2007.08/24(Fri)
あの日の君と風鈴の音1−1
chapter1−1
晴希がここ、喫茶店『ウィンド・ベル』でアルバイトするようになって、3週間弱になる。4月の下旬から始めて、慣れるか慣れないかのうちにゴールデン・ウィークに入って、揉まれるうちになんとか一通り仕事も覚えた。こうしておしぼりを丸める手際も、やっと板に付いてきたところだ。おしぼり専用の洗濯機で洗ったハンドタオルを、軽く脱水してアルコール消毒した手できれいに丸める。それを殺菌灯付きのホットキャビネットに入れて、温めるのだ。
この4月に高校に上がったばかりの晴希は、アルバイトは初めての経験で、最初の頃は接客の際に手も声も震えて大変だった。言葉はうまく出てこないし、お客の顔はまともに見れないしで、店の人にフォローしてもらいながら、最近やっと緊張せずに注文を取ることができるようになったところだ。
ウィンド・ベルは商店街にある小さな喫茶店で、カウンター席が5つにテーブル席が6つと、一度に迎えられるお客さんはそれほど多くない。それでも、おいしいコーヒーと料理に、穏やかで美形な店長の効果か、経営状態は上々らしい。晴希の教育係をしてくれた先輩アルバイトの女子大生、吉山(よしやま)えつみがそう教えてくれた。
この店の店長・秋家(あきや)尚和(なおかず)は、穏やかで人当たりの良い性格と、中性的で整った顔立ちとで、商店街の皆さまだけに止まらず、訪れるお客さんを皆惹きつける。そして常連にしてしまうのだ。実際この店のアルバイトは皆、勤めてまだ3週間弱の晴希も含め、全員秋家のシンパである。と言っても、店長の秋家と厨房担当の石富(いしとみ)以外は全員アルバイトなので、実質この店は秋家のシンパ組織と言ってもいい。
厨房の石富剣二(けんじ)は、軽く180は超えているだろう長身に、趣味はサーフィンと言うだけあってがたいも良く、年中日焼けした浅黒い肌で、笑うと歯が白い。日に焼けて茶色い髪を後ろで結んで、性格も容姿に見合って豪快で明るい。初見ではでかくて怖そうだと思った晴希も、今では優しい人だと知っている。たまに意地悪なことも言われるが、それは彼なりの愛情だとわかっているから腹も立たない。顔もなかなか男前で、商店街のおばさんやお婆ちゃん達に人気があると、これもえつみが教えてくれた。
秋家と石富は2人とも33歳で、中学時代からの友人らしい。見た目も中身も正反対と言ってもいい2人は、一見気も合わなさそうだが、20年も付き合いがあるのだからすごいと思う。逆に正反対だからこそ長く付き合える、ということもあるのかもしれないなと、晴希は彼らを見ていて時々思う。
晴希はおしぼりを全て丸め終えると、キャビネットにそれを丁寧に入れ始める。今はテーブル席に中年の女性客が二人いるだけなので、カウンターには晴希1人だった。厨房には石富がいるはずだが、静かなので外でタバコでも吸っているのかもしれない。秋家は食事休憩で、店の2階にある彼の自宅に上がっている。これから混む時間帯なので、そろそろ降りて来る頃だ。
晴希はエプロンの紐を結びなおして、水道で手を洗った。ウィンド・ベルに制服はなく、店長はじめ皆この店名入りのエプロンをしている。薄い青色の生地に、白い文字で『Wind Bell』のロゴが入っていて、胸元には金魚の絵柄のガラス風鈴の絵がプリントされている。えつみはこのエプロンが可愛いと、お気に入りらしい。でも厨房の石富だけは、白いコックコートにブルーのタブリエをしていて、フロアの晴希たちとは格好が違う。
手をタオルで拭いた晴希は、製氷機から氷をすくってピッチャーに入れると、浄水器から水を入れた。広げたタオルの上にそれを置き、クロスでカウンターのテーブルを拭いていると、唯一のお客さんだった中年女性二人が、伝票を持ってレジにやってきた。
「ありがとうございます」
にこやかに笑いながら精算をすませ、軽く頭を下げる。
「ありがとうございました。またお越しください」
女性客が帰ってから、晴希はトレーを持って彼女達が座っていたテーブルの片付けに向かった。空になったグラスとカップをトレーに乗せ、クロスでテーブルを拭いてカウンターに戻ると、秋家が厨房でコーヒーを飲みながら石富と話していた。
「あ、ハル君も今のうち休んでいいよ。今の客さんでいなくなったんでしょ?」
見れば石富も、お冷用のグラスでコーラを飲んでいる。
「なんならクリームソーダでも作ってやろーか?子供は好きだからな、クリームソーダ。アイス二個入れてやんぞ」
けけけっと笑いながら、石富が意地悪そうな顔で晴希に言った。どうも石富は晴希を子供だとからかうのが好きなようで、ほとんど毎回この手の意地悪を言われている。
「もう、石富さん……」
「まったく……そう言ってる剣二の方が子供じゃない。ハル君をからかうな」
