2007.08/24(Fri)

あの日の君と風鈴の音1−2

chapter1−2

【More・・・】

 実際晴希はとても背が低い。4月の身体測定では、恥ずかしながら160センチに2ミリ足りないという、なんとも残念な結果だった。たかが2ミリといえど、十の位が5と6とでは、本人にとっては全然違う。体つきも華奢なうえにまだまだ子供体型で、色白で男らしさの欠片もないと、自分でも嫌になるほどわかっている。

 体だけではなく、顔だってそうだ。丸顔に大きな二重の目は、黒目の部分が大きめなので余計に幼く見える。おでこも広くて丸いので、それを隠すように前髪も長い。鼻も低くて丸いし口は小さいしで、晴希は自分の外見全てがコンプレックスだった。だから同級生達にそこを指摘されれば、劣等感を持たずにはいられなかった。

 しかし、秋家や石富のような、年もずいぶん上の大人が相手だと、晴希の意識はそういう捉え方をしないようだった。同じラインではなく、もうずっと上にいる人達なので、そう思うのかもしれないけれど。そりゃ石富に対してふくれて見せたりはするけども、なにも本気で傷ついているわけではないのだ。

「わかりました、喜びます。じゃあ石富さん、アイス二つ入りのクリームソーダ、作ってくださいね」
 にこっと石富を下から見上げて、右手で『アイス二個』を表すピースをしてやった。石富は複雑そうな顔をして、晴希を見下ろしている。どうにも石富は、晴希が反抗しないで揶揄を受け入れると、調子が狂うらしい。

「ぷはっ、剣二の負け。可愛いハムスター君におめめキラキラで見つめられたら、エサあげるしかないねー」
 秋家はけらけらと楽しそうに笑った。

「わあったよ、エサあげましょ」
「あは、やった」
「ハル君、裏のテーブルでゆっくりしてきていいよ」
「はい、じゃあ少しだけ」

 3週間弱の期間で、晴希もだいぶしたたかになった。最初は石富のいいようにおもちゃにされていたのだが、なんとなく切り返し攻撃も覚えた。それに晴希をからかっても結局、こうしてアイスを1つ多くしてくれたりするので、可愛がられてるなぁと実感する。

 厨房の角にあるスタッフ用のテーブルに座ると、石富が早速クリームソーダを持って来てくれたのであるが、晴希はそれを見て大きな目をさらに大きく見開いた。

「なんですか、コレ……」
「残すなよ」

 ニヤニヤと笑いながら石富が晴希の前に置いたのは、普段店で出しているタンブラーに入ったクリームソーダではなく、並々と注がれたメロンソーダの中に、バニラアイスが二つプカプカ浮かんだ、生ビール用の中ジョッキだった。

「アイスは食べれますけど、こんなに飲めませんよ!何考えてるんですか……」
「いやー、早く大きくなってほしいからなぁ。俺の愛よ。残さずいただいちゃって!」
 ばしっと背中を叩かれて、石富は満足そうに笑いながらカウンターに出ていった。どうあっても晴希にやられっぱなしではすませたくないらしい。
 
 まったく、こんな意地悪でめちゃくちゃな性格なのに、どうしてあんなに美味しい料理が作れるのか、晴希は不思議でならない。喫茶店の軽食にしておくにはもったいないくらい本格的で、以前出してもらったまかないのオムライスは、晴希が今まで食べたことがないくらい美味しかった。

 だから晴希は、基本的に石富を尊敬しているし、人として好きなのだが、時々するこういうウケ狙いは、冗談ですむ範囲にしてほしいと思う。

(だいたいなんでビールジョッキがあるんだよ。ここお酒出さないのに……)

 心では文句を言いつつも、いつもの子供のようないたずらにしょうがないなと苦笑しながら、晴希は大盛のクリームソーダに挑んだのであるが――結局メロンソーダは飲みきれずに、石富にごめんなさいをして許してもらった。晴希の残したそれを、捨てるのは勿体無いからと言って石富が飲んでしまったことには驚いたけれど、嫌ではなかった。少し照れはしたけれど。

 しかし晴希はその後、メロンソーダでちゃぽちゃぽするお腹に苦しみながら、仕事をする破目になったのだ。 

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

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