2007.12/26(Wed)

君に初恋、桜色。1−3

chapter1−3

【More・・・】

 17年間、転々とする生活にも慣れ、そしてそれ以上に疲れ、そろそろどこかに腰を落ち着けてもいんじゃないか、と2人で話していたそんな時期だった。
 働いて働いて、金を貯めることに躍起になっていた西澤は、17年間ただの一度も次郎をどこかに連れて行ってやっていなかったことを思い出し、温泉にでも行ってみようか、と連休を利用して2人で大分に小旅行へ出掛けた。

 そしたらまたしても神の悪戯か、宿泊した旅館で西澤は、家族と旅行に来ていた実の妹・光子(みつこ)と偶然会ってしまったのだ。30代だった2人は50代になっていたが、実の兄妹は会ってすぐにお互いがわかった。
 次郎と会わせてくれた時には感謝した神を、今度は激しく怨みながら西澤は逃げた。しかし光子は逃げる西澤を無理矢理に捕まえ、涙を流しながら西澤に言った。
 責めたいわけじゃない、謝りたいのだ、と。

 聞けば西澤の両親は、7年も前に続けて病死したらしかった。これを聞いてさすがに西澤の心は痛んだが、次郎を選んだ時点でもう二度と会わぬ、という覚悟はあったため、不幸息子であることの謝罪はしても、己の選択を後悔することはしなかった。

 光子は次郎にも謝り、それから少し、3人で話をした。
 西澤の両親は、最後まで西澤のことを怨むようなことを言っていたが、死ぬ間際になって息子に会えぬまま死ぬくらいなら許してやればよかった、と後悔し始めたらしい。そして光子に、お前が生きている間に兄に会うことができたら、謝っていたと伝え、遺産もきちんと兄に半分やりなさい、と言い残し父親はこの世を去った。その3ヵ月後、追うようにして母親も亡くなったそうだ。

 西澤は、声を上げて涙を流した。最後の最後に許された、そう思って泣いた。
 だが次郎の家族のことは、光子も知らなかった。2人がいなくなった時に一度だけ次郎の母親から手紙が来たそうだが、それには居場所を知っていたら教えてほしい、という内容のことが書かれていて、知らないという返事を送って以来一切連絡は途切れたらしい。

 そうして西澤達は、17年ぶりに生まれ故郷に帰ることとなった。光子は約束通り、折半して使わずに置いてあった遺産を西澤にくれた。西澤は最初、やはりもらうこわけにはいかないと断ったが、両親の気持ちを聞いてあげてちょうだい、と押し付けるようにして通帳を渡された。

 西澤はその金と、働いて貯めた金とで、何か商売をしようと考えた。そして光子と、不動産業を営む彼女の夫の協力もあり、運良く商店街の一角に狭い土地を購入できた。当時の商店街といえば繁栄を極めており、軒を並べる商店全てが繁盛していたが、西澤はそれがいつまでも続くとは考えなかった。
 だから、この店だから来たい、と客に思ってもらえるような店を出そうと、西澤は必死に思案した。そして考えた末に選んだのが、喫茶店だった。
 
 普段台所に立っている次郎が軽食を作り、西澤はコーヒーを入れる。店を構えて数年、2人の店はそれなりに軌道に乗り、腰を落ち着けた生活も安定してきた。

 そこでかねてから望んでいた通り、西澤は次郎と養子縁組をし、夫婦になった。紙の上では親子だが、自分達さえ知っていればいい、そう、さらなる愛を誓い、やっと幸せな生活が送れると思った、そんな矢先、事件は起こった。

 その日は店休で、西澤は税理士の元を訪ねていた。その間次郎は店舗の掃除をする、と言っていたので、何か土産でも買って返ってやろうと、次郎の好きな大福を手に、西澤は店舗兼自宅へと帰った。

