2008.06/12(Thu)
君と恋愛、海の色。30
#30
『そうかもしれない』と思っていた時にはさほどつらくなかったことでも、本当にそうだったとわかった途端、想像以上のショックを受けることは、めずらしくない。
心構えは痛みやつらさを軽減させるクッションにはなるけれど、跳ね返す盾にはなってくれない。
秋家の母親も、きっと思い過ごしであってほしいと願っていたはずだ。だが、本当のことだ、と事実を告げた息子に、あの優しい母親は、なんと言ったのだろう。
「いつかは言おうと思ってた、って言って、全部話して。それで終わってから、俺、頭下げたよ……一人っ子なのに、孫の顔見せてあげられなくて、ごめんなさいって。そしたら母さん、謝るようなことはしてないのに、頭なんか下げるんじゃないって怒ったんだ」
「謝るようなことはしてない……か。それはそう、望みたいことではあるな……」
好きな人とずっと一緒に生きていきたい、と思うことは、悪いことではない。人はそういう純粋なものを美しいと思い、そうあるべきだと、本当は誰もが思っている。だが時として、それは他人を傷つけたり、苦しませたりすることもあって、想いだけで全てが許されるわけではなことも、また事実なのだ。
ただ好き合っているだけ、謝るようなことじゃない、と思ってはみても、簡単に思いきれるものではないし、また、そう思ってあげられることも、きっと難しい。普通と形の違う睦み合いを、あなた達は悪くない、と許してくれる人ばかりならば、家族に対しての罪悪感も、最初から覚えなくてすむのだろうか。
「そう、だね……母さん、もう何年も前から疑ってたから、今更ショックはないって言ってた。それが本当に本心かは、俺にもわからない……でもね、たとえそれが俺のための強がりだったとしても、俺はその強がりの方しか、見ちゃいけないと思うんだ。母さんが隠したいのなら、見ないようにするのが、俺が子供としてできる唯一のことかなって。……俺今日初めて、ああこの人は、親、なんだな、って思ったよ……」
「なお……」
泣くんじゃないか、と思って、石富は秋家を腕の中に抱き寄せた。頬を胸にすりつけるみたいにして、秋家も石富の背中に腕を回す。
「それにね……孫の顔より、子供の幸せの方が、大事だって、さ…っ……」
ひぐ、と喉を鳴らして、秋家は肩を跳ねさせた。今まで堪えていたのか、石富に話したことで感情が溢れてきたのか、秋家は声を出して泣き出した。石富はその背中をあやすように撫でてやりながら、自分も少し、目頭が熱くなりかけていることに気付く。
やはりあの人は、優しく、正しく、強い母親だった。むろん、秋家の言うように、彼女の本意はわからない。だが、息子を何よりも誰よりも、大事に思っていることは間違いない。そしてそれこそが、見返りもなにも欲しない、母親だからこそ与えることのできる、『無償の愛』というものなんだと思った。
そして同じように、本心を抑えて自分のことを受け入れてくれた、父親のことを思い出す。秋家の母親とは許し方が違うけれど、深い親の愛、という意味では、彼らの気持ちは同じだと思う。
「……なぁ、おじさん、には……?」
「ん……父さんは、仕事でいなかったんだけど、母さんが話してくれるって。俺がいきなり話すより、私が話した方がうまくいくって、だからまかせろって……心配しなくていいわよ、なんて言ってたけど、すごく心配だよ」
泣いて赤く潤んだ目でへへ、と笑って、秋家は手で涙を拭った。
心配しなくていい――父も、母さん達のことは心配するな、と石富に言った。おそらく、自分がなんとかするつもりで、あんなことを言ったんだと思う。それはもちろん石富のためで、家族が、バラバラにならないため。
秋家の母親と石富の父は、性格は全く違うけれど、どこか、心根のようなものが似ているのかもしれない。
「なお……俺も、聞いてほしいことが、あるんだ」
話すつもりは、なかったのだが。
秋家のこんな話を聞かされて、黙っていられるはずがない。お互い今は、片親にだけ許されている状態だ。そして心配するな、という頼もしい言葉を、2人共もらっている。
きっと、彼らは本当に、どうにかしてくれるのだろうと思う。それは予想というよりも、確信に近い予感だった。ただ、自分を生み、育て、愛してくれた親を、信じるだけのこと。
「俺一昨日、実家行っただろ?あれ実は……お前とのこと、話しに行ったんだ」
「……え?」
秋家は目を丸くして、ぽかんと口を開けた。その顔が可愛くて、思わずくすっと笑ってしまう。
石富は2日前の実家での出来事を、秋家に話して聞かせた。むろん、母親のヒス発言なんかを細かく話したりはしなかったが、母と兄に信じてもらえなかったという事実は、秋家も相当ショックを受けていた。だが、話が父親のくだりになった時、秋家はちょっと、目を潤ませた。
あの、剣二のおじさんが。
いかつくて強面で、静かだけど怖い、あのおじさんが、許してくれたの?
