2008.06/23(Mon)
番外編/キリリクSS
ご希望……えつみ視点での、ラブラブを隠し切れない店長カップルの話。
キリ番リクエストをいただきました。
ありがとうございます(*^^*)
番外編/キリリクSS 〜臨時休業に気をつけろ〜
クリスマスを目前に控えて、誰もが浮き足立っている、そんな時期。
バイト先の喫茶店、『ウィンド・ベル』の店長である秋家と、シェフである石富の様子が、ちょっとおかしいと気がついた。といっても、なにも雰囲気が悪いわけではなくて、むしろそれは良いといってもいいくらいなのだが、2人一緒にいるところを見ると、なんだか、なんと説明してよいのやら複雑だが、妙にくすぐったいような、知らずこっちが恥ずかしくなってしまうような、変な気分になった。
店長と石富は中学時代からの親友で、付き合いはもう20年以上になるらしい。えつみはそのうちの、最近の3年ぶんくらいしか知らないため、彼らがどの程度仲が良くて、どういう付き合いをしてきたのかは、全くわからない。だが、親友という割にはどこか、2人からは不思議な空気を感じることがあった。不自然というほどではないが、なんとなく、不思議な感じ。
男の親友同士なら、もっと砕けているのが普通だとえつみは思う。
えつみの父は、たまに高校の時からの親友を、家に連れてくることがある。もう40歳も過ぎているが、どこのガキかというくらい、バカな話ばかりして大はしゃぎしている。店長と元ヤンであるえつみの父では、比較してもあまり意味がないかもしれないが、オッサンになっても高校生みたいに楽しそうな父を見て育ってきたからか、2人共、特に店長は、えつみの目には不思議な人にうつった。
店長がゲイだということを知ってからは、だから店長の方が気にして、あんな微妙だったのかな、とも思ったけれど、やっぱりそれだけではないような気もして、えつみは彼ら2人の関係を、いつも不思議に思っていた。
それが今は、ビックリするくらいナチュラルになっている。だがそこからは、親友に対してというよりも、なにかもっと温度の高い、甘ったるい熱のようなものを感じてならない。
それで考えてみたところ、あの臨時休業がなにか関係しているのではないかと、えつみは思った。確かにウィンド・ベルは、水曜日が定休日と一応決まってはいるものの、不定休気味なところがありはする。だが、定休日の翌日に臨時休業して、2日連続で休んだことなど、少なくともえつみが働き始めてからは一度もなかった。
それに、いつもその手の連絡は店長がよこすのに、その日は石富が電話をしてきた。なんでも石富の体の調子が悪いとかで、悪化させないために今日休んで治しておく、ということだったが、それなら余計、店長がかけてくるのが普通じゃないかと思い、矛盾を感じた。
そしてその翌日仕事に行っても、石富は調子が悪かったとは思えないほど元気だったし、というかいつも以上にパワフルで、暑苦しいくらい機嫌が良かった。
これはひょっとして……そう思っていた矢先。
正月が明けてすぐのこと、えつみは遊びに行ったクラブで、バイト仲間の木幡優二郎に偶然出くわした。あんたも来てたの、と声をかけてから、ふと、木幡は気付いているんだろうか、と思い、えつみは話をふってみた。
「最近さぁ、店長なんか、明るくなったと思わない?」
「ああ、そりゃあ、あれでしょ。たぶん石富さんと、アレなんじゃない?」
あれ、アレ、ばかりで曖昧だが、それでも充分わかった。
「……あんたも気付いたんだ」
「まーね。ていうか、わかるでしょ。……たぶん、あの臨時休業がボーダーだと、俺は思うけど」
「あー……だよなぁ、やっぱ」
木幡も、えつみと全く同じことを考えていたようだ。2人がそう思う理由の1つに、臨時休業の翌日のまかないが、ずいぶんと豪華だったせいがある。石富はいつも忙しいから、簡単なカレーですまされることが多いまかないだが、たまに店のメニューと同じものを作ってくれる時がある。
