2008.04/02(Wed)

君と恋愛、海の色。6

#6

【More・・・】

 心にぽっかり穴があいたよう。

 まさに、そんな気分だった。ひどい喪失感に、心が死んだみたいに動かなくなった。

 秋家が消えた理由はわからない。でも、少なくとも、逃げたくなるくらいの原因が、石富にあったことだけは間違いない。それだけは、ちゃんと受け止めようと思った。

 そして石富の日常は、全く色のないものになった。
 学校へ行く。勉強をする。バイトをする。友達と遊ぶ。表面上は、今までと変わりなく、気さくで明るい自分を演じながら、心の中の大きな空洞を、少しでも埋められる方法を探した。

 だが不思議と、彼女を作ろうとは思わなかった。まるでいなきゃいけないかのように次から次へと付き合っていたが、今は全くそんな気が起こらない。

 そうやって、ひどく沈んでいる時。何を考えているのか、一矢がサーフボードを持って、突然家にやって来た。
 自分の身長より長いロングボードを持って、せまい部屋に上がりこんできた一矢は、座るなり一方的に話をし始めた。

「オレなぁ、サーフィンしようと思ってコレ買ったんだけどもよ。あんな難しいとは思わなかったわ。ぜってームリだっつの。だからコレ、お前にやるわ。弟割引で特別に10万にまけといてやるよ。ウェットスーツとワックスも付けてだからお得だろ?でもまぁ、お前金ないからな……出世払いにしといてやるから、就職したら払えよ」

 モテるかと思ったんだけどなぁ……兄はそう言い置いて、ついでにサーフボードも置いて、帰って行った。部屋せまいんだからいらない、持って帰れ、と言ったのに、弟の言い分は無視だった。
 そのまましばらく放置していたのだが、何事も形からの一矢らしく、ボードのデザインはかなりかっこよかった。無理矢理とはいえ、高い買い物をしたわけだし、せっかくだからやってみようか、と思い、本を買ってとりあえず知識だけ頭に入れ、海に行った。

 でもいざ実践してみたら、一矢の言う通り本当に難しかった。何度も挑戦していると、同じような初心者の人に声をかけられ、そしてその彼は、自分の友達も紹介してくれた。それが今も仲良くしている、サーフィン仲間のみんなである。

 その中の上級者の人に教えてもらい、少しずつ上達していくのが自分でわかると、楽しいと思うようになった。そして気がつくと、石富はサーフィンにハマっていた。休みの日は必ず海へでかけ、立てるように練習した。初めてちゃんと波に乗って滑れた時は、ずいぶん興奮したのを覚えている。

 そうやってサーフィンに没頭している間は、秋家のことを考えないですんだから、石富はできるだけ海に通った。家に1人でいると、どうしても考えてしまうから。

 学校と海ばかりの生活を送っているこの時期に、後の妻、久美子とも出会った。学校の友人に、女子大生と飲み会があるから来ないか、と誘われて、暇つぶしに行ってみた。
 きれいに着飾った女の子達の中で、久美子だけがなぜかジャージを着ていた。当然、なんだこの女、と気になって、なんでジャージ?と聞いたら、大学で作業してそのまま来たから、としれっと答えた。
 
 さらに久美子は、タバコは吸うわ、ビールも酎ハイも日本酒もなんでも飲む大酒豪だわで、男連中は完全に引いていたが、石富は、おもしろい女だと思って興味が湧いた。それから、しばらく友達みたいな付き合いをするうちに、自然と恋人関係になっていた。

 男みたいな性格の久美子は、ものすごく付き合いやすかった。だから専門学校の2年間のカリキュラムを終え、レストランに就職した後も、久美子との付き合いは続いた。今までの自分からは考えられなかったが、こうも長く付き合えた1番の要因は、とにかく気を使わないでいられたことだろうと思う。

 しばらく連絡をしなくても特に気にしないし、休みの日は絶対会いたい、とも言わないし、約束をしていても、仕事で無理になった場合は、しょうがないわね、と文句も言わずに聞き分ける。それに、私のこと好き?などと聞いてくることもなくて、本当に楽だった。

 気は使わなくていい、一緒にいても疲れない、付き合ってても楽。久美子のことは今まで付き合った女の中では1番好きだし、もちろんセックスもする。だから、石富はこの気持ちを、恋愛だと思っていた。
 秋家のことで悩んでいた14歳の時。一矢は、確かにこう言った。