父をよく知る秋家にしても、まさか父親の方が許してくれるとは、予想外だったのだろう。嬉しい、とぐっと唇を噛み、俯く。
「おふくろは確かに最後まで許してくれなかったけどな……でも、オヤジがよ、おふくろのことは心配するな、って言ったんだ。だから俺は、オヤジの言ったこと信じて、待とうと思ってる。お前んとこも、絶対おばさんがうまくしてくれるよ。俺達は、信じてればいい。きっと親って、そういうもんなんだ」
「うん……うん……そうだね、きっと……………あり、が……」
秋家の声は、石富の胸に顔をうめたせいで、語尾がくぐもって聞こえなかった。そのまま、時折鼻をすすりながら、いろんなことが嬉しい、と言って泣いた。その体を強く抱き締めて、俺も嬉しいよ、と髪の毛にキスをする。
一緒にいるために、自分達は今、一歩どころか二歩……いや、十歩くらいは前進したと思う。それもたった数日間で、とんでもない猛ダッシュだ。
(少し、インターバルをくれ……)
しばらくは、何事もなく平穏に暮らしたい。今日は2人でゆっくりと、秋家の34回目の誕生日を祝いたい。
その時、きゅるるるるー……と、石富の腹が豪快な音を立てて鳴った。
「あ……」
「……ちょ、剣二、音すご」
さっきまで泣いていた秋家はぶふっと吹き出し、目元の涙を拭いながらけらけら笑っている。せっかくいいムードで抱き合っていたのに、それも見事に吹き飛んだ。
「そういえば起きてからなんも食ってねーな」
「ごめん、待っててくれたんだ。どーする?お昼どっか行く?」
「んー、そうだなぁ……」
計画では、午前中に遠出して、デートできればいいな、と思っていたが、今から家を出たのでは、向こうでゆっくりできない。夜は石富がディナーを作る予定だから、できれば夕方には、家に帰っておきたい。
「よし。ショッピングモール行って、メシ食って買い物しよう。晩は俺が作るからな。あ、それとあれだ。俺のアパート今日までだから、帰りに寄らねーと」
「そっか。車乗って帰んなきゃいけないね」
それから、泣いて赤くなっていた顔を洗う秋家を待って、秋家の車を石富が運転し、県内一と言われている大型のショッピングモールに出かけた。和食のお店で昼食をとってから、アパレルショップやスポーツ用品店、ペットショップを覘いて回った。
ペットショップには、昨日店に来たばかりだというラグドールの子猫がいて、秋家はそのケージの前から離れず、飼いたいと言い出した。ふかふかの白い体毛やブルーの目は、確かに引き込まれそうなくらい可愛かったのだが、まだ2人でいたかった石富は、そのうちな、と言って諦めさせた。
まるで子供はまだいい、と言ってる新婚夫婦じゃないか、と自分につっこみつつ、リカーショップでワインとシャンパンを買い、食料品売り場でディナーの買い物をした。
「あー、なんか久しぶりに、デートって感じだったね」
帰りの車の中、助手席でうーん、と伸びをした秋家は、楽しかった、と笑顔を見せる。
「そうだな。あんまりああいうとこ、行かねーしな。また行こう」
「うん。それにしてもラグドールの子猫、可愛かったなぁ……」
以前秋家は、2階で少しの間、猫を飼っていたそうだ。だが元ノラ猫だったためか、虚勢手術を施していたにもかかわらず、家出されたらしい。外に出さず部屋の中だけだったのが、たぶんストレスになったんだね、と当時を振り返ってしんみりしていた。
そしてその猫は現在、商店街周辺を縄張りとするノラ猫グループの、ナンバー2になっているらしい。4軒隣の点心屋の奥さんが大の猫好きで、付近の猫組織を調べているとのことで、その、本当かどうかわからない、怪しい情報を教えてくれた。
石富はその話を聞いた時、たまらず吹き出してしまい、真面目に調べているという奥さんを怒らせてしまった。バカにしているつもりはないが、こんなの聞いたら誰でも笑うだろう、と思っていたら、秋家は真剣に聞いて、そのナンバー2説を信じていた。
「また家出されるんじゃないか?」
