、にへら、と顔を緩ませたら、手がおろそかになり波に押し戻されそうになった。慌ててがつがつパドリングをし、石富はエロい思考を飛ばして海に集中し、沖に目を凝らせる。
秋家にかっこ悪いところは見せたくないし、浜には秋家以外にもサーフィン仲間が何人か見ているだろうから、無様なさまは見られたくない。
(久しぶりだし、とりあえずキレたの来ねーかな……)
そう思いながら漕ぎ続けていた石富は、沖から来るきれいな波に目をつけた。漕ぐ手のスピードを一気に速くして、その波を追いかけ、そしてボードが波に押され、滑りだす――石富はボードに手をついて、上体を起こして立ち上がった。
テイクオフ。サーフィンをしていて、1番気持ちのいい瞬間だ。
波に乗ったら、あとはバランスを保ち横に移動していく。久しぶりだけど、体は感覚を覚えていて、石富自身も波に乗っている時のこの高揚感を、コレだ、と思い出した。
やはり、とても楽しい。
だが石富は、サーフィンを趣味以上のものにしようとは思っていない。仲間にはテストを受けてはどうか、と勧められるが、練習に割く時間もないし、何よりテストの日が天候や波の状態で変更になることもあるので、それではあまりに仕事へ影響し過ぎる。
石富には、調理師の自分とウィンド・ベルの方が大事なのだ。
「ふぅ……」
ボードを抱え海から上がった石富は、秋家と仲間のいるところへ戻った。秋家はタオルを渡してくれてから、笑顔で石富を褒めてくれた。
「やっぱ剣二すごいね。かっこよく見えたよ」
「見えた、ってこたねーだろ。普通に、かっこよかったって言えや」
「うん、普通にかっこよかった」
「………いや、普通に、はいらねーだろ……」
「そう?」
わざとおかしな言い方をして、とぼけたふりで横を向いた秋家は、すぐに視線をこちらに戻し、ちらっと石富を見上げた。
目が合って、吹き出すように笑ってから――これが家なら抱き締めているところだが、今は2人ではないので、コンと軽く頭を小突いてやる。秋家はへへ、と笑ってから、嘘だよ、と言った。
「かっこよかった、ホントに」
「……当然だろ。誰だと思ってんだ」
「うわー、イヤな人だよ」
本気で褒められたら褒められたで照れてしまう石富は、自意識過剰な発言をしてそれを隠した。
秋家と恋人として付き合うようになって早4ヶ月。今もラブラブ絶好調、毎日が本当に楽しくて幸せで、石富の人生観はこれまでと全く変わった。今までの時間を無駄とは言わないが、こんな幸せも知らずにいたのかと考えると、ただただ、もったいないと思う。
もっと早く知っていれば……例えば高校生の晴希と聖一のように、16歳の時に想いが通じ合っていれば、もっとたくさん抱き締めることができた、もっとキスすることも、抱くこともできた。そう考えてしまう自分がいて、そしてひたすら『もったいない』という気持ちになる。
むろんそんなこと、今更どう強く思ったところで詮無いことなど承知している。
だが、あの時こうしていれば何か変わっていただろうか、もっと早く自分の気持ちに気付いていれば、あの空白の時間が訪れることはなかったのだろうか――そういう、“もしも”を想像して、石富は時々、あの当時の苦しみを思い出す。
側にいることが当たり前だった存在が、消えたあの日。
あの時の衝撃を、石富は今も、忘れてはいない。
「剣二、コーヒー飲む?あったかいの」
「ああ」
砂浜に置かれたビーチチェアに座り、石富は海を眺めた。
サーファー達が滑っているさらに沖に、ディンギーと呼ばれる小型のヨットが数艘浮かんでいる。風のみを動力とした、1人〜2人乗り用の小型のヨット。
(なおと一緒にアレ乗ってもいいなぁ……)
夏になったら、誘ってみようか。そう思っていると、紙コップに注がれた湯気の立つコーヒーを、手元に差し出された。
「はい。熱いから、気をつけてね」
「サンキュ」
秋家は石富にコーヒーを渡すと、自分も紙コップを持って隣のチェアに腰を下ろし、フーフーと唇を尖らせてコーヒーを冷ます。
昔と変わらない、その横顔を眺めながら、石富は愛しさと、そして懐かしさに目を細め、再び視線を海に戻した。
(※序盤はキリリクでご希望いただきました、『石富の過去編』になります)
【More・・・】
4月。海の水温は、例年のこの時期と比べたら高い方だろう。地球温暖化の影響と考えると少々複雑だが、いつもより早く波乗りのできる季節になったことは、素直に嬉しいと思う。いや、サーフィンが『できない季節』というのは存在しないのだから、『できる季節』という言い方も、本当は適当ではないのだが。
ただ個人的な事情で、寒い時期には海へ入ることを自粛している石富剣二にしてみれば、待ちに待った『できる季節』という表現に、どうしてもなってしまうのだった。
ボードに腹ばいに乗り、パドリングて沖へ進む。手で漕ぐ動作をパドリングというのだが、これで沖に出て波を見つけ、さらにこれをしてテイクオフ、つまり立ち上がって波に乗って初めて、サーフィン、と云える。
そしてパドリングには、かなりの体力を必要とする。腕力はもちろんだが、簡単にバテない基礎体力が必要だ。沖に出るだけならまだいいが、良い波を追いかける時に疲れていて逃しては、話にならない。そのため寒い、海に入らない時期でも、石富は筋力トレーニングを何年も欠かしていなかった。
そのおかげで、33歳の年など感じさせない、若い肉体を今でもキープできている。だが石富の本職は調理師なので、そこではあまりこの体を重宝することもないのだが。まぁ、丈夫なのでめったに病欠しない、という意味では、便利なのかもしれない。
