2008.05.15 (Thu)
君と恋愛、海の色。21
【More・・・】
激しく打っていた心臓が、しんと冷えていくようだった。秋家の言葉は結局、体だけ、要するにヤるだけなんじゃないのか、ということの婉曲にすぎず、つまり石富は、そういう男と思われていたということだ。
(んだよ、そりゃ……)
ずっとそう思われていたのなら、悲しいなんて言葉ですむようなものではない。
ひどいショック、そして同時に、諦めのような虚しさも感じている。自分の中が真っ黒に、ひずんでいく気がした。
どうせそんな風に思われているのなら、そうしてやればいいじゃないか。
そんな、どうしようもない考えが頭をよぎり、秋家の手首を掴んだ石富は、その手を引いたまま廊下を奥に向かって歩いていく。その先にあるのは、寝室だった。
「剣二……!」
いきなりの石富の行動に、秋家は半泣きで名を叫ぶ。向かっているのが寝室だとわかると、足を突っ張って石富の腕を引き戻そうとする。
「どうして…っ……」
その涙声に、胸がチリッと痛む。でもそれ以上に、石富の中に広がったひずみは大きかった。なにも言葉を発しないまま、寝室へと距離を近づける。
だが、秋家を引きずるようにして寝室の前に来た時、石富はぴたりと足を止めた。寝室の向かいの部屋のドアを見た途端、まるで金縛りにでもあったかのように、体が動かなくなった。同時に、頭の中がシュンと冴えたようになり、目の瞳孔が少し開く。
寝室の向かいの部屋は、仏間だった。
昨日、あの部屋で、彼らに話を聞いてもらったのではなかったか。秋家を傷つけてしまったことを謝って、どうしたらいいんでしょう、と問いかけたのは、ほんの24時間前のこと。
答えがもらえたわけではなかったけれど、年を取り、しわのある顔で並んで笑っている2人の写真を見て、とても大事なことを教えられたような気がしたのに。
それなのに今、自分がしていることはなんだ?彼ら2人の目に、どう映っている?
(俺は、なにを……)
昨日、2人の写真を見て、石富は思った。年を取っても、こうして並んで笑っていられたら、どんなに素晴らしいだろう。そしてそうなるのには、どれだけの努力と苦労が必要なんだろう、と。
秋家に彼らの人生について聞きはしたけれど、実際は想像もできないような、厳しい現実と戦ってきたに違いない。そしてそんなつらさを乗り越えることができたのは、強く信じ合い、愛し合うパートナーがいたからこそだ。
自分も、秋家とそうなりたい。そのために必要なのは、やはり強く、揺るがない愛なのだと、写真を見て思った。
相手を想うがゆえに、すれ違うこともあっただろう。だがたとえケンカをしたとしても、そこからほころびるようなことは、彼らには一度としてなかったのだ。
思いが行き違い、一時の感情で相手に苛立ちを覚えたとしても、絶対に失ってはいけない、壊してはいけないものがあって、彼らはそれを、最後まで守りきった。
それはたぶん、信じる心、なんだろうと思う。それをどちらか1人でも失くしてしまったら、きっと想いはそこで終わり、すり減っていく、そう、考えたのではなかったか。
もし今、秋家を無理矢理抱けば、どうなるだろう――
(俺は……どうしたかったんだ……?)
