2008.06/26(Thu)

番外編/おまけSS

番外編/おまけSS  〜I am mum〜

【More・・・】

 秋家登和子(とわこ)、58歳、主婦。
 趣味は韓流ドラマを見ることと、最近始めたフラダンス。性格は一見おっとりして見えるが、実はそうでもないことは、本人以外あまり知らない。理想のタイプは眼鏡の似合う、笑顔の素敵な人で、そんな彼にもし誘われたなら、夫を裏切ることも厭わないと、本気で思っている。

 割と涙もろいが、気丈で胆は意外と太く、怖いものなどそう無い登和子だが、絶対的な弱点が1つだけある。それは、離れて暮らす1人息子、尚和だ。登和子は、尚和が可愛くて仕方がない。己が腹を痛めて産んだ子供なのだから、可愛くても当然なのだけど、とにかく尚和のためならなんでもできるくらいに、大事でたまらない。

 そんな尚和の、今日は誕生日だった。顔が見たかったので家に来るように言うと、尚和は朝にやって来たが、昼には帰ってしまった。もう少しいてほしかったのだが、剣二と約束があるのだろうから、無理に引き止めるのはやめた。

(やっぱり剣二くんと、そういう仲だったのね。そうだろうとは思ってたけど……まぁ、これですっきりしたわ)

 今日息子に、長年抱き続けてきた疑問を、思いきってぶつけてみた。尚和はまさか登和子が気付いているとは思ってもみなかったようで、ビックリして固まっていた。だが、その通りだとすぐに認め、自分の気持ちを素直に語ってくれた。

 高校卒業と同時に、剣二から逃げるようにして東京に行ってしまった息子。その行動を『普通ではない』と15年前に感じてから、あの子は剣二くんのことを特別に意識しているのではないかしら、と、登和子はずっと思ってきた。中学、高校と、一度として女の子を家に連れてきたことはなかったので、それも登和子をそう思わせる理由の1つだった。

 親の目から見ても見目のいい息子が、彼女の1人も連れてこないことは、ホッとする反面、不思議でもあった。いつかこの可愛い息子は、どこかの女に取られてしまうのだ、と思ってきたけれど、まさか男の、しかも剣二に取られるとは想像もしていなくて、自分でも胸中は判然としない。

 だが、登和子は尚和が幸せならそれでいいと思っている。世間体も自分のこともどうでもよく、ただ願うは尚和の幸せのみ。そしておそらく、剣二ならそれを叶えてくれる……というより、剣二にしかできないことだったのだと、年初めに2人でうちに来た時のことを思い出し、そう思った。

 剣二といる時の尚和の笑顔は、本当に幸せそうで、キラキラと輝いて見えた。あんな笑顔を見たのは尚和が高校生の時以来で、本当にこの子は剣二くんが好きなのねと、はっきりとわかった瞬間だった。

 本当は、登和子が何も言わなくても、尚和の意志で話してほしいと思っていた。家族といえど、易々と誰かに言えるような内容ではないとわかってはいるが、母親である自分くらいは信用してほしかった、というのが本音だ。無理に聞き出すような形になって不本意ではあったが、ちゃんと尚和の口から聞くことができて、登和子は安心している。
 ビックリさせただろうし、自分の性癖を親に告げることは相当つらかっただろう。そして、おそらく尚和は、父親のことを気にしていると思う。

 でも、大丈夫。

(母さんに、まかせておきなさい。さてと……)

 登和子は晩ご飯の洗い物を終え、テレビでニュースを見ていた夫、尚平(しょうへい)の隣に、少し間を空けて座ると、今日のことを尚平に話して聞かせた。もちろん、尚和の性癖や、剣二との関係についても、一通りの事実を告げた。そして、夫の反応を窺う。

「な、何を言ってるんだ……?剣二くんて、あ、あの、あの子だろ……どういうことだ、なぜ、そうなるんだ……」

 ある意味予想通りの夫の反応に、登和子ははぁ、と1つため息をつき、夫の顔をじっと見つめた。尚平は、完全にパニックになって、わけがわからないという顔をしている。落ち着き払った登和子を、なにか不思議なものでも見るかのように、目を白黒させて凝視する。

「言った通りですよ。尚和は剣二くんと、恋人なんです。恋愛をしてるんですよ。意味、わかりますね?」
「い、意味なんて、わかりたくもないわ!お、お前は、なぜそんなに落ち着いてるんだ……!」
「騒ぐことじゃないからですよ。好きなら、しょうがないじゃありませんか」
「しょうがないですむわけがないだろう!男同士なんて許せるか、気持ちの悪い!」
「……なんですって?」

 ピクっと、登和子の眉が引き攣った。じとっと夫を静かに睨みつけると、尚平は驚いたような顔になり、ぐっと口をつぐんだ。
 昔から登和子は、貞淑で良い妻と言われてきた。見合いで結婚してから35年間、喧嘩という喧嘩もしたことがないのは、常に登和子が怒らず騒がず、一段低い位置から夫を立ててきたからだ。そんな登和子が、夫を睨みつけている。尚平にとってそれは、初めて真正面から受けた、妻の怒りだった。

「あなた今、なんて言ったの。気持ち悪いっておっしゃったの?それは尚和のことを言ったのかしら。私が産んだ大事な子を、気持ち悪いですって?ねぇ、それは本気で思ってるんですか?」
「いや、あの、な……」

