2008.04/22(Tue)

君と恋愛、海の色。13

#13

【More・・・】

「……じ、剣二っってば」
「………え?」

 水平線を眺めながら昔のことを思い出していた石富は、自分を呼ぶ恋人の声でふと我に返った。

「どうしたの?ボーっとしちゃって」
「んー?ああ、ちょっとなぁ……浸ってた」
「何に?」
「なんかこう……走馬灯的な、あれだ」
「ぷっ……なにそれ」

 秋家はコーヒーを吹き出しそうになりながら、けらけらと笑った。その笑顔を見て、石富もつられてははっと笑う。石富と付き合うようになってから、秋家はよく笑うようになった。それまでは、口を開けて笑うところなどそう見ることはなかったのに、今では毎日、当たり前のように笑ってくれる。

 そういう、秋家の幸せそうな笑顔を見る度に、心を満たしてあげられているというのが実感できて、石富もまた、それで幸せになれる。

 石富は、秋家の告白を聞いたあの日から、もう絶対に苦しい思いはさせない、と固く心に決めていた。自分達がこんなにも遠回りをしてしまった原因は、なにより石富の鈍感さにある。
 そのせいで秋家を追い詰めてしまっていたのだから、これから先は、いつも笑っていられる毎日にしてあげたい。そのためなら、石富はなんだってするだろう。

(俺はこいつがいれば、他には何もいらねーんだ)

 きれいに笑う、世界一好きな顔を眺めていたら、今この瞬間、もっと秋家を好きになった。もうこれ以上ない、と思うのに、いつもこうして、何回も好きなっている。
 想いの深さに、際限なんてないのかもしれない。気持ちは続くのではなく、その一瞬一瞬に重なっていくものだと、石富は思う。

「……さて、そろそろ帰るか」
「うん、わかった」

 石富は仲間のところに行き、1人の男に声をかけた。

「おぅ、智祐(ともすけ)、シャワー借りるぜ」
「え、なんだよ、けんちゃん。もう帰んの?」

 御田(みた)智祐は石富より2つ年下で、サーフィン仲間の中でも1番の友達だった。15年前、一矢に無理矢理サーフボードを買い取らされ、とりあえず海に来て波に挑戦していた石富に声をかけてくれたのが、この智祐だった。
 当時はまだ高校生で、石富と同じド素人だった智祐だが、今やプロサーファーとして第一線で活躍している。ランキングも常に上位にいるようで、業界ではかなりの有名人らしい。

「ああ、明日も早いんでなァ。久々で疲れたし」

 お湯の入ったポリタンクにシャワーポンプを取り付けると、簡易シャワーができあがる。さすがにまだ水を浴びるには冷たいので、寒い時期には皆ポリタンクでお湯を持ち込んでいるのだ。
 だが冬は海へ入らない石富は、わざわざ買うのももったいないとケチなことを考え、いつもこうして智祐や誰かに貸してもらっている。

 だから一応遠慮をして、髪の毛以外は軽く流す程度ですませて、石富は秋家が渡してくれたタオルで体を拭いた。

「なんだ、つまんね。じゃあ来週は来る?水曜、ちゃんと仕事休むの?」
「んー?来週か……ダメだ。来週は来れねぇや」
「え〜、そうなの?じゃあ、そん次は来てよね」
「ああ、わかったよ」

 智祐は残念そうに肩を落としたが、ふっと横を向いて海に目をやった途端顔つきが変わり、慌ててボードを抱えると海へ走って行った。

「じゃあねー、けんちゃん!なおさんも!」

 途中でこちらを振り返って石富と秋家に手を上げると、水に入った智祐は一気に沖へと向かっていった。

「どうしたんだろう、急に……」

 秋家はわけがわからずビックリしていたが、石富は一応、その理由がわかった。

「波だよ。いいの来たんだろ」
「そうなの?何が違うのかわかんないや……」
「まぁ、そりゃ当然だ。さ、帰るぞ」
「うん」

 石富と秋家は智祐に手を振り、他の仲間に帰るよ、と声をかけてから車に向かった。ボードをルーフキャリアに固定し、リアシートで着替えをしてから、石富は運転席に乗りこむ。