秋家にぴしりと言い渡されても、石富は意に介しない。
「だってハル坊チビで可愛いんだもんよ。見ろよこのでっかい目。それにコンパクトな体のサイズ。ほれ、手に乗ってみろ。愛玩ドーブツ」
「ぷはっ……!あはは」
「だ、誰が動物ですか!店長も笑わないでください!」
石富の例えに秋家は思わずコーヒーを吹き出した。晴希は石富に言われたことより、秋家が笑ったことの方にへこんでしまう。石富はいつも晴希をからかうけれど、本気でいじめられているわけではないので、晴希もそれなりにお遊びとして楽しんでいる。だが、秋家は普段晴希をからかったりは絶対しないので、こうして石富の言葉で笑われたりすると、ちょっとだけふてくされてしまう。
「ご、ごめん、ハル君。でも、あまりにも言い得て妙というか……あはは」
「ばっかだな、ハル坊。それくらい可愛いって言ってんじゃねーか。喜べよ」
むぅっと顔を顰めてみても、石富は笑ってばかりだ。
【More・・・】
店内に流れるBGMが、アメリカン・ポップスのインストルメンタルからジャズ・ディキシーに変わって、おしぼりを丸めていた若水(わかみず)晴希(はるき)はふと顔を上げた。タイマーにしてあるBGMが変わったということは、夕方の6時を回ったことになる。店の外に目をやると、ガラスの向こうの商店街の通りは少し薄暗かった。晴希がここ、喫茶店『ウィンド・ベル』でアルバイトするようになって、3週間弱になる。4月の下旬から始めて、慣れるか慣れないかのうちにゴールデン・ウィークに入って、揉まれるうちになんとか一通り仕事も覚えた。こうしておしぼりを丸める手際も、やっと板に付いてきたところだ。おしぼり専用の洗濯機で洗ったハンドタオルを、軽く脱水してアルコール消毒した手できれいに丸める。それを殺菌灯付きのホットキャビネットに入れて、温めるのだ。
この4月に高校に上がったばかりの晴希は、アルバイトは初めての経験で、最初の頃は接客の際に手も声も震えて大変だった。言葉はうまく出てこないし、お客の顔はまともに見れないしで、店の人にフォローしてもらいながら、最近やっと緊張せずに注文を取ることができるようになったところだ。
ウィンド・ベルは商店街にある小さな喫茶店で、カウンター席が5つにテーブル席が6つと、一度に迎えられるお客さんはそれほど多くない。それでも、おいしいコーヒーと料理に、穏やかで美形な店長の効果か、経営状態は上々らしい。晴希の教育係をしてくれた先輩アルバイトの女子大生、吉山(よしやま)えつみがそう教えてくれた。
この店の店長・秋家(あきや)尚和(なおかず)は、穏やかで人当たりの良い性格と、中性的で整った顔立ちとで、商店街の皆さまだけに止まらず、訪れるお客さんを皆惹きつける。そして常連にしてしまうのだ。実際この店のアルバイトは皆、勤めてまだ3週間弱の晴希も含め、全員秋家のシンパである。と言っても、店長の秋家と厨房担当の石富(いしとみ)以外は全員アルバイトなので、実質この店は秋家のシンパ組織と言ってもいい。
厨房の石富剣二(けんじ)は、軽く180は超えているだろう長身に、趣味はサーフィンと言うだけあってがたいも良く、年中日焼けした浅黒い肌で、笑うと歯が白い。日に焼けて茶色い髪を後ろで結んで、性格も容姿に見合って豪快で明るい。初見ではでかくて怖そうだと思った晴希も、今では優しい人だと知っている。たまに意地悪なことも言われるが、それは彼なりの愛情だとわかっているから腹も立たない。顔もなかなか男前で、商店街のおばさんやお婆ちゃん達に人気があると、これもえつみが教えてくれた。
秋家と石富は2人とも33歳で、中学時代からの友人らしい。見た目も中身も正反対と言ってもいい2人は、一見気も合わなさそうだが、20年も付き合いがあるのだからすごいと思う。逆に正反対だからこそ長く付き合える、ということもあるのかもしれないなと、晴希は彼らを見ていて時々思う。
晴希はおしぼりを全て丸め終えると、キャビネットにそれを丁寧に入れ始める。今はテーブル席に中年の女性客が二人いるだけなので、カウンターには晴希1人だった。厨房には石富がいるはずだが、静かなので外でタバコでも吸っているのかもしれない。秋家は食事休憩で、店の2階にある彼の自宅に上がっている。これから混む時間帯なので、そろそろ降りて来る頃だ。
晴希はエプロンの紐を結びなおして、水道で手を洗った。ウィンド・ベルに制服はなく、店長はじめ皆この店名入りのエプロンをしている。薄い青色の生地に、白い文字で『Wind Bell』のロゴが入っていて、胸元には金魚の絵柄のガラス風鈴の絵がプリントされている。えつみはこのエプロンが可愛いと、お気に入りらしい。でも厨房の石富だけは、白いコックコートにブルーのタブリエをしていて、フロアの晴希たちとは格好が違う。
