2008.04/24(Thu)

君と恋愛、海の色。14

#14

【More・・・】

 途中スーパーと酒屋で買い物をして、それから一旦石富のアパートに寄った。駐車場に止めてあった秋家のセダンと入替えに、石富のSUVをそこに止める。荷物を秋家の車に積み替え、ルーフキャリアのサーフボードを下ろすと、石富は201号室にそれを持って上がった。

 ドアを開け、キッチンの電気をつけると、そこには家具も何もない、空っぽの部屋があるだけだ。その空のキッチンの床にサーフボードを置くと、石富は部屋を出て下に降り、路駐して待っている秋家の車の助手席に乗り込んだ。

「忘れもんないよな。んじゃ帰るか」
「うん」

 秋家はミラーを確認すると、車をゆっくり発進させた。

(あのアパートとも、もうお別れか)

 石富は、4月いっぱいでアパートを引き払い、秋家とウィンド・ベルの2階に同居(実際は同棲だが)することになった。といっても、ほとんどあのアパートには帰っていなかったのでそれも今更な話なのだが、今回きっちり解約することにしたのだ。

 去年の暮れから考えていたことではあったのだけど、店の近くの月極駐車場に空きがないことや、商店街という特殊な環境の中、いい年した男2人が一緒に住むということに対しての周囲の目が気になってしまい、なかなか決断できずにいた。だがそんな時、秋家の契約している月極駐車場に空きが出るという話をプラモデル屋の主人に聞き、これはもう今しかない、と思い5月からそこを借りることにした。

 そして、一緒に住むことの大義名分として、将来的に店を大きくしたいから、金を貯めるために経営者2人は同居します、という尤もらしい理由で、店のバイト連中には説明しておいた。

 だが、それもただの建前というわけでは決してない。秋家が言い出したことなのだが、店を大きくして、カフェレストランにしよう、という話を時々2人でしている。そうなればシェフをもう1人雇って、石富がちゃんと休憩も休みも取れるようにしたいと、秋家は言ってくれているのだ。

 秋家は、石富がジュリズを辞めたことを、まだ気にしているらしい。でも、もう絶対石富を離せないから、それなら自分達の店をレストランにしたらいい、と考え、できるだけ石富の腕に見合うお店にしたいんだと、楽しそうに話してくれた。

 その気持ちが素直に嬉しくて、石富もウィンド・ベルカフェレスト化計画には意欲的だった。秋家が未だに石富の退職を気にしているのはつらいけれど、それでも『石富を離せないから』と色々考えてくれるところは、ものすごく嬉しいし、ものすごく可愛いと思う。
 その2人の夢のためにも、リニューアルするための費用を蓄えていかなければならない。

 そういうわけで、必要な荷物はすでに秋家の家に運んであり、使わない家具家電なんかは実家に持って行ったり業者に引き取ってもらったりしたので、あのアパートにはもう何もない。だが、サーフボードは4月いっぱいまで置いておこうと思っている。秋家の家もそう広いわけではないし、やっぱり部屋にあるとどうしてもジャマに思えてしまうので、置ける間は置いておこうと石富が勝手にそうしている。

 どのみち月極駐車場は5月からしか使えないから、4月いっぱいはアパートに止めておかないといけないので、その時に一緒に持って帰るつもりだ。

(そんときゃもう、しょうがねぇから、廊下とかに置いとくか……)

 石富のアパートからウィンド・ベルまで歩いて15分くらいなので、車は5分ほどで駐車場に到着した。荷物を持って、商店街の大通りではなく裏の道を歩くと、ちょうど店の裏路地に出る。角を曲がると、2階の自宅に上がる外階段が見え、石富はピタリと歩みを止めた。

「どうしたの?」

 急に立ち止まった石富を見上げ、秋家は不思議そうに訊ねてくる。だが黙ったまま固まっている石富の視線の先にある存在に、秋家も気がついた。

「あれ、誰だろ?階段に誰か座ってるよ」

 秋家の言葉に、やっぱり見えているのは自分だけじゃなかった、とバカなことを考えた。2階に上がる階段の、下から3段目くらいのところに、嫌になるくらい見覚えのある男が1人座っている。長いこと会っていない気がするが、最後に会ったの、あれはいつのことだっただろうか。

(おいおいおいおい、オッサン。なんだよ、なんでいるんだよ。何しに来てんだよ……)

 小さい頃からいろんなことを言われてされて、いろんな意味で石富に影響を及ぼした男。

「兄貴だ……」
「え……、お兄さん?」

 座っているのは、まぎれもなく兄の一矢だった。 
 一矢は上を向いてタバコの煙を吐いていたが、視線を下げると石富達に気付いて手を上げた。両手が荷物で塞がっていたためそれは無視して、石富は早足で一矢のところへ向かった。

「おせーな、剣二。なにやってたんだよ、オイ」
「んなの俺のせいじゃねーだろ、待ってるなんて知らねーっての。つーかなんでいんだよ」

 階段の下の地面には、どのくらい待っていたのか、タバコの吸殻がたくさん転がっている。
 最悪だと思った。マナーの悪い人間を、秋家は嫌いなのだ。実の兄がこれでは、石富自身の評価も下がりかねない。これを見て秋家がどう思っているか考えたら、一矢に舌打ちしたい気分になった。

「んだぁ、おめーずいぶんな言い草だな。久しぶりに会った兄上にもっと他に言い方ねーのかよ……つーかさ、これが一緒に店やってるとかいうお友達か?えらいきれいな兄ちゃんだな」

 石富の隣、一歩引いた位置に立っている秋家を見て、一矢は驚いたような声を上げた。そういえば、この2人は初対面なのだ。秋家が石富の家によく遊びに来ていた頃、一矢はあまり家にいなかったから、一度も顔を合わせたことはないはずだ。

 といっても、決して自慢できるような兄ではないため、会わせたいとも思わなかったけど、よもやこの年になってからこんな形で会わせることになろうとは、思いもよらなかった。

「あの、秋家といいます。剣二には、お世話になってます」

 真面目な秋家はぺこりと頭を下げ、一矢に挨拶をした。

「うぉ!イイ子だよイイ子!よろしくね、俺はこいつの兄貴だよ」

 一矢はタバコを階段にこすりつけ火を消すと、それを当たり前のように地面に投げ捨てた。ムッとしたが、拾えと言ったところで弟の言う事など聞くはずもなく、秋家の胸中が気になりつつも、とりあえず用件を一矢に訊ねた。

「で、兄貴、何しに来たわけ?今までコーヒー1杯飲みに来たことねーくせによ」

 石富がウィンド・ベルという喫茶店で働いていることは、一矢だって知っているはずだ。確かに来てほしいだなんて言ったことはないが、コーヒーを飲みに来たこともないのに、いきなり休みの日に訪ねてきてこんなところで待っているなんて、どう考えてもおかしい。それに。

(すげぇ嫌な予感すんだけど……なんだ?金の無心か?)

 そして石富のその予感は、見事に的中した。
 だがそれは、金の無心ではなく、もっとタチの悪い、最悪な要求だった。

「あのよ、剣二。わりーんだけど、しばらく泊めてくれや。俺行くとこねーんだわ」

 まいったぜ、と言いながら、一矢は笑った。

(は……?なんだと……?)

 石富は固まった。まだ金貸してくれ、と言われた方が、絶対マシだった。
 理由を聞くのも忘れて、石富は呆然と、笑う兄の顔を見つめた。

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

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 | 2008.04.25(金) 23:11 |  | コメント編集

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