 口調は穏やかだが、登和子の目は完全に据わっている。瞬きもせず、じーっと視線で夫を責めている。登和子は本当に久しぶりに、腹の底から怒っていた。

「あなたが本気でそんなことを言ってるのなら、私はあなたを許せません。尚和は今幸せなんですよ。それを許せないと言うのなら、そんな夫とは離婚します」
「な……!ちょっ……な、なにを言ってるんだ!?どうして、尚和の話が俺達の離婚につながるんだ!」
「どうして?不思議なことじゃないでしょう。息子の幸せを望めない父親なんて、私はいらないと言ってるんですよ。私はあの子が大事です。あの子には、幸せになってもらいたい。それを許さないと言うのなら、私があなたを許しません。あなたも、同じようにしてあげます」

 尚平は、信じられないものでも見るかのように、真剣な顔の登和子を凝視した。
 登和子は、本気だった。夫のことは愛しているが、尚和への愛に比べたら差は歴然だ。たとえ夫であろうと、息子の邪魔をするモノは排除する。それが人として正しかろうが間違っていようが、そんなことはどうでもいい。

 ただあの子を、守るのみ。

「と、登和子……?本気なの、か……?」
「本気ですよ。離婚しても、年金は分割されて、私ももらえるそうですしね。尚和と剣二くんのお店の近くにでも住んで、たまに会いに行ったりして、楽しく暮らししますよ。あなたは尚和のこと許さないんですよね?それなら、もうあの子に会わないでくださいね。これから、1人で生きていってください」

 登和子はわざと『1人で』のところに力を入れ、夫を見た。尚平は、おそらく想像したのだろう。妻に捨てられ、息子にも会えず、1人寂しく暮らす、老いた自分の姿を。
 はー、と長いため息をつき、尚平は膝についた手に頭を乗せてうつむいた。

 いつもは大人しく、まして夫に対してここまで歯向かったことなど、結婚してから一度もない。そんな登和子がここまで怒っていて、離婚などと言われてしまっては、もう尚平に、『反対する』という選択肢は残っていなかった。だが。

「……なぁ、登和子。孫の顔を、俺達は見れないのか……?」
「なに言ってるんです。孫なら、すぐにできるわ。駿(すぐる)だって、私達の子供でしょう?」

 秋に結婚が決まった甥の駿は、尚和の5つ年下の従弟にあたり、尚平の実妹の息子だ。尚平の妹、良美(よしみ)は、駿が3歳の時に夫と離婚し、兄を頼って近くのアパートに越してきた。仕事に行く時は登和子に駿をあずけ、毎日一生懸命働いていた。登和子にとっても妹みたいなものだったので、一緒に住めばいいのに、と何度も勧めたが、良美は『それじゃあ甘えてしまう』、といって1人で駿を育てていた。だが、駿が中学2年の夏に、出勤途中の車の事故で、良美は帰らぬ人になってしまった。

 それからは、駿を登和子達が引き取り、大学も行かせて、今は銀行で真面目に働いている。駿自身も、尚平のことは父親だと思っていると言っていたし、登和子のことも、伯母ではなく『もう1人の母さん』だと言ってくれる。駿もまた、登和子にとって『もう1人の息子』だった。

「そうか……そう、だな。駿も、息子だ……。尚和は、仕方がないなぁ……」
「なにが仕方ないんです?」
「いや…………離婚は、しないでくれ」
「じゃあ尚和のこと、認めてあげるのね?」
「……お前達を失うよりは、マシだ」
「どういう意味かしら。はっきりおっしゃって」
「ああ、もう!今のでわかっただろ!?認めると言ったんだ!」
「そう。ありがとう」

 登和子はにっこりと微笑み、満足気にソファの背もたれに深くもたれた。
 この嫁は、こんなにしたたかだっただろうか?と尚平の表情が語っている。まじまじと登和子を見つめ、呟くように言った。

「なぁ、登和子よ。お前、こんなにきつい性格だったか……?」
「さてね。私にもわかりません。ただ私は、尚和の幸せを一番に考えてるだけです」
「……そうか。俺も、そのはずなんだがなぁ……」
「はず、じゃいけませんよ。そうしてあげなきゃいけないわ。あの子の親は、私達だけなんですから」
「……うむ」

 登和子はふふ、と微笑み、お茶入れてくるわね、と立ち上がった。台所に向かう途中、父親が認めてくれた、と尚和に報告しようかと思ったが、今頃剣二にお祝いしてもらっている最中だろうから、やめておいた。
 早く教えてあげたいけれど、幸せな時間を邪魔するわけにはいかない。

(うまくいってよかったわ……)

 離婚する、と言った時は本気だったが、よく考えてみたらそんなことになれば、尚和が1番悲しむ。だが、尚平の動揺は予想以上で、思いの外効果を発揮した。怒りで自分でもビックリするくらいに、スラスラと脅すような言葉が出てきて、尚平にはきつかったかもしれないが、これも尚和を想うがゆえの、登和子の愛だ。

 湯飲みにこぽこぽと緑茶を注ぎながら、登和子は尚和の顔を思い出した。今頃きっと、楽しい誕生日を過ごしていることだろう。

(誕生日おめでとう、尚和。私はあなたのためなら、どんなことでもできるのよ)

 だって私は、母親ですから。





2回続けてBLじゃない……!w
すみませんo(;>△<)O
このオカンネタ、拍手内コメントでちょこっとご希望いただきましたので、書いてみましたw
個人的には楽しかったですが、いかがでしたでしょうか。
次回は拍手御礼SSで、店長を書こうと思います。
どうもありがとうございました(^-^)

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

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