「あっ、あの子は、ノラだったからだって!それにナンバー2になるくらいだから、やっぱりそういう素質があって、ワイルドな子だったんだよ。だから外が好きなんだ。でもああいう、血統書付きのお嬢様やお坊ちゃまは、家出なんかしないよ、きっと」
(ワイルドって……こいつ意外と、こういうバカなとこあるな……まぁ、可愛いけど……)
笑いたいのを必死で堪えながら、秋家の猫話を聞いてあげていたら、流れで動物の話になった。哺乳類から亀に話題が移ったところで、車は石富のアパートに到着した。
駐車場で待っててくれ、と運転を変わり、秋家を先に家へ帰す。それを見送ってから、石富はアパートの階段を上がり、自分の部屋の鍵を開けて中に入った。そして、かつてベッドを置いていた部屋のクローゼットを、少し緊張しながら開ける。
(あった……)
何もないクローゼットの中に、小さい紙袋が1つある。厚手でしっかりした黒い紙袋の中には、白い正方形の箱が1つと、きれいにラッピングされた細長い箱が、1つ入っている。
石富は白い箱を袋から出して、蓋を開けた。
箱の中には、真っ白な丸いケース。
そしてそのケースの中には、今日渡す予定の秋家への誕生日プレゼント――指輪が、入っている。
拍手内コメントレスです。
名無し様
オカンの件、了解しましたw
おもしろそうなのでぜひ書いてみたいと思います。
コメ、ありがとうございました(^-^)♪
【More・・・】
もしかして、と疑ってはいても、心のどこかに、違っていてほしい、という期待はあったはずだ。『そうかもしれない』と思っていた時にはさほどつらくなかったことでも、本当にそうだったとわかった途端、想像以上のショックを受けることは、めずらしくない。
心構えは痛みやつらさを軽減させるクッションにはなるけれど、跳ね返す盾にはなってくれない。
秋家の母親も、きっと思い過ごしであってほしいと願っていたはずだ。だが、本当のことだ、と事実を告げた息子に、あの優しい母親は、なんと言ったのだろう。
「いつかは言おうと思ってた、って言って、全部話して。それで終わってから、俺、頭下げたよ……一人っ子なのに、孫の顔見せてあげられなくて、ごめんなさいって。そしたら母さん、謝るようなことはしてないのに、頭なんか下げるんじゃないって怒ったんだ」
「謝るようなことはしてない……か。それはそう、望みたいことではあるな……」
好きな人とずっと一緒に生きていきたい、と思うことは、悪いことではない。人はそういう純粋なものを美しいと思い、そうあるべきだと、本当は誰もが思っている。だが時として、それは他人を傷つけたり、苦しませたりすることもあって、想いだけで全てが許されるわけではなことも、また事実なのだ。
ただ好き合っているだけ、謝るようなことじゃない、と思ってはみても、簡単に思いきれるものではないし、また、そう思ってあげられることも、きっと難しい。普通と形の違う睦み合いを、あなた達は悪くない、と許してくれる人ばかりならば、家族に対しての罪悪感も、最初から覚えなくてすむのだろうか。
「そう、だね……母さん、もう何年も前から疑ってたから、今更ショックはないって言ってた。それが本当に本心かは、俺にもわからない……でもね、たとえそれが俺のための強がりだったとしても、俺はその強がりの方しか、見ちゃいけないと思うんだ。母さんが隠したいのなら、見ないようにするのが、俺が子供としてできる唯一のことかなって。……俺今日初めて、ああこの人は、親、なんだな、って思ったよ……」
「なお……」
泣くんじゃないか、と思って、石富は秋家を腕の中に抱き寄せた。頬を胸にすりつけるみたいにして、秋家も石富の背中に腕を回す。
「それにね……孫の顔より、子供の幸せの方が、大事だって、さ…っ……」
ひぐ、と喉を鳴らして、秋家は肩を跳ねさせた。今まで堪えていたのか、石富に話したことで感情が溢れてきたのか、秋家は声を出して泣き出した。石富はその背中をあやすように撫でてやりながら、自分も少し、目頭が熱くなりかけていることに気付く。