石富は一度俯くと、しばらくしてふっと顔を上げた。開いていた瞳孔は小さく戻り、空虚さの消えた澄んだ目には、閉められた仏間のドアが映っていた。
「剣、二……?」
いきなり立ち止まり動かなくなった石富に、秋家が不思議そうに声をかける。だがそれには返事をせず、手首を掴んでいた手の力を弱め、それでも離すことはせずに、すぐそこにあった寝室のドアを開けて中に入った。
秋家はもちろん、抵抗して腕を引こうとする。だが石富は、そうやって暴れる秋家の体を、腕の中に閉じ込めるようにして柔らかく抱き締め、そのまましばらく待った。秋家が、大人しくなるのを。
抱き締めたまま何もしない石富を不可解に思ったのか、秋家はすぐに抵抗を止め、石富を見上げてきた。その、弱々しく下げられた眉のあたりにそっとキスをして、髪の毛に唇を寄せると、静かに呟いた。
「ごめん、なお。俺は、謝りたかったんだ……」
秋家の体が、小さくぴくんと揺れた。
一矢がここに来てから、急に秋家に触れることができなくなって、石富はイライラしていた。ただでさえそうなのに、秋家と一矢が仲良く話しているところを見たり、自分とは違い、妙に落ち着いている秋家にムッとしたりして、それがさらに苛立ちを増す原因になった。
でもだからといって、それが秋家にあたっていい理由になるはずがない。あれは単に自分の、我が儘だったのだから。
「兄貴が来て、お前に触れなくなって、つらかった……。でもあの時手ェ振り払っちまったのは、お前がしたいって言わなかったことが直接なんじゃねーよ。お前が、俺と同じ気持ちじゃないと思って、それにムカついたんだ……求めてんのは、俺だけなのかってな。
それに……今までも、ごめんな。まさかお前がそんなに思ってたなんて、知らなくてよ。お前が何も言わねーのいいことに、好き勝手やってさ……いや、言ってたよな、疲れてるって、もうつらいってさ。俺が聞いてなかっただけか……でもな、なお。俺はお前のこと、体だけなんて思ってない。お前のこと好きで、好きすぎて、たまんねぇんだ。だからいつも、求めちまう。でもお前がイヤだって言うなら、俺は何もしないでいい。だから……」
「剣二……!」
だから、俺を、嫌いにならないでくれ。
そう、続けようとしたけれど、秋家の声に遮られた。
秋家は両手で石富のTシャツを掴み、胸に顔を埋めて、体はぶるぶると震えていた。
「ごめんなさい…っ……違う、んだっ、俺は剣二が、怒ってると、思ってたんだっ……それで冷たくされてるんだって……それが、つらくて…っ……だからさっき、あんなこと……ひどいこと言って、ごめんなさい…っ…ホントはあんなこと、思ってないから……ッ」
胸に埋めていた顔を上げ、涙を流しながら、秋家は嗚咽のまじる声で石富にうったえた。その、泣いてぐちゃぐちゃになった顔に、どうしようもないほどの愛しさを感じ、石富はたまらず抱き締める腕の力を強くした。
「なお……」
「ごめんなさい、ごめんなさい…っ……」
よほど、自分の言ったことを悔いているのか、秋家は泣きながら、何度もその言葉を繰り返した。
もういい、もう謝るな、と優しく髪を撫で、俺もごめんな、と心から謝った。
そして、秋家の涙が止まるまで、胸に抱きこんだまま頭を撫で続け、その間石富は目を閉じて、天国にいる彼らに謝罪とお礼をした。
(ひどいことをしようとしてました。その前に、気付かせてくれたんですよね。ホントに、ありがとうございました)
あのまま無理矢理抱いていたら、きっと秋家の心を、壊してしまっただろう。もう石富を信じられなくなって、いつかその心は、石富ではない、違う誰かに向いていたかもしれない。
そう考えて、ゾッと背中が凍った。
その、あまりの恐怖に耐えかねて、秋家を抱き締める腕に力を込める。このぬくもりを、今更手放せるはずなどない。それはもう、石富にとっては死の宣告と同じだ。
肩の小刻みな震えが収まり、秋家はまだ俯いて目元を拭っていたが、涙は止まったようだ。思わず、くるんとしたつむじにキスを落とすと、秋家は恥ずかしそうに顔を上げて、頼りなげに眉を下げて笑った。
「俺はね、剣二が俺のこと欲しがってくれると、ホントはすごく安心するんだ。男の俺のこと求めてくれてる、よかった、ありがとうって、いつも思ってたんだよ」
「……なお、それは……」
