2008.01/11(Fri)
君に初恋、桜色。3−3
chapter3−3
ぐずぐずと泣きながら食べた粥の土鍋をキッチンで洗うと、秋家はこたつのスイッチを切って再び寝室へ戻った。咳は相変わらず続いていて、鼻も出てきたから枕元にティッシュケースを置いてからベッドに入る。
明日起きて熱が下がってなかったら、病院に行って注射を打ってもらおうと思いながら、秋家はまたすぐに眠りに落ちていった。
携帯電話が鳴る音に目を覚まし、もぞもぞと布団から手を出すと液晶画面を見た。電話は石富からで、秋家は慌てて通話ボタンを押す。
「もしもし…?」
『よぉ、俺だ。てかすごい声だな。熱は測ったのか?』
「測ってない…」
『おいおい、大丈夫かよ。粥は食ったか?』
「うん、ありがとう。おいしかったよ」
『そっか、よかった。今からあがるからよ』
「うん……え……?」
あがるって?と秋家が聞こうとしたら、石富は電話を一方的に切ってしまった。壁の時計を見ると時間は9時50分で、またいつの間にか3時間以上も眠っていたようだ。それよりも、石富の『今からあがる』は、一体どっちの意味だったんだろう。
(あがるって、帰るってことでしょ?まさかここに上がってくるわけじゃないよね?)
違うよね、と思いつつもドキドキしながら待っていると、玄関のチャイムがピンポンと鳴った。
(……!うそ、来たの……?)
慌ててベッドから出て玄関に向かい、ドアを開けた。そこには私服姿の石富がいて、秋家の胸はどきりと高鳴る。昨日とは違う、黒いフードの付いたトレーナーに、カーキ色のカーゴパンツを穿いている。昨日よりも若く見えて、それになんだか可愛くも見えて、反射的に顔が赤くなったのがわかった。だが今なら熱のせい、とごまかせるから、秋家はわざと俯き加減でごほごほと咳をして、どうしたの、と訊ねた。
「腹、減ってねーかと思ってな……粥だけしか食ってねーだろ?」
「え、と……でも、食べてすぐ寝ちゃったから、減ってない気がする……けど、減ってるかも……」
本当はそんなに空腹ではない。でも、減ってない、大丈夫と言ったら、石富はこのまま帰ってしまうかもしれない、そう思うとすごく寂しくて、秋家はもごもごと言葉を濁した。
「ハハ、どっちだよ。まぁいいや。さっきの土鍋かせよ。うどん作ってきてやるから」
「え、う、うん。持ってくる」
秋家はキッチンまで戻ると、洗ってあった土鍋と、晴希が持ってきたお盆を玄関まで持って行き、石富に渡した。
「10分くらいでできるから、待ってろよ」
そういい残し階段を下りて行く石富の後ろ姿を見ながら、秋家の頬は自然と緩んできた。
嬉しい。石富は今すごく、秋家の心配をしてくれている。それはもちろん友情からくるものだろうけれど、いつもより帰りが遅くなっているのにこうして、ご飯の心配までしてくれて。
たまには病気になるのもいいかもしれない、にやけてしまう顔でそう思いながら、秋家はリビングに行きこたつのスイッチを入れた。座ってテレビを見ていると、本当に10分ちょっとで玄関のチャイムが再び鳴った。
ドアを開けると石富が立っていて、秋家は土鍋の乗ったお盆を受け取ろうとしたが、石富はそのまま玄関の中に入ってきた。
「持ってくから」
そう言って、石富は靴を脱いで廊下に上がり、場所のわかっているリビングに向かってすたすたと歩いて行った。
石富は西澤と次郎の仏壇に手を合わせに何度かこの部屋に来たことがある。前オーナーの2人のことはもちろん説明してあるから知っていて、それでたまに厨房責任者として店の状況を報告しに来ているのだ。
「ここでいいか?」
こたつの上にお盆を置いて、石富は秋家を振り返って聞いた。
「あ、うん、ありがとう」
「食えよ、冷めるぞ」
「そうだね、えーと、取り皿……」
キッチンの食器棚から小皿を取って、熱いだろうから冷たいお茶を入れた。ふとこたつの方を見ると、てっきり帰ると思っていた石富が、絨毯の上に腰を下ろしているのが見える。
(え、なに、なんで……?)