やはりあの人は、優しく、正しく、強い母親だった。むろん、秋家の言うように、彼女の本意はわからない。だが、息子を何よりも誰よりも、大事に思っていることは間違いない。そしてそれこそが、見返りもなにも欲しない、母親だからこそ与えることのできる、『無償の愛』というものなんだと思った。
そして同じように、本心を抑えて自分のことを受け入れてくれた、父親のことを思い出す。秋家の母親とは許し方が違うけれど、深い親の愛、という意味では、彼らの気持ちは同じだと思う。
「……なぁ、おじさん、には……?」
「ん……父さんは、仕事でいなかったんだけど、母さんが話してくれるって。俺がいきなり話すより、私が話した方がうまくいくって、だからまかせろって……心配しなくていいわよ、なんて言ってたけど、すごく心配だよ」
泣いて赤く潤んだ目でへへ、と笑って、秋家は手で涙を拭った。
心配しなくていい――父も、母さん達のことは心配するな、と石富に言った。おそらく、自分がなんとかするつもりで、あんなことを言ったんだと思う。それはもちろん石富のためで、家族が、バラバラにならないため。
秋家の母親と石富の父は、性格は全く違うけれど、どこか、心根のようなものが似ているのかもしれない。
「なお……俺も、聞いてほしいことが、あるんだ」
話すつもりは、なかったのだが。
秋家のこんな話を聞かされて、黙っていられるはずがない。お互い今は、片親にだけ許されている状態だ。そして心配するな、という頼もしい言葉を、2人共もらっている。
きっと、彼らは本当に、どうにかしてくれるのだろうと思う。それは予想というよりも、確信に近い予感だった。ただ、自分を生み、育て、愛してくれた親を、信じるだけのこと。
「俺一昨日、実家行っただろ?あれ実は……お前とのこと、話しに行ったんだ」
「……え?」
秋家は目を丸くして、ぽかんと口を開けた。その顔が可愛くて、思わずくすっと笑ってしまう。
石富は2日前の実家での出来事を、秋家に話して聞かせた。むろん、母親のヒス発言なんかを細かく話したりはしなかったが、母と兄に信じてもらえなかったという事実は、秋家も相当ショックを受けていた。だが、話が父親のくだりになった時、秋家はちょっと、目を潤ませた。
あの、剣二のおじさんが。
いかつくて強面で、静かだけど怖い、あのおじさんが、許してくれたの?
父をよく知る秋家にしても、まさか父親の方が許してくれるとは、予想外だったのだろう。嬉しい、とぐっと唇を噛み、俯く。
「おふくろは確かに最後まで許してくれなかったけどな……でも、オヤジがよ、おふくろのことは心配するな、って言ったんだ。だから俺は、オヤジの言ったこと信じて、待とうと思ってる。お前んとこも、絶対おばさんがうまくしてくれるよ。俺達は、信じてればいい。きっと親って、そういうもんなんだ」
「うん……うん……そうだね、きっと……………あり、が……」
秋家の声は、石富の胸に顔をうめたせいで、語尾がくぐもって聞こえなかった。そのまま、時折鼻をすすりながら、いろんなことが嬉しい、と言って泣いた。その体を強く抱き締めて、俺も嬉しいよ、と髪の毛にキスをする。
一緒にいるために、自分達は今、一歩どころか二歩……いや、十歩くらいは前進したと思う。それもたった数日間で、とんでもない猛ダッシュだ。
(少し、インターバルをくれ……)
しばらくは、何事もなく平穏に暮らしたい。今日は2人でゆっくりと、秋家の34回目の誕生日を祝いたい。
その時、きゅるるるるー……と、石富の腹が豪快な音を立てて鳴った。
「あ……」
「……ちょ、剣二、音すご」
さっきまで泣いていた秋家はぶふっと吹き出し、目元の涙を拭いながらけらけら笑っている。せっかくいいムードで抱き合っていたのに、それも見事に吹き飛んだ。
「そういえば起きてからなんも食ってねーな」
「ごめん、待っててくれたんだ。どーする?お昼どっか行く?」