だがそれは、お客の入りが比較的少なく、なおかつ石富が『作ってやるか』という気分になった時だけで、そう滅多にあるもんじゃない。それなのに、定休日と臨時休業が続いたため、いつもの平日より客足が多く忙しかったにもかかわらず、『好きなもの作ってやるから』とリクエストまで聞いてくれたのだ。
「あのまかないもさ、たぶん、嘘ついて休んだの後ろめたくて、石富さんが俺らにサービスしてくれたんだよ。結局あれ1回きりだし……また聞いてくれると嬉しいんだけどなぁ」
「まぁ、確かにあれは嬉しかったけどね。つーかさ、そういう関係になったのはあの臨時休業の日だったにしても、それまでは友達として付き合ってきたわけでしょ?いつから、お互いそういう意味で好きになったのかなぁ」
「最初からでしょ」
あまりにはっきり木幡が言うもので、えつみは少々面食らった。だが、木幡は真剣な顔で、当たり前じゃん、と付け加えた。
「店長はゲイだけど、石富さんはノンケっしょ?確実に友情で、心底親友だと思ってたなら、それはもう死ぬまで変わらないはずだよ。友達が恋人になったなんて、相手が女ならわかるけど、ノンケが男相手にそれはないって。最初から、石富さんの好きの方向は、友情じゃなかったんだよ、きっと。店長は元々男が恋愛対象だから、友情が恋愛になるっていうのも、あるかもしれないけどね」
木幡は緑色のカクテルを飲みながら、つらつらと言葉を並べた。えつみはそれを聞いて、なるほど、と強く納得した。確かに、石富は結婚もしていたというし、どう考えてもゲイではなかろう。それが、例えばもし、店長に好きだと言われたとしても、友情の好意が同性相手に恋愛に変換されるなど、基本ノーマルの人間には、やはりありえないのかもしれない。
「へー、さすがだね。バイだとそういうこともわかるもんなの?」
「まぁ、バイだからというか、俺がそう思うだけだけど。ネーさん、あんただってさ、男友達にコクられたら、なんとも思ってなかった相手でも、少しは意識しちゃうでしょ?でも友達だと思ってた女の子にコクられたって、意識どころか無理としか思わないでしょーが。ノーマルの人っていうのは、そういうもんだよ」
「あー……まぁ、そうだな。できたら考えてあげたいと思うけど、どうしたって無理だよな……そうか、そういうことね」
「そうそう。ちなみに俺は、どっちがどう来ても、どんな風にも対処できるけどね」
「ぶっ、節操ねーな、お前は」
それから、木幡とはいくつか決め事をした。
店長も石富も、えつみ達バイトに交際宣言するつもりはないだろうから、こちらからは何も言わないでおく。特に知らないふりをするわけではなく、向こうに何か言われない限り、口にはしないということだ。彼らも隠そうとしているというよりも、言う必要がないから言わないだけだろうし、そこはお互い、踏み込み過ぎないよう、ラインを守っておいた方がいい。
もしなにかハプニングがあって、彼らにしたら『バレた』という事態が起こった時は、気付いてましたから、と言って笑ってあげればいい。それくらいの丁度いい関係が、2人との間にはあるつもりだ。
それと、もう1つ。
「ネーさん、晴希は気付いてると思う?」
「まさか。自分のことで精一杯だよ、あいつは」
「やっぱり?」
おそらく全く気付いていないだろう晴希にも、あえて言ったりはしない。だが万が一、気付いた晴希がえつみか木幡に確認しに来たら、たぶんね、と言ってやって、黙っておくように言えばいい。
「店長もハル坊も、ホントに幸せそうだなー」
えつみがしみじみそう言うと、木幡は深く頷く。
「ホントだねぇ。特に最近、店長すげーキレイっしょ。石富さんに満たされてんだね」
「……生々しいな、オイ」
こうしてクラブで木幡と話した日から、3ヶ月後の春。
えつみは店長に、みんなでお花見に行こうと提案してみた。本当は、ずっと前から店のみんなで出かけてみたかったのだが、店長と石富の出す雰囲気がそういうものではなかったので、なかなか誘えなかったのだ。でも、えつみは今年大学4年になるので、就職活動で忙しくなると、今までのようにバイトにも来られなくなる。だから最後に、みんなでお花見に行きたいと思った。
