2008.03/31(Mon)

君と恋愛、海の色。5

#5

【More・・・】

 それから数日後、石富は秋家の家に電話をかけた。だが母親が出て不在であることを伝えられ、いつものように掛け直してくるだろうと思っていたのだが、3日待っても4日待っても、秋家から電話がくることはなかった。

 石富はもう一度秋家の家にかけてみたのだが、また留守だった。帰ったら伝えておくわね、と秋家の母親に言われ、お願いします、としぶしぶ受話器を置いた。だがまたしても秋家からの電話はなくて、しつこいかな、と思いつつももう一度かけてみた。するとまた、出かけていて留守だと言われた。

(なんなんだよ……)

 秋家と、連絡が取れない。
 携帯電話はおろか、ポケットベルもまだ無かったような時代だ。家にもいないうえに、電話もかけてこないとなれば、それ以上はどうすることもできなかった。

 不安と苛立ちにどうにも落ち着けず、秋家が行きそうなところを回ってみたりした。本屋、図書館、ゲーム屋、雑貨屋……他にも秋家が気に入っていた店とか、一緒に行ったことのある喫茶店やお好み焼き屋、レンタルビデオ屋も、ゲームセンターも行ってみた。
 でも、どこに行っても会うことはなかった。

 その後、できるだけ家にいるようにして待った電話もかかってこず、ムカついて意地になって、石富も電話をかけないまま、3月も終わりが近づいた。
 ひどく沈んだ気分で引越しの準備をし、4月になって石富は専門学校の近くに借りたアパートに引っ越した。電話も引いてもらって、そしてその番号を、もし秋家から電話があったら教えといてくれ、と母親に頼んだ。

 だが忙しいのか遊んでいるのか、その後も秋家から電話がくることはなく、石富は最悪の気分で専門学校の入学式を迎えた。
 慣れない環境に、最初は戸惑うことも多かったが、周りは同じ夢を持つ人間ばかりだし、元々の性格も手伝って、石富はすぐに順応した。

 だが頭の中にはいつも秋家のことがあり、連絡をくれないことへの苛立ちが極限にきた4月下旬。もうすぐ秋家の誕生日ということもあって、平日の夜なら居るかもしれないと思い、石富は1ヶ月ぶりに秋家の家に電話をかけた。

「こんばんは、お久しぶりです。石富です」
『あ、ら……剣二くん……お久しぶりね。元気?』

 久しぶりに聞く秋家の母親の声は、どこかよそよそしい感じがした。長いこと連絡しなかったから、ビックリしているのかもしれない。

「はい、なんとか元気でやってます。あの、なお居ますか?」
『あ……尚和ね……その、剣二くん……あの子と、ケンカでもしたの……?』
「は……?」

 意味がわからなかった。ケンカなんて、今まで一度だってしたことがないのに、なぜそんなことを聞くんだろう。

「いえ、してませんけど……どうしてですか?」
『……あの子が、一人暮らししてること、知ってるの?』
「え………」

 最初は、秋家の母親の言っていることがよくわからなかった。頭よりも先に心臓がドクドクと早く打ち始め、そして徐々に、それが何を意味するのか、脳が理解を始める。つまり、秋家は家を出ているということで、よく遊びに行ったあの家には、もういないということ……。
 
『知らないんでしょ……?』
「あの、なんで…っ……だって、C大でしょ……?家から通えるじゃないですか……!」
『…………違うのよ、東京に行ったのよ、あの子』
「と、なん………」
 
 東京、なんで、と言おうと思ったが、うまく言葉にならなかった。口をパクパクとさせるが、なんと言っていいかわからず、頭の中が砂嵐になったように思考が混乱する。

 これは、どういうことだろう。どういう、状況だろう。
 なおが、どこに行ったって――?

『剣二くん、あの子の住所教えるから。本当はね、言わないで、って言われてるんだけど……そんなことできないわ』
「え……」

 言わないで、と言われてる、だって……?

(……そうか……そう、なんだな……)

 その言葉で、全てが理解できた気がした。
 石富は、ぎりっと歯を食いしばり、そしてできるだけ温厚な声を出したつもりだったが、それは低く、唸るような響きで、電話越しに秋家の母親の耳へ届いた。

「………あの、おばさん。いいです、もう。夜分に、失礼しました」
『え!ちょっと、剣二く……』

 何か言っていたけれど、石富は受話器を置いた。そしてギュッと、深爪している爪が肉に食い込むほど、強く拳を握りしめた。

(なお……!)

 嘘を、ついた。大学も、一人暮らしも。
 そして、石富に本当のことを言わぬよう、母親に口止めまでしていた。

 つまり。

(俺から、逃げたのか……!!)