「んー、そうだなぁ……」
計画では、午前中に遠出して、デートできればいいな、と思っていたが、今から家を出たのでは、向こうでゆっくりできない。夜は石富がディナーを作る予定だから、できれば夕方には、家に帰っておきたい。
「よし。ショッピングモール行って、メシ食って買い物しよう。晩は俺が作るからな。あ、それとあれだ。俺のアパート今日までだから、帰りに寄らねーと」
「そっか。車乗って帰んなきゃいけないね」
それから、泣いて赤くなっていた顔を洗う秋家を待って、秋家の車を石富が運転し、県内一と言われている大型のショッピングモールに出かけた。和食のお店で昼食をとってから、アパレルショップやスポーツ用品店、ペットショップを覘いて回った。
ペットショップには、昨日店に来たばかりだというラグドールの子猫がいて、秋家はそのケージの前から離れず、飼いたいと言い出した。ふかふかの白い体毛やブルーの目は、確かに引き込まれそうなくらい可愛かったのだが、まだ2人でいたかった石富は、そのうちな、と言って諦めさせた。
まるで子供はまだいい、と言ってる新婚夫婦じゃないか、と自分につっこみつつ、リカーショップでワインとシャンパンを買い、食料品売り場でディナーの買い物をした。
「あー、なんか久しぶりに、デートって感じだったね」
帰りの車の中、助手席でうーん、と伸びをした秋家は、楽しかった、と笑顔を見せる。
「そうだな。あんまりああいうとこ、行かねーしな。また行こう」
「うん。それにしてもラグドールの子猫、可愛かったなぁ……」
以前秋家は、2階で少しの間、猫を飼っていたそうだ。だが元ノラ猫だったためか、虚勢手術を施していたにもかかわらず、家出されたらしい。外に出さず部屋の中だけだったのが、たぶんストレスになったんだね、と当時を振り返ってしんみりしていた。
そしてその猫は現在、商店街周辺を縄張りとするノラ猫グループの、ナンバー2になっているらしい。4軒隣の点心屋の奥さんが大の猫好きで、付近の猫組織を調べているとのことで、その、本当かどうかわからない、怪しい情報を教えてくれた。
石富はその話を聞いた時、たまらず吹き出してしまい、真面目に調べているという奥さんを怒らせてしまった。バカにしているつもりはないが、こんなの聞いたら誰でも笑うだろう、と思っていたら、秋家は真剣に聞いて、そのナンバー2説を信じていた。
「また家出されるんじゃないか?」
「あっ、あの子は、ノラだったからだって!それにナンバー2になるくらいだから、やっぱりそういう素質があって、ワイルドな子だったんだよ。だから外が好きなんだ。でもああいう、血統書付きのお嬢様やお坊ちゃまは、家出なんかしないよ、きっと」
(ワイルドって……こいつ意外と、こういうバカなとこあるな……まぁ、可愛いけど……)
笑いたいのを必死で堪えながら、秋家の猫話を聞いてあげていたら、流れで動物の話になった。哺乳類から亀に話題が移ったところで、車は石富のアパートに到着した。
駐車場で待っててくれ、と運転を変わり、秋家を先に家へ帰す。それを見送ってから、石富はアパートの階段を上がり、自分の部屋の鍵を開けて中に入った。そして、かつてベッドを置いていた部屋のクローゼットを、少し緊張しながら開ける。
(あった……)
何もないクローゼットの中に、小さい紙袋が1つある。厚手でしっかりした黒い紙袋の中には、白い正方形の箱が1つと、きれいにラッピングされた細長い箱が、1つ入っている。
石富は白い箱を袋から出して、蓋を開けた。
箱の中には、真っ白な丸いケース。
そしてそのケースの中には、今日渡す予定の秋家への誕生日プレゼント――指輪が、入っている。
拍手内コメントレスです。
名無し様
オカンの件、了解しましたw
おもしろそうなのでぜひ書いてみたいと思います。
コメ、ありがとうございました(^-^)♪
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