やはりこの強くて丈夫な体を有効利用できるのは、趣味であるこのサーフィンと、あとはあの時――つまり夜に体力を使うアレの時だろうか。
(鍛えといてよかったよなぁ……)
そして石富の意識は、今砂浜で石富を見ているだろう恋人・秋家尚和の元へと向かっていった。
昨夜も休みの前日だからと、いつものようにむちゃくちゃしつこく秋家を抱いた。体力のない秋家はすぐにばてて、最後の方には目も開けられなくなり、だらんと四肢を伸ばしたまま息を上げていたのだが、それでも離さず抱き起こし、至るところを舐めて吸って触って揉んで……本気で嫌がられるまで続けた。秋家のことを思うと、体力あり過ぎなのも問題かもしれないけれど。
(あいつちょっと弱いからなぁ……まぁ、そこが面白いんだが……)
昨夜の秋家の艶態を思い出し、にへら、と顔を緩ませたら、手がおろそかになり波に押し戻されそうになった。慌ててがつがつパドリングをし、石富はエロい思考を飛ばして海に集中し、沖に目を凝らせる。
秋家にかっこ悪いところは見せたくないし、浜には秋家以外にもサーフィン仲間が何人か見ているだろうから、無様なさまは見られたくない。
(久しぶりだし、とりあえずキレたの来ねーかな……)
そう思いながら漕ぎ続けていた石富は、沖から来るきれいな波に目をつけた。漕ぐ手のスピードを一気に速くして、その波を追いかけ、そしてボードが波に押され、滑りだす――石富はボードに手をついて、上体を起こして立ち上がった。
テイクオフ。サーフィンをしていて、1番気持ちのいい瞬間だ。
波に乗ったら、あとはバランスを保ち横に移動していく。久しぶりだけど、体は感覚を覚えていて、石富自身も波に乗っている時のこの高揚感を、コレだ、と思い出した。
やはり、とても楽しい。
だが石富は、サーフィンを趣味以上のものにしようとは思っていない。仲間にはテストを受けてはどうか、と勧められるが、練習に割く時間もないし、何よりテストの日が天候や波の状態で変更になることもあるので、それではあまりに仕事へ影響し過ぎる。
石富には、調理師の自分とウィンド・ベルの方が大事なのだ。
「ふぅ……」
ボードを抱え海から上がった石富は、秋家と仲間のいるところへ戻った。秋家はタオルを渡してくれてから、笑顔で石富を褒めてくれた。
「やっぱ剣二すごいね。かっこよく見えたよ」
「見えた、ってこたねーだろ。普通に、かっこよかったって言えや」
「うん、普通にかっこよかった」
「………いや、普通に、はいらねーだろ……」
「そう?」
わざとおかしな言い方をして、とぼけたふりで横を向いた秋家は、すぐに視線をこちらに戻し、ちらっと石富を見上げた。
目が合って、吹き出すように笑ってから――これが家なら抱き締めているところだが、今は2人ではないので、コンと軽く頭を小突いてやる。秋家はへへ、と笑ってから、嘘だよ、と言った。
「かっこよかった、ホントに」
「……当然だろ。誰だと思ってんだ」
「うわー、イヤな人だよ」
本気で褒められたら褒められたで照れてしまう石富は、自意識過剰な発言をしてそれを隠した。
秋家と恋人として付き合うようになって早4ヶ月。今もラブラブ絶好調、毎日が本当に楽しくて幸せで、石富の人生観はこれまでと全く変わった。今までの時間を無駄とは言わないが、こんな幸せも知らずにいたのかと考えると、ただただ、もったいないと思う。
もっと早く知っていれば……例えば高校生の晴希と聖一のように、16歳の時に想いが通じ合っていれば、もっとたくさん抱き締めることができた、もっとキスすることも、抱くこともできた。そう考えてしまう自分がいて、そしてひたすら『もったいない』という気持ちになる。
むろんそんなこと、今更どう強く思ったところで詮無いことなど承知している。
だが、あの時こうしていれば何か変わっていただろうか、もっと早く自分の気持ちに気付いていれば、あの空白の時間が訪れることはなかったのだろうか――そういう、“もしも”を想像して、石富は時々、あの当時の苦しみを思い出す。
側にいることが当たり前だった存在が、消えたあの日。
あの時の衝撃を、石富は今も、忘れてはいない。
「剣二、コーヒー飲む?あったかいの」
「ああ」
砂浜に置かれたビーチチェアに座り、石富は海を眺めた。
サーファー達が滑っているさらに沖に、ディンギーと呼ばれる小型のヨットが数艘浮かんでいる。風のみを動力とした、1人〜2人乗り用の小型のヨット。
(なおと一緒にアレ乗ってもいいなぁ……)
夏になったら、誘ってみようか。そう思っていると、紙コップに注がれた湯気の立つコーヒーを、手元に差し出された。
「はい。熱いから、気をつけてね」
「サンキュ」
秋家は石富にコーヒーを渡すと、自分も紙コップを持って隣のチェアに腰を下ろし、フーフーと唇を尖らせてコーヒーを冷ます。
昔と変わらない、その横顔を眺めながら、石富は愛しさと、そして懐かしさに目を細め、再び視線を海に戻した。
●秘密コメのMさまへ
遠麗 | 2008.03.26(水) 00:21 | URL | コメント編集
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
| 2008.03.24(月) 20:50 | | コメント編集
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そう言っていただけるとすごく嬉しいです(*^^*)
本当にがんばれます!
皆さまが少しでも楽しんでいただけるよう、がんばって書きたいと思います。
この度は温かなコメントありがとうございました☆