帰らないのだろうか。いや、帰ってほしいわけでは決してないが、秋家はこれからうどんを食べるのに、まさかずっと見ているつもりなんてことは、ないと思うのだけれど。
「えと、剣二?……お茶飲む?」
いや、すぐ帰るよ、という返事かと思いきや、石富はこちらを向いて頼む、と秋家に言った。
「あと取り皿も2つな。これうどん2玉入ってっから。実は俺のぶんもあるんだ」
にかっと、楽しそうに石富は笑った。秋家はどきん、として、わかったと言いながら食器棚から小皿をもう1つ出した。
(お、同じお鍋から、食べるんだ……)
恥ずかしい、そう思った秋家だが、ふと重大な問題に気がついた。
「そうだ。だめじゃん、剣二。俺、風邪ひいてるんだよ?うつっちゃうよ」
さすがに同じ鍋に箸をつけるのはまずいだろう、そう思ったけど、石富はあっさりとそれを否定する。
「大丈夫、絶対うつんねって。いいから早く持ってこいよ、腹減った」
子供が母親に晩ご飯を要求するかのように、石富はこたつのテーブルを指でとんとんたたいた。
「もう、わかったよ」
くすっと笑ってから、秋家は小皿と割り箸、お茶の入ったグラスをそれぞれ2つ、お盆に乗せて運んだ。
(なんか、楽しいな)
秋家は熱があることも忘れてしまいそうなほど、今のこの状況が嬉しかった。この部屋で石富と一緒にご飯を食べるなんて、初めてのことだった。
【More・・・】
お腹がいっぱいになると、また眠気がおそってきた。滅多に熱など出さない秋家だが、どうしてこう、熱がある時というのはいくらでも寝られるのだろうか。ぐずぐずと泣きながら食べた粥の土鍋をキッチンで洗うと、秋家はこたつのスイッチを切って再び寝室へ戻った。咳は相変わらず続いていて、鼻も出てきたから枕元にティッシュケースを置いてからベッドに入る。
明日起きて熱が下がってなかったら、病院に行って注射を打ってもらおうと思いながら、秋家はまたすぐに眠りに落ちていった。
携帯電話が鳴る音に目を覚まし、もぞもぞと布団から手を出すと液晶画面を見た。電話は石富からで、秋家は慌てて通話ボタンを押す。
「もしもし…?」
『よぉ、俺だ。てかすごい声だな。熱は測ったのか?』
「測ってない…」
『おいおい、大丈夫かよ。粥は食ったか?』
「うん、ありがとう。おいしかったよ」
『そっか、よかった。今からあがるからよ』
「うん……え……?」
あがるって?と秋家が聞こうとしたら、石富は電話を一方的に切ってしまった。壁の時計を見ると時間は9時50分で、またいつの間にか3時間以上も眠っていたようだ。それよりも、石富の『今からあがる』は、一体どっちの意味だったんだろう。
(あがるって、帰るってことでしょ?まさかここに上がってくるわけじゃないよね?)
違うよね、と思いつつもドキドキしながら待っていると、玄関のチャイムがピンポンと鳴った。
(……!うそ、来たの……?)