そして、その楽しかったお花見からすぐの、4月中旬、日曜日。
朝の準備が終わって、カウンターにいたえつみと木幡のところに、店長と石富が「言っとかなきゃいけないことがある」と言ってやってきた。
なにかと思えば、『店のリニューアル資金を貯めるために、店の2階に2人で同居する』という話で、事情を知ってるえつみと木幡は、なんだか居た堪れなくて恥ずかしくて、異様に困ってしまった。
2人が厨房に戻ると、木幡は声をひそめる様にして、えつみに聞いてきた。
「えつみさん、あの同居って、資金貯めるためなのと、単に一緒に住みたかったのと、どっちがホントの理由だと思う?」
「さーねぇ。どっちも本当じゃない?でもウィンド・ベルがレストランになったら、素敵だろうね」
大きくキレイにリニューアルされ、オシャレなカフェレストレンになったウィンド・ベルを想像して、えつみはちょっとうっとりとした。だがそこに、ウェイトレスとして働く自分の姿は、どこにもない。
きっとその頃には、自分はもう、この場所にはいないだろう。
どこかの会社に就職し、偉そうな上司にお茶くみでもしているかもしれない。でもそうなったら、今の経験を生かし、嫌味なくらい、美味しいコーヒーを淹れてやろうと思う。
そしてここに、ここからもらった給料ではないお金を持って、おいしいコーヒーを飲みに来よう。そして、キレイな店長さんに上司の愚痴を聞いてもらって、ロン毛のコックが作る、まかないではない料理を、食べさせてもらおう。
えつみは、ウィンド・ベルが大好きだ。
ここで働く人、来てくれるお客さん、みんなみんな、大好きな人達だ。
もう1つの家族のようなこの場所が、本当に大好きだった。
(辞めても家族だよね。弥生と一緒に、お客として来るから)
だからえつみは、いつかくるみんなとの別れも、悲しいとは思わない。給仕する側から、される側になるだけなのだから。でも、それでもやっぱり、その時のことを思うと、胸の奥がつまるように、ぐっと圧迫するものがある。
(やば……)
えつみはそれをごまかすように、張り切った声を出して木幡の背中を叩いた。
「いてっ」
「さ、仕事だ、仕事。リニューアルのために、うちらもがんばんねーと」
「……リニューアルかぁ。じゃあもう、臨時休業はないかな」
「はは、そうだね。ないかもね」
木幡の言葉に、えつみは笑った。
そして、厨房で話をしている、恋が実ったという理由でズル休みした大人達を、ちらりと見た。
優しく微笑み合いながら、言葉を交わす2人。あれでバレてないと思っている彼らを、えつみは心底可愛いと思う。一回りも年上の彼らだが、えつみの目には、初めて恋愛している中学生に見えた。
人は本物の恋をすると、本当に周りが見えなくなるらしい。
その光景にふっと目を細めると、チリンチリン、と風鈴のようなドアベルの音が聞こえる。
えつみは厨房から目を逸らし、入ってきたお客さんを、笑顔でお迎えした。
「いらっしゃいませ。ウィンド・ベルへようこそ」
リクエストくださったE様、こんな感じになりましたが……いかがだったでしょうか><
ご感想いただければ幸いです。
なんか秋家と石富がすげー鈍くて、バカっぽくなってしまったようなw
33歳なのに……
登場人物の中で、えつみが一番メンタルが強くて大人です。
それと木幡も、年以上に心が老けてますw
この2人は、シリーズ通して脇役で登場する予定です。
というわけで新連載もウィンド・ベル絡みです☆
先日のラストにはたくさん拍手いただきまして、ありがとうございました(*^^*)!
ご満足いただけたか心配でしたが、ホッとしました。
コメントもたくさんいただきまして、Kさま、名無しさま、Yさま、Pさま、Mさま、名無しさま、いつも温かいコメント、本当にありがとうございます(。>_<。。)
がんばれます!
