2008.01/15(Tue)

君に初恋、桜色。3−5

chapter3−5

【More・・・】

 ほとんど石富のお腹の中に入ってしまったうどんの鍋は、すでに空っぽだった。僅かにスープが残っているだけで、鍋の底にれんげがコロンと転がっている。

 秋家は石富の顔をジッと見つめながら、彼の言葉から状況を推察してみる。別れた奥さんの妹、つまり石富の元義妹ということになるのだろうが、姉である妻と離婚しているのに、今でもその妹と個人的に会っているのは少し、おかしい気がする。

(もしかして……)

 秋家の脳裏に、可能性は低いと思いながらも最悪な考えが浮かんだ。離婚の原因は、妻の妹と浮気してそれがバレたから、なんてことはないと思いたいが、可能性はゼロではない。

 秋家の知る限り、石富は付き合っている彼女の友達や姉妹に手を出すような、そんな人間ではないはずだった。言い方は悪いけれど、わざわざ揉め事の発端を自分から作るような真似はしないはずだ。しかし、もしかして、と疑っているのも事実である。実際石富がその義妹とデートしていたのを、見てしまったのだから。

「剣二、まさか……」

 少し色の悪い表情で問う秋家に、石富はその思考を見抜いて慌てて手を顔の前で振った。

「おいおい、お前……バカ、何か変な考えしてるだろ。違うからな?別になんもないよ、あの子とは」

 心の底からホッとしつつ、それならばなぜ一緒にいたのか、余計気になる。

「なんでかさ、嫁さんと別れてからもたまに連絡あるんだよ。俺的にはさすがに遠慮したいんだけど、別に会うくらいいーじゃん、てしつこくてな。まぁ、一時とはいえ妹だったことには違いねーし、強く断るのも気がひけてよ……」

 ふんふん、と石富の話を聞きながら、段々と秋家は変な気分になった。石富のプライベートを聞いているこの状況に違和感を覚えたのだが、すぐにその原因はわかった。考えてみると、ここまで腰を据えて仕事以外の話をするのは、高校を出て以来初めてのことだ。

 だが、どうして今回に限って石富が秋家に私生活の話をするのか、それがよくわからない。昨日見られたから、話さないわけにはいかないと思ったのだろうか。それとも、単なる気紛れなのか。

「俺から連絡することはねーんだけどな。たまにメールが来るんだ。会うのも、別に嫌なわけじゃねーんだけど……正直、困るんだよな」

 秋家はこくこくと頷きながら、昨日見た彼女のはにかんだ笑顔を思い出した。確かに石富からすれば、彼女と会う事は別れた奥さんに対してかなり後ろめたい行為だろう。できればかかわり合いたくないと思うのも当然である。

 でもあの子は、たぶん石富のことが好きなのだ。だから義理の兄妹関係がなくなっても、会いたいんじゃないだろうか。いやむしろ、姉と別れたからこそ、という思いの方が強いのかもしれない。いつから姉の夫にそういう感情を持っていたかは知らないが、つらい思いをしたんじゃないのか、という同情心がひょっこり湧いた。

(好きな人が目の前で、自分以外の人と仲良くしてるのはつらいよね。それが自分の姉さんとじゃ、よけ嫌だったろうな……)

 わかるよ、と勝手に彼女に対して仲間意識を持ちながらも、彼女が恋人ではなかったことにものすごくホッとしている。ホッとしすぎて、体の力が抜けそうだった。石富がどうして今日に限って秋家に話すのかはやっぱり疑問だが、そんなこといっか、と思えるほど、今とても幸せな気分で、なんだかぼんやりしてきた。

 お腹はいっぱいだし、うどんで体は温まっているし、石富はいるし。彼女ではなかったこともわかって、よかった、と安心して目を閉じた。石富の話を聞いている最中なのに、満たされた体は高熱も手伝って、勝手に眠ろうとしている。あれだけ寝たのに、まだ体は休息を欲しているらしい。

「おい、眠いのか?……なお?」

 久しぶりに名前を呼ばれて、嬉しくて笑いたかったけれど、どうしても目が開かない。 座ったままこっくりこっくりと船を漕ぐ秋家に、石富がしょうがないな、と呟くのが聞こえた。

「家の鍵は?玄関にある?」

 遠のきそうな意識の中で、かろうじて言葉を聞き取りこくん、と頷いた。その後体がふわりと宙に浮き、微かなタバコのにおいがした。

 抱き上げられているのがわかって、普通なら恥ずかしくて下ろしてもらうところだろうが、熱でボケた頭はただ、深く眠ろうとするだけだった。

 ベッドに横たえられ、布団を掛けられて、大きな手がおでこに乗せられる。熱があるせいで冷たく感じる手が気持ちよくて、秋家は無意識のうちにその手にすり寄っていた。
 
 優しく頭を撫でられて、うっとりとしながら深い眠りに沈む直前、おやすみ、と呟く石富の声が聞こえた。

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

21:03  |  君に初恋、桜色。  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●ときわたりさま

ご訪問ありがとうございます。
長いので暇つぶしにでもしていただければと思います(・ω・)
よろしくお願いしますね♪
遠麗 | 2008.01.17(木) 19