慌ててベッドから出て玄関に向かい、ドアを開けた。そこには私服姿の石富がいて、秋家の胸はどきりと高鳴る。昨日とは違う、黒いフードの付いたトレーナーに、カーキ色のカーゴパンツを穿いている。昨日よりも若く見えて、それになんだか可愛くも見えて、反射的に顔が赤くなったのがわかった。だが今なら熱のせい、とごまかせるから、秋家はわざと俯き加減でごほごほと咳をして、どうしたの、と訊ねた。
「腹、減ってねーかと思ってな……粥だけしか食ってねーだろ?」
「え、と……でも、食べてすぐ寝ちゃったから、減ってない気がする……けど、減ってるかも……」
本当はそんなに空腹ではない。でも、減ってない、大丈夫と言ったら、石富はこのまま帰ってしまうかもしれない、そう思うとすごく寂しくて、秋家はもごもごと言葉を濁した。
「ハハ、どっちだよ。まぁいいや。さっきの土鍋かせよ。うどん作ってきてやるから」
「え、う、うん。持ってくる」
秋家はキッチンまで戻ると、洗ってあった土鍋と、晴希が持ってきたお盆を玄関まで持って行き、石富に渡した。
「10分くらいでできるから、待ってろよ」
そういい残し階段を下りて行く石富の後ろ姿を見ながら、秋家の頬は自然と緩んできた。
嬉しい。石富は今すごく、秋家の心配をしてくれている。それはもちろん友情からくるものだろうけれど、いつもより帰りが遅くなっているのにこうして、ご飯の心配までしてくれて。
たまには病気になるのもいいかもしれない、にやけてしまう顔でそう思いながら、秋家はリビングに行きこたつのスイッチを入れた。座ってテレビを見ていると、本当に10分ちょっとで玄関のチャイムが再び鳴った。
ドアを開けると石富が立っていて、秋家は土鍋の乗ったお盆を受け取ろうとしたが、石富はそのまま玄関の中に入ってきた。
「持ってくから」
そう言って、石富は靴を脱いで廊下に上がり、場所のわかっているリビングに向かってすたすたと歩いて行った。
石富は西澤と次郎の仏壇に手を合わせに何度かこの部屋に来たことがある。前オーナーの2人のことはもちろん説明してあるから知っていて、それでたまに厨房責任者として店の状況を報告しに来ているのだ。
「ここでいいか?」
こたつの上にお盆を置いて、石富は秋家を振り返って聞いた。
「あ、うん、ありがとう」
「食えよ、冷めるぞ」
「そうだね、えーと、取り皿……」
キッチンの食器棚から小皿を取って、熱いだろうから冷たいお茶を入れた。ふとこたつの方を見ると、てっきり帰ると思っていた石富が、絨毯の上に腰を下ろしているのが見える。
(え、なに、なんで……?)
帰らないのだろうか。いや、帰ってほしいわけでは決してないが、秋家はこれからうどんを食べるのに、まさかずっと見ているつもりなんてことは、ないと思うのだけれど。
「えと、剣二?……お茶飲む?」
いや、すぐ帰るよ、という返事かと思いきや、石富はこちらを向いて頼む、と秋家に言った。
「あと取り皿も2つな。これうどん2玉入ってっから。実は俺のぶんもあるんだ」
にかっと、楽しそうに石富は笑った。秋家はどきん、として、わかったと言いながら食器棚から小皿をもう1つ出した。
(お、同じお鍋から、食べるんだ……)
恥ずかしい、そう思った秋家だが、ふと重大な問題に気がついた。
「そうだ。だめじゃん、剣二。俺、風邪ひいてるんだよ?うつっちゃうよ」
さすがに同じ鍋に箸をつけるのはまずいだろう、そう思ったけど、石富はあっさりとそれを否定する。
「大丈夫、絶対うつんねって。いいから早く持ってこいよ、腹減った」
子供が母親に晩ご飯を要求するかのように、石富はこたつのテーブルを指でとんとんたたいた。
「もう、わかったよ」
くすっと笑ってから、秋家は小皿と割り箸、お茶の入ったグラスをそれぞれ2つ、お盆に乗せて運んだ。
(なんか、楽しいな)
秋家は熱があることも忘れてしまいそうなほど、今のこの状況が嬉しかった。この部屋で石富と一緒にご飯を食べるなんて、初めてのことだった。
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