キリ番リクエストをいただきました。
ありがとうございます(*^^*)
番外編/キリリクSS 〜臨時休業に気をつけろ〜
【More・・・】
吉山えつみが“そのこと”に気付いたのは、昨年12月、年の瀬のことだった。クリスマスを目前に控えて、誰もが浮き足立っている、そんな時期。
バイト先の喫茶店、『ウィンド・ベル』の店長である秋家と、シェフである石富の様子が、ちょっとおかしいと気がついた。といっても、なにも雰囲気が悪いわけではなくて、むしろそれは良いといってもいいくらいなのだが、2人一緒にいるところを見ると、なんだか、なんと説明してよいのやら複雑だが、妙にくすぐったいような、知らずこっちが恥ずかしくなってしまうような、変な気分になった。
店長と石富は中学時代からの親友で、付き合いはもう20年以上になるらしい。えつみはそのうちの、最近の3年ぶんくらいしか知らないため、彼らがどの程度仲が良くて、どういう付き合いをしてきたのかは、全くわからない。だが、親友という割にはどこか、2人からは不思議な空気を感じることがあった。不自然というほどではないが、なんとなく、不思議な感じ。
男の親友同士なら、もっと砕けているのが普通だとえつみは思う。
えつみの父は、たまに高校の時からの親友を、家に連れてくることがある。もう40歳も過ぎているが、どこのガキかというくらい、バカな話ばかりして大はしゃぎしている。店長と元ヤンであるえつみの父では、比較してもあまり意味がないかもしれないが、オッサンになっても高校生みたいに楽しそうな父を見て育ってきたからか、2人共、特に店長は、えつみの目には不思議な人にうつった。
店長がゲイだということを知ってからは、だから店長の方が気にして、あんな微妙だったのかな、とも思ったけれど、やっぱりそれだけではないような気もして、えつみは彼ら2人の関係を、いつも不思議に思っていた。
それが今は、ビックリするくらいナチュラルになっている。だがそこからは、親友に対してというよりも、なにかもっと温度の高い、甘ったるい熱のようなものを感じてならない。
それで考えてみたところ、あの臨時休業がなにか関係しているのではないかと、えつみは思った。確かにウィンド・ベルは、水曜日が定休日と一応決まってはいるものの、不定休気味なところがありはする。だが、定休日の翌日に臨時休業して、2日連続で休んだことなど、少なくともえつみが働き始めてからは一度もなかった。
それに、いつもその手の連絡は店長がよこすのに、その日は石富が電話をしてきた。なんでも石富の体の調子が悪いとかで、悪化させないために今日休んで治しておく、ということだったが、それなら余計、店長がかけてくるのが普通じゃないかと思い、矛盾を感じた。
そしてその翌日仕事に行っても、石富は調子が悪かったとは思えないほど元気だったし、というかいつも以上にパワフルで、暑苦しいくらい機嫌が良かった。
これはひょっとして……そう思っていた矢先。
正月が明けてすぐのこと、えつみは遊びに行ったクラブで、バイト仲間の木幡優二郎に偶然出くわした。あんたも来てたの、と声をかけてから、ふと、木幡は気付いているんだろうか、と思い、えつみは話をふってみた。
「最近さぁ、店長なんか、明るくなったと思わない?」
「ああ、そりゃあ、あれでしょ。たぶん石富さんと、アレなんじゃない?」
あれ、アレ、ばかりで曖昧だが、それでも充分わかった。
「……あんたも気付いたんだ」
「まーね。ていうか、わかるでしょ。……たぶん、あの臨時休業がボーダーだと、俺は思うけど」
「あー……だよなぁ、やっぱ」
木幡も、えつみと全く同じことを考えていたようだ。2人がそう思う理由の1つに、臨時休業の翌日のまかないが、ずいぶんと豪華だったせいがある。石富はいつも忙しいから、簡単なカレーですまされることが多いまかないだが、たまに店のメニューと同じものを作ってくれる時がある。
だがそれは、お客の入りが比較的少なく、なおかつ石富が『作ってやるか』という気分になった時だけで、そう滅多にあるもんじゃない。それなのに、定休日と臨時休業が続いたため、いつもの平日より客足が多く忙しかったにもかかわらず、『好きなもの作ってやるから』とリクエストまで聞いてくれたのだ。