――セックスできる『好き』が恋愛だ。

 セックスはできるし、好きだとも思う。だったら、久美子への気持ちはたぶんそうで、だから長く付き合うこができるのだと、そう思っていた。

 そうして、息苦しく思うこともないから別れる理由もなく、気付けば6年も付き合っていて、実家にも連れて行ったりしてたから、母親は久美子のことを気に入っていた。だから結婚を勧められ、そのうえ、うちに一緒に住みなさいとまで言い出した。

 本来なら、長男である一矢が同居するものなのだろうが、如何せん一矢はいい加減だった。20歳の時に彼女が妊娠したと言って、双方の親にろくな報告もないまま勝手に入籍し、その1年後に離婚した。そしてその2年後、子供ができた、とまたしても報告なしに入籍し、今はその2番目の妻と3人の子供と暮らしている。たまに子供だけ連れて一矢は実家に帰ってくるが、妻は一度として来たことがない。
 非常識も甚だしい長男の嫁を、母親は嫌っていた。だから、気に入っている久美子に家に入ってほしい、とそう思っているようだった。

 それが、少し重い、と感じつつも、もうすぐ26歳という年齢や、久美子の親が乗り気だったこともあり、お互いの両親に流されるように、結婚が決まった。

 招待状を送る人間を決めている時、石富は、秋家に送ろうかどうか迷った。今どこにいるのか知らないが、実家に送れば必ず母親が知らせてくれるだろうとは思う。だからこそ、迷った。
 来ないかもしれない。でも、もし来たら……?どう接すればいいのかわからない。

 結局、秋家に招待状は送らなかった。そして少し、嫌なことを考えてしまった。
 招待した誰かが、どこかで偶然秋家に会ったら、石富が結婚したことを言うかもしれない。そしたら、秋家は少しでも傷ついてくれるだろうか。そうであればいいと、歪んだ心で思った。

 そして、結婚の話が出て半年後、石富は久美子と結婚して、実家に住むようになった。仕事場が少々遠くなったが、気を使わない久美子との暮らしはなかなか楽しかったし、母親もやたらと機嫌がいいので、こういうのも悪くない、と思った。
 このまま、いずれ子供でもできて忙しく暮らしているうちに、秋家のことも思い出さなくなるかもしれない。忘れることはないだろうけど、時々思い出して懐かしいと感じる過去の出来事の一つに、できるかもしれない……。

 でも、そう考えたら、なぜか胸が痛かった。

 そして、結婚してから2ヵ月半後の11月の終わり頃。
 突然、その電話はかかってきた。

 その日石富は仕事が休みで、朝から海へ出かけていた。でも寒い時期には海へ入らないと決めているので、友人達の滑りを見たり、みんなと話してご飯を食べたりして、夜に家に帰ってきた。
 そして、玄関まで出迎えてくれた久美子が言った言葉に、石富の心臓は止まりそうになった。

「おかえり。あんたに電話あったわよ。秋家さんて人。実家にかけてくるなんて、携帯番号教えてないの?」

 どくん、と一つ、激しく打ち鳴った鼓動。

「……でかけてくる」
「え、ちょっと剣二……」

 石富はそのまま、くるりと反対を向き、外に出た。

(なおだ、なおが電話してきたんだ……!)

 無意識に石富は、秋家の家に向かっていた。今家にいるかどうかわからない。でも、電話じゃだめだ、と思った。

 気が、急いていた。早くしないと、早く、会いにいかないと――

 かつて通い慣れた道を、石富は8年ぶりに走っていた。

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

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Comment

●遊さま

はじめまして、遊さま☆
ご訪問&コメントありがとうございます(*^^*)

きゅんきゅんしてくださいましたか〜♪
すごく嬉しいお言葉です!

もっときゅんとくる展開目指してがんばりたいと思いますので、またお越しくださいませね(*^^*)
どうもありがとうございました☆
遠麗 | 2008.04.04(金) 00:43 | URL | コメント編集

●初めまして!

初めまして!
ちょっと前からこっそり読んでました><

すす素敵なお話ばかりで読む度、きゅんきゅんさせてもらってます(*´Д`)


石富さん(´∀`)ぽ
いいですね!この展開!知ってても胸が高鳴ります><

ではでは。これからも素敵なお話期待してます!
遊 | 2008.04.03(木) 12:14 | URL | コメント編集

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