2007.08/24(Fri)

あの日の君と風鈴の音2−1

chapter2−1

【More・・・】

 若水聖一(しょういち)は、晴希の甥にあたる。晴希の父・若水康夫(やすお)は、17年前に前妻との間の息子・孝幸(たかゆき)が結婚して家を出た後、当時24歳だった晴希の母・英子(えいこ)と再婚し、家へ迎え入れた。孝幸にとっては、義理の母と妻が同い年という、なんとも複雑な事態になったわけだが、孝幸は父の気持ちを理解して英子を受け入れ、姉と弟のような感じで仲良くなっていったらしい。

 その時すでに孝幸のところには聖一が生まれていて、その10ヶ月後に晴希が生まれた。康夫にとって聖一は孫になるので、家が近いこともあって、孝幸はよく妻の真紀恵(まきえ)と共に聖一を連れて、実家である晴希の家に遊びに来ていた。

 康夫は孫の聖一も息子の晴希も、それはもうべたべたに可愛がってくれた。孝幸も弟である晴希をずいぶんと可愛がってくれたし、晴希も孝幸が大好きだった。そのうち晴希にも聖一にも弟が生まれ、小さい頃は本当に、みんな兄弟のように仲良く育ったのだ。

 しかし、晴希達が成長するにつれて家族で会う回数も減っていき、そのうち年中行事でしか会わなくなっていった。車では近い距離でも、子供の唯一の移動手段の自転車ではけっこうな距離で、子供だけで会うには少々遠すぎた。だから晴希が聖一に会えるのは、盆と正月、そしてたまにあったG・Wの小旅行や花見くらいで、年に数回という程度でしかなくなってしまったのだ。

 晴希は聖一と遊びたいなぁ、と時々思っていたけれど、聖一が1年先に中学に上がった時に、ひどく聖一が大人びて見えて、それをずいぶん寂しく感じたのを覚えている。それでも、例え年に数回でも、聖一と会って話せることが、晴希にはとても嬉しかった。

 だが、ある日をきっかけに、晴希と聖一の関係は、ぎこちなく、微妙なものになってしまう。

 あれは3年前、晴希が中学1年の、夏休みだった。お盆で、孝幸一家が晴希の家を訪れていた時だ。康夫と孝幸は応接間でずっと将棋を打っていて、英子と真紀恵は、小学生だった弟たちをプールに連れて行っていた。

 それで残された晴希と聖一は、庭先の縁台に座って、英子が切っておいてくれたスイカを食べていた。晴希の家は、康夫が17歳の時に建てられたものだそうで、古い木造の2階建てだ。庭に面した廊下の前に縁台が置いてあって、そこから英子が趣味で育てている、家庭菜園のキュウリとミニトマトが見える。

 風鈴がチリリンと、涼しげな音をたてていた。

 スイカを食べながら学校や部活の話をしたり、ゲームや漫画の話をしたり、それだけで晴希はとても楽しかった。

 聖一は晴希と1つしか年が変わらないのに、その頃にはおそらく身長も180cm近くはあった。

 会うたびに大人に、男になっていく聖一を、晴希は羨望と憧憬の眼差しで見ていたのだ。

 学校のテストの順位や、6月の総体でバスケット部のレギュラーで出場し、全国大会にまでいったという話を聞くと、聖一がかっこいいだけではなく、頭も運動神経も良い男だということはわかる。誰が見ても完璧で、晴希は本当に聖一に心酔していた。

 その頃にはもう、聖一が甥だということは晴希もわかっていたが、別に『自分の方が叔父なのに』といったような矜持は一切なかった。ただ、腑に落ちない点はあったのだけれど。

――どうして叔父さんの僕の方が年下なの?
――生まれた順番じゃなくてね、血の順番……?ていうのかしら。

 英子は困ったように、それでもなんとかわからせようと説明してくれて、そのうちなんとなく理解していった。しかし理解すると同時に、誰かに聖一のことを聞かれたら、なんて答えればいいのだろうと、考えるようになった。

 甥です、と言えば、親のことや孝幸のことまで説明しなければばらなくなるし、小・中学校の頃は、父親が若くないことが嫌で仕方ない時期もあった。できれば家のことは触れられたくないとも思っていた。

 だが、友達だと言えば、血縁関係を否定していることになるんじゃないかとか、そこまで遊ばないしとか、なんだかいろいろぐだぐだと考えてしまって、結局『従兄弟』というのが自分の中では1番しっくりくると気が付いた。実際の血縁上の位置関係がどうであれ、これが一番近いなと、誰に説明する訳でもないのに、自分で結論を出して納得した。
 
 中1のその頃は、体が小さいことや顔が子供なことも、まだ成長するだろうと決めてかかっていたので、コンプレックスはなかった。だから素直にかっこいい聖一に憧れて、タンクトップから伸びる、中学生にしては筋肉のついた腕や、広くなった肩を見てドキドキすることを、憧れているからだと思っていた。

 いや、実際憧れていたのだから、晴希の中では確かに『ただの憧れ』であったのだ。少なくとも、その時までは。

テーマ : 自作BL小説 - ジャンル : 小説・文学

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