「あのまかないもさ、たぶん、嘘ついて休んだの後ろめたくて、石富さんが俺らにサービスしてくれたんだよ。結局あれ1回きりだし……また聞いてくれると嬉しいんだけどなぁ」
「まぁ、確かにあれは嬉しかったけどね。つーかさ、そういう関係になったのはあの臨時休業の日だったにしても、それまでは友達として付き合ってきたわけでしょ?いつから、お互いそういう意味で好きになったのかなぁ」
「最初からでしょ」
あまりにはっきり木幡が言うもので、えつみは少々面食らった。だが、木幡は真剣な顔で、当たり前じゃん、と付け加えた。
「店長はゲイだけど、石富さんはノンケっしょ?確実に友情で、心底親友だと思ってたなら、それはもう死ぬまで変わらないはずだよ。友達が恋人になったなんて、相手が女ならわかるけど、ノンケが男相手にそれはないって。最初から、石富さんの好きの方向は、友情じゃなかったんだよ、きっと。店長は元々男が恋愛対象だから、友情が恋愛になるっていうのも、あるかもしれないけどね」
木幡は緑色のカクテルを飲みながら、つらつらと言葉を並べた。えつみはそれを聞いて、なるほど、と強く納得した。確かに、石富は結婚もしていたというし、どう考えてもゲイではなかろう。それが、例えばもし、店長に好きだと言われたとしても、友情の好意が同性相手に恋愛に変換されるなど、基本ノーマルの人間には、やはりありえないのかもしれない。
「へー、さすがだね。バイだとそういうこともわかるもんなの?」
「まぁ、バイだからというか、俺がそう思うだけだけど。ネーさん、あんただってさ、男友達にコクられたら、なんとも思ってなかった相手でも、少しは意識しちゃうでしょ?でも友達だと思ってた女の子にコクられたって、意識どころか無理としか思わないでしょーが。ノーマルの人っていうのは、そういうもんだよ」
「あー……まぁ、そうだな。できたら考えてあげたいと思うけど、どうしたって無理だよな……そうか、そういうことね」
「そうそう。ちなみに俺は、どっちがどう来ても、どんな風にも対処できるけどね」
「ぶっ、節操ねーな、お前は」
それから、木幡とはいくつか決め事をした。
店長も石富も、えつみ達バイトに交際宣言するつもりはないだろうから、こちらからは何も言わないでおく。特に知らないふりをするわけではなく、向こうに何か言われない限り、口にはしないということだ。彼らも隠そうとしているというよりも、言う必要がないから言わないだけだろうし、そこはお互い、踏み込み過ぎないよう、ラインを守っておいた方がいい。
もしなにかハプニングがあって、彼らにしたら『バレた』という事態が起こった時は、気付いてましたから、と言って笑ってあげればいい。それくらいの丁度いい関係が、2人との間にはあるつもりだ。
それと、もう1つ。
「ネーさん、晴希は気付いてると思う?」
「まさか。自分のことで精一杯だよ、あいつは」
「やっぱり?」
おそらく全く気付いていないだろう晴希にも、あえて言ったりはしない。だが万が一、気付いた晴希がえつみか木幡に確認しに来たら、たぶんね、と言ってやって、黙っておくように言えばいい。
「店長もハル坊も、ホントに幸せそうだなー」
えつみがしみじみそう言うと、木幡は深く頷く。
「ホントだねぇ。特に最近、店長すげーキレイっしょ。石富さんに満たされてんだね」
「……生々しいな、オイ」
こうしてクラブで木幡と話した日から、3ヶ月後の春。
えつみは店長に、みんなでお花見に行こうと提案してみた。本当は、ずっと前から店のみんなで出かけてみたかったのだが、店長と石富の出す雰囲気がそういうものではなかったので、なかなか誘えなかったのだ。でも、えつみは今年大学4年になるので、就職活動で忙しくなると、今までのようにバイトにも来られなくなる。だから最後に、みんなでお花見に行きたいと思った。
そして、その楽しかったお花見からすぐの、4月中旬、日曜日。
朝の準備が終わって、カウンターにいたえつみと木幡のところに、店長と石富が「言っとかなきゃいけないことがある」と言ってやってきた。