 避けられている、なんてレベルではない。これは完全に、拒絶だ。

 秋家の母親は、住所を教えてくれようとしていたが、石富はそれを聞く気にはなれなかった。
 問題なのは、石富が知らないことではなく、秋家が嘘をついたことだ。たとえ住所を教えてもらったとして、それでどうしろというのだろう。

 行くのか?家に行って、秋家を責めろとでもいうのか。なぜ逃げたのか、理由を問いつめろとでも?
 そんなことをして、一体なんの意味があるんだ。一体、なんの――

「くそ……っ」

 秋家の母親を恨んだって仕方がない。彼女はただ自分の子供と、そして石富を心配して教えてくれようとしただけなんだから。
 
 ぎり、と再び歯を食いしばり、怒りと悲しみに満ちた目で壁を睨みつけた。どん!と、握りしめた拳を壁に打ちつけ、やり場のない激しい感情を壁にぶつける。

「なお……!なお!!」

 悔しくて、つらくて、腹が立って、ひどく悲しい。自分は、秋家に逃げられるほどの何かを、してしまったんだろうか。知らない間に、1番大事な人間に、逃げられるようなことを。

 どん、どん、と何度も拳を打ちつけていると、指の甲の皮が破れ、白い壁紙に少し血がついた。痛い、でも、心臓の方が、もっと痛い。左手でTシャツの胸元を握りしめ、右手で壁を殴りつける。すると、隣の住人が怒ったのか、どん、と壁を1回蹴ってきた。

「はっ……怒ってんのか……?悪いが俺の方が怒ってんだよぉ!!」

 どぉん!と、力を込めて思いきり拳を壁に打ちつけると、安普請(やすぶしん)なアパート全体が、少し揺れたような気がした。

「なお……なんでだよ……なんで……」

 なんで、逃げたんだ。
 
 気がつくと、石富は泣いていた。俯くと、ぽたりと畳に雫が落ち、自分が泣いていることに気が付いた。

「くそったれ……」

 これは秋家に言ったのか、自分に言ったのか、よくわからない。

 隣の住人は、もう蹴り返してはこなかった。
 石富も、皮の破れた手が痛くて、もうそれ以上は殴れなかった。そして最後の一撃で、壁には拳の形に、赤黒い染みができていた。

「なお………」

 静かなアパートの部屋に、寂しげに呟かれた言葉が響いて、広がって消えた。

――剣二、今までずっと、ありがとう。がんばってね、応援してるから。ホントに、ありがとうね……じゃ、バイバイ……!

 最後に会った時の、最後の秋家の言葉を思い出した。あれは、こういうことだったのか、と。

 そして。
 1番大切な人間が、いなくなった。何も言わずに、ありがとう、とだけ言い残して、石富の前から消えた。

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

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Comment

●唯香様

いらしゃいませ〜♪
お時間できてなによりですw

それにしてもひどい展開ですよね、我ながらw
書いててブルーだわ…
でもまぁ、この時期があったから今の幸せがあるということでw(無理矢理)
剣二スキーの唯香さんには少々おつらい流れかもですが、今後もよろしくお願いしますw

コメントありがとうございました(^-^)
またお越しくださいネ♪
遠麗 | 2008.04.02(水) 04:40 | URL | コメント編集

●ひろさま

コメントありがとうございます☆
アホですわね、確かにw
秋家も……でも後々じい様に注意をされるのでw
この時点ではこれが精一杯だったんですねw
いろいろ難しいのです><

まだこんな展開続くかもしれませんが(…)、またお越しください。
ありがとうございました☆
遠麗 | 2008.04.02(水) 04:35 | URL | コメント編集

●管理人のみ閲覧できます

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 | 2008.04.01(火) 03:02 |  | コメント編集

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 | 2008.04.01(火) 02:19 |  | コメント編集

●んまぁぁああああっ!!(>_<)

久々に!たまってた分を一気読みさせていただいたら…剣二〜〜〜!!な展開じゃございませんか(号泣)
いえね…わかってるんですよ。2人が結ばれる事はもちろんね!
しっか〜し!切ないよ〜〜悲しいよ〜〜(>_<)
剣二ファンとしては、痛くて痛くてたまりませぬ……。
あとで、本編のラスト部分を読み返しに行こうと、マジで考えちまいましたから!(笑)
水城 | 2008.04.01(火) 02:03 | URL | コメント編集

アッポな石富・・・でも可哀相(涙)
秋家も姿を消す決意をしたなら、思いを全部ぶちまけてサヨナラすれば良かったのに。
言葉にするって難しいのよねぇ〜
結果を知っていても、後ろからケリ入れたろか!と思っちゃう。
ひろ | 2008.03.31(月) 23:50 | URL | コメント編集

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