手をタオルで拭いた晴希は、製氷機から氷をすくってピッチャーに入れると、浄水器から水を入れた。広げたタオルの上にそれを置き、クロスでカウンターのテーブルを拭いていると、唯一のお客さんだった中年女性二人が、伝票を持ってレジにやってきた。
「ありがとうございます」
にこやかに笑いながら精算をすませ、軽く頭を下げる。
「ありがとうございました。またお越しください」
女性客が帰ってから、晴希はトレーを持って彼女達が座っていたテーブルの片付けに向かった。空になったグラスとカップをトレーに乗せ、クロスでテーブルを拭いてカウンターに戻ると、秋家が厨房でコーヒーを飲みながら石富と話していた。
「あ、ハル君も今のうち休んでいいよ。今の客さんでいなくなったんでしょ?」
見れば石富も、お冷用のグラスでコーラを飲んでいる。
「なんならクリームソーダでも作ってやろーか?子供は好きだからな、クリームソーダ。アイス二個入れてやんぞ」
けけけっと笑いながら、石富が意地悪そうな顔で晴希に言った。どうも石富は晴希を子供だとからかうのが好きなようで、ほとんど毎回この手の意地悪を言われている。
「もう、石富さん……」
「まったく……そう言ってる剣二の方が子供じゃない。ハル君をからかうな」
秋家にぴしりと言い渡されても、石富は意に介しない。
「だってハル坊チビで可愛いんだもんよ。見ろよこのでっかい目。それにコンパクトな体のサイズ。ほれ、手に乗ってみろ。愛玩ドーブツ」
「ぷはっ……!あはは」
「だ、誰が動物ですか!店長も笑わないでください!」
石富の例えに秋家は思わずコーヒーを吹き出した。晴希は石富に言われたことより、秋家が笑ったことの方にへこんでしまう。石富はいつも晴希をからかうけれど、本気でいじめられているわけではないので、晴希もそれなりにお遊びとして楽しんでいる。だが、秋家は普段晴希をからかったりは絶対しないので、こうして石富の言葉で笑われたりすると、ちょっとだけふてくされてしまう。
「ご、ごめん、ハル君。でも、あまりにも言い得て妙というか……あはは」
「ばっかだな、ハル坊。それくらい可愛いって言ってんじゃねーか。喜べよ」
むぅっと顔を顰めてみても、石富は笑ってばかりだ。
●ごめんなさい
遠麗 | 2007.09.19(水) 18:34 | URL | コメント編集
●こんばんは!
コミュでお世話になっております、莉莉です!
先日はわざわざお越しくださった上にコメントをありがとうございました。
BL小説をこちらで書かれているとのことでしたので、ウハウハで馳せ参じました(笑)
1−1を拝読したところですっかり遅くなってしまったので、続きは明日からの楽しみにさせていただきますvv
中性的な男性が好きなもので、秋家店長さま、もろに好みでございます!
どんなカプになるのか、上か下かなど、早くも脳内にて妄想を繰り広げては頬が緩んでいます〜!
コメにいただきました、真っ赤な蛾のお話。
ごめんなさい、ツボりました(笑)
何だったんでしょうね、その蛾は。
綺麗な揚羽蝶!と楽しみにしていたところに血のような色の蛾だったら、それは小学生にはショックだったことでしょう。
観察日記は完成できたのかどうか、今更ですが心配です。
それでは、深夜に長々と申し訳ありませんでした;
これからもどうぞよろしくお願いいたしますv
先日はわざわざお越しくださった上にコメントをありがとうございました。
BL小説をこちらで書かれているとのことでしたので、ウハウハで馳せ参じました(笑)
1−1を拝読したところですっかり遅くなってしまったので、続きは明日からの楽しみにさせていただきますvv
中性的な男性が好きなもので、秋家店長さま、もろに好みでございます!
どんなカプになるのか、上か下かなど、早くも脳内にて妄想を繰り広げては頬が緩んでいます〜!
コメにいただきました、真っ赤な蛾のお話。
ごめんなさい、ツボりました(笑)
何だったんでしょうね、その蛾は。
綺麗な揚羽蝶!と楽しみにしていたところに血のような色の蛾だったら、それは小学生にはショックだったことでしょう。
観察日記は完成できたのかどうか、今更ですが心配です。
それでは、深夜に長々と申し訳ありませんでした;
これからもどうぞよろしくお願いいたしますv
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気付くのが遅くてお返事も遅くなってしまって、大変申し訳ないです(≧≦)
それで、蛾の話なんですが…w
あんまりよく覚えてないんですが、たぶん『蛾になりました』ってオチで提出したような気がしますw
時間もなかったし…
いい思い出なのか苦い思い出なのかわかりませんww
拙い小説ですが、またいらしてくださいね♪