なにかと思えば、『店のリニューアル資金を貯めるために、店の2階に2人で同居する』という話で、事情を知ってるえつみと木幡は、なんだか居た堪れなくて恥ずかしくて、異様に困ってしまった。
2人が厨房に戻ると、木幡は声をひそめる様にして、えつみに聞いてきた。
「えつみさん、あの同居って、資金貯めるためなのと、単に一緒に住みたかったのと、どっちがホントの理由だと思う?」
「さーねぇ。どっちも本当じゃない?でもウィンド・ベルがレストランになったら、素敵だろうね」
大きくキレイにリニューアルされ、オシャレなカフェレストレンになったウィンド・ベルを想像して、えつみはちょっとうっとりとした。だがそこに、ウェイトレスとして働く自分の姿は、どこにもない。
きっとその頃には、自分はもう、この場所にはいないだろう。
どこかの会社に就職し、偉そうな上司にお茶くみでもしているかもしれない。でもそうなったら、今の経験を生かし、嫌味なくらい、美味しいコーヒーを淹れてやろうと思う。
そしてここに、ここからもらった給料ではないお金を持って、おいしいコーヒーを飲みに来よう。そして、キレイな店長さんに上司の愚痴を聞いてもらって、ロン毛のコックが作る、まかないではない料理を、食べさせてもらおう。
えつみは、ウィンド・ベルが大好きだ。
ここで働く人、来てくれるお客さん、みんなみんな、大好きな人達だ。
もう1つの家族のようなこの場所が、本当に大好きだった。
(辞めても家族だよね。弥生と一緒に、お客として来るから)
だからえつみは、いつかくるみんなとの別れも、悲しいとは思わない。給仕する側から、される側になるだけなのだから。でも、それでもやっぱり、その時のことを思うと、胸の奥がつまるように、ぐっと圧迫するものがある。
(やば……)
えつみはそれをごまかすように、張り切った声を出して木幡の背中を叩いた。
「いてっ」
「さ、仕事だ、仕事。リニューアルのために、うちらもがんばんねーと」
「……リニューアルかぁ。じゃあもう、臨時休業はないかな」
「はは、そうだね。ないかもね」
木幡の言葉に、えつみは笑った。
そして、厨房で話をしている、恋が実ったという理由でズル休みした大人達を、ちらりと見た。
優しく微笑み合いながら、言葉を交わす2人。あれでバレてないと思っている彼らを、えつみは心底可愛いと思う。一回りも年上の彼らだが、えつみの目には、初めて恋愛している中学生に見えた。
人は本物の恋をすると、本当に周りが見えなくなるらしい。
その光景にふっと目を細めると、チリンチリン、と風鈴のようなドアベルの音が聞こえる。
えつみは厨房から目を逸らし、入ってきたお客さんを、笑顔でお迎えした。
「いらっしゃいませ。ウィンド・ベルへようこそ」
リクエストくださったE様、こんな感じになりましたが……いかがだったでしょうか><
ご感想いただければ幸いです。
なんか秋家と石富がすげー鈍くて、バカっぽくなってしまったようなw
33歳なのに……
登場人物の中で、えつみが一番メンタルが強くて大人です。
それと木幡も、年以上に心が老けてますw
この2人は、シリーズ通して脇役で登場する予定です。
というわけで新連載もウィンド・ベル絡みです☆
先日のラストにはたくさん拍手いただきまして、ありがとうございました(*^^*)!
ご満足いただけたか心配でしたが、ホッとしました。
コメントもたくさんいただきまして、Kさま、名無しさま、Yさま、Pさま、Mさま、名無しさま、いつも温かいコメント、本当にありがとうございます(。>_<。。)
がんばれます!
●Eさま
遠麗 | 2008.06.26(木) 20:57 | URL | コメント編集
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| 2008.06.24(火) 02:24 | | コメント編集
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喜んでいただけて幸いです。
典型的な姉御タイプというのを目指して書いてる人なので、かっこいいというのは最高の褒め言葉でございます。
まだSSが続いてますが、新連載もがんばりますので、よろしくお願いします☆
ありがとうございました!