「はぁ、疲れたなぁ……」

 ぐったりとシートにもたれて思わずそう声に出してしまったら、秋家が心配顔でこちらを見た。

「俺が運転しようか?」
「いや、いいよ。心配すんな」
「でも、疲れたでしょ?」
「大丈夫だよ、んな顔すんなって」

 心配そうに眉を曇らせている秋家の頬を、手を伸ばしてぷにっと軽くつねってやる。柔らかいその感触に、石富はふと、キスがしたくなった。でも外はまだ明るいし、人の姿もある。あまり場所をわきまえない行動をしたら、秋家は恥ずかしい、と怒って、けっこう長い時間拗ねられてしまう。だから、帰るまでは我慢しないといけない。

 キスしたい気持ちを抑え、石富は指でちょんちょん、と頬をつつくと手を引っ込め、愛車のサイドブレーキを引いた。

 車を発進させ、まだ混んでいない海沿いの道を走る。傾きかけた太陽の光に海面がキラキラと輝いていて、まるで小さなダイヤをばら撒いたかのような、きれいな風景だった。

 海を出てからずっと会話はなかったが、こういう沈黙も苦にならない心地いい空気が、今の自分達の間にはできていた。ただこうして、お互いを側に感じていれば、何も話さなくても安心できる。
 だが今は、なにやら少々、2人の間で思い違いが起きていて、秋家の居心地はよくないようだった。

「……ねぇ、剣二」
「ん?」

 ずっと窓の外を眺めて静かだった秋家が、視線は外のまま、石富に話しかけてきた。

「来週、休みの日、用事あるの?」
「来週?」
「さっき、智祐くんに、来週は来れないって……」
「ああ、来週は行けない」

 当然だろう、と石富がきっぱり言うと、秋家は落ち込んだようになり、さっきより声が小さくなった。

「どうしても、ダメなの?」
「ああ、ダメだ……つーかなに、お前そんなに海行きてーの?」
「そうじゃ、なくて……ねぇ、なんの用事?実家帰るの?」
「はぁ!?」

 ここで、やっと秋家が何か勘違いをしているということに気がついた。わかっているものだと思ってあえて確認など取らなかったが、秋家はまだ、こういうことに関しての自信がないらしい。

「バカ!おめぇの誕生日だろーが!実家帰るってなんだそりゃ!」
「え、えぇ!?」

 秋家は驚いたような声をあげ、くるりとこちらを振り向いた。目をぱちぱちさせながら、石富を見つめる。

「いや、誕生日は、そうなんだけど……あの、用事って……そっか、家の用事とかじゃなかったの……俺、誕生日なのに、一緒にいられないのかな、って思っちゃって……そっか、用事は、俺のことだったんだぁ……」

 よかったぁ、と胸に手をやり、秋家はくたっとシートにもたれかかった。

 4月30日は、秋家の誕生日である。石富は当たり前のように一緒に過ごすつもりだったから、約束などは特に必要ないと思っていたのだが……秋家は、石富の用事が個人的なものだと思って、一緒にいられない、と勝手に落ち込んでいたのだ。

「このバカ。なんでいっつも一緒にいるってーのに、誕生日に限ってよそ行ったりすんだよ。お前それ、俺すげェひどいヤツじゃねーか」
「あはは、ごめんね」

 ちゃかすように言ってやると、安心したのだろう秋家は、白い歯を覗かせて楽しそうに笑った。

「ありがとう、剣二。一緒にいてくれるんだね」
「ったりめーだろ。すんごい誕生日にしてやるよ」
「ふふ、楽しみにしてる」
「おぅ、まかせとけ」

 1週間後は、秋家の誕生日。
 楽しみで幸せで、このままもう、何事もなく日々を過ごせると思っていたのだが――。

 2人の幸せな日常を破壊する嵐が、すぐ、そこまできていた。

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

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Comment

●ひろさま

いらっしゃいませ〜♪
いつも楽しいコメントありがとうございます(*^^*)
お察しの通り、店長は髪の毛柔らかいですw
でもハゲない家系なので……!w

ですが今回、ハゲそうなくらいのストレス野郎がやって来ましたので、わからないかもw
またお越しくださいませ♪
遠麗 | 2008.04.24(木) 01:25 | URL | コメント編集

何?何なの?破壊って!!!!
もう苦しめないであげて・・・って言いながら、期待している自分がいる。
秋家さん、髪の毛が柔らかそうだから、破壊(?)のショックで白髪を飛び越えハゲちゃいそう。
くれぐれもそうならないよう、早めの解決お願いします。
ひろ | 2008.04.22(火) 17:29 | URL | コメント編集

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