それは、秋家に告白された時に、石富が言った言葉のせいだと、すぐにわかった。
――性的欲求ってやつを、その……女にしか、感じないと思うんだ……
――男と、セックスするってことは、考えられない。
今でも、おそらくそれは変わっていないと思う。なぜなら、秋家以外の男とできるとは、どうやっても思えないからだ。だが、もっと根本的なところで、石富は大きく変わっている。それは、たとえ女だろうが、もう秋家以外とはセックスする気になれないということだ。
セクシャリティがどうこうではなく、もう秋家にしか自分は欲情しないのだ。それを上手に、伝えたいのだけれど。
「あの時俺が言ったこと、気にしてるんだな。でも……」
だがそこまで言うと、黙って、とでも言うように、秋家の人差し指が唇に触れた。
「そうだよ。あの時剣二に言われたこと、ずっと気にしてた。気持ちを信じてないわけじゃないんだよ?でも、体は別だし……とか、色々考えちゃってたんだ。でもね、さっき剣二が言ってくれたこと聞いて……もう、そういう風に思うの、やめることにする。ううん、やめられると、思うんだ」
「さっき、言ったことって……?」
「だから、その……」
秋家は恥ずかしそうに、頬を朱に染め俯いてしまう。石富は、さっき自分が言ったことを頭で反芻し、これかな、と思うセリフをもう一度口に出して言ってみた。
「お前のこと、好きすぎてたまんねぇ……?だからいつも、求めちまう……?」
「そ、それ、です……」
ぷしゅーっと、湯気でも出そうに盛大に恥ずかしがった秋家は、俯いたまま顔を上げない。それが可愛くて、たまらなくなった石富は、指でそっと顎をすくい上げ、赤くなっている顔をじっと見つめる。
廊下から入ってくる弱い灯りだけの、薄暗い部屋の中。抱き合ったまま見つめ合い、自然と心音はドクドクと速くなる。それは秋家も、同じようだった。
どちらともなく目を閉じて、唇を合わせようとした――が。
「ただいまけーったぞ〜!」
ガチャっという玄関を開ける音と同時に、一矢の大声が家中に響いた。ビクッとしてパッと目を開き、身を竦ませた2人だったが、その後でクスクスと、小さく笑い合った。
「クソ兄貴め。思ったより早く帰ってきやがった」
「ふふ、やっぱりお兄さん、ご機嫌みたいだね」
残念、と呟いて、しかし最後にチュッと1回、唇を合わせるだけのキスをした。
寝室を出て行くと、一矢はかなり酔っているらしく、ソファに転がっていた。でかい体を引きずるようにして2人で布団に運んでいると、一矢が秋家に抱きつき、頬ずりまでするもので、石富はそれを蹴りつけながら、なんとか客間まで運んで寝かせた。
一矢は酔って寝ているし、その間に、と考えないわけでもなかったが、あえて何もしなかった。それはもちろん、欲しくないという意味ではなくて、2人共充分、満たされていたから、キスだけしていつものように別々に布団に入った。
そして石富は、いつも以上にいびきのうるさい一矢の隣で仰向けに寝て、じっと天井を見つめる。
ずっと、考えていたことではあったのだ。だが今日、はっきりと決意をした。
秋家と、死ぬまで一緒に、いや、死んでからも一緒にいるために、避けては通れない、第一歩。
家族に、秋家とのことを話す。つまり、カミングアウトだ。
よくぞ思いとどまった!それでこそや!!
うちの子とはえらい違い……やっぱり、好きな人には優しくせんとね!(爆)
あ…のっけからすみません(^_^;)
お久しぶりでございますm(__)m
久々に来てみたら、なにやら冷や冷やの展開に、剣二!頑張れ!と、相変わらずの剣二好き〜な私は、思わず拳を作ってましたですよ〜!
剣二の迷いも葛藤もわかるし、なんだか切なくって〜(>_<)
でも、やっぱり男だ!好き〜〜〜vv
次は、いよいよご家族ご対面〜〜ですか!?
ドキドキします〜!お忙しいでしょうが、更新頑張ってくださいませね♪
楽しみにしておりますので〜vv










コメントどうもありがとうございます(*^^*)
ちょっと幽霊チックな展開になりましたw
おじいの霊ですw
店長と仲直りして、これから家族とお話します(・-・*)
もうそろそろ終わらせそうかな……?
がんばりたいと思います。
唯香さんもなんだかお忙しそうなご様子ですね><
無理しない程度にがんばってください(^-^)
ありがとうございました♪