「有名な店の大福でね、わしはあまり甘いものが好きではないが、次郎はとても好きだった。喜ぶだろうと思って店にいるはずの次郎を見に行ったら……次郎が、倒れていたんだよ。後で聞いたんだが、次郎の兄が来たそうだ……居場所を知られてしまったらしく、彼の兄は弟にひどい暴力をふるって行った。どれだけ殴られたのか、顔は血だらけで……腕も折られていたよ。わしは死んでしまったのかと思ったが、心臓は動いていたから救急車を呼んで、一命はとりとめた。

 次郎はね、わしと会えなかった9年の間、父親と兄にずっと暴力をふるわれ、折檻されていたんだ。9年ぶりに会った時、次郎の体を見て涙が出たよ。前身痣と傷だらけで、言葉が出なかった。厳しい家だったのは知っていたが、彼らは男と関係している次郎を人間扱いしなかった。ただ家の恥じだとして、存在をも隠そうとしたそうだ。
 再び出会った時、次郎は家から逃げ出したと言っていた。だからそのまま、わしらは何もかも捨てて逃げたんだ。次郎の兄は、そのことにずっと腹を立てていたらしくてね……20年以上わしらを怨みながら生きてきて、そして居場所を見つけた。かわいそうに次郎は、その犠牲になってしまった」

 西澤はつらそうな表情を浮かべ、ウイスキーを一口飲んだ。
 秋家は、知らない間に泣いていることに気付いた。西澤の話に、泣く要素があったのかどうかはわからない。ただ次郎が、かわいそうだった。西澤を愛しているだけなのに、なぜ心も体も傷つけられなければならないのか。

「わしはそれから次郎を1人にしないようにした。ここを売ってどこかに引っ越そうかと提案したが、せっかく店出したのだから、と次郎が反対するのでね。兄の存在に怯えながら20年暮らしてきたよ。そしたら2年前だ。次郎の兄の訃報が届いた。次郎は少し、複雑な顔をしていたが、これでもう、何にも怯えることなく暮らせる。そう思ったよ。出会ってから50年以上経って、やっと心落ち着いて2人で過ごせるようになった。もう80歳だったがね」

 西澤はくく、と自嘲気味に笑った。本当はもっと早く、次郎に安心を与えてやりたかったのだろうが、それができなかった自分を嘲っている――西澤の笑いは、たぶんそういうものだろうと思った。
 秋家は手の甲でごしごしと目元を拭い、西澤の方を見た。

「それで、次郎さんは?」

 秋家の問いかけに、西澤はウイスキーの入ったグラスを揺らし、氷を鳴らした。こちらを見ずに言う西澤の言葉に、秋家はものすごく、ショックを受けた。

「先月の7日にね、先に天に昇ってしまったよ。わしの腕の中で、眠るみたいに死んだ。ありがとう、と言ってくれたが……わしは次郎を、幸せにしてあげれたのだろうかね……」

 それは秋家に聞いているのか、それとも独り言なのか。
 だが、次郎は絶対に幸せだった、これだけは断言できる。これほどまでに長く強く愛され、そして愛して。最後は好きな人の腕の中で死ぬことができた。これ以上、幸せなことがあるだろうか。

「なぜ僕に話をしてくれたんですか?」

 秋家が西澤を見ると、彼は懐かしそうに目を細めて、にこりと笑った。

「愁え、かな。後ろ姿に惹かれたのだよ。そして顔を見て驚いた。君は出会った頃の次郎に、とてもよく似ているね」

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

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Comment

●米神さま

ありがとうございます(^◇^)
なんでかじいさんロマンスになってましたが、とりあえず主人公の方に戻ってきましたのでww
相互リンクありがとうございました!
こちらこそこれからよろしくお願いしますね♪
遠麗 | 2007.12.21(金) 02:26 | URL | コメント編集

こんにちは。米神です。
早速リンクいただきました(^^)
あわわ!こちらもリンク貼っていただけるのですか!?
もちろん相互様大歓迎ですよ〜(*´▽`*)
ありがとうございます☆

西澤さんと次郎さんのお話、すごく切なくて素敵です!
思わず目から心の汗が・・・(ノ_<。)

では、これからもよろしくお願いいたしますm(_ _)m
米神鈴音 | 2007.12.18(火) 09:01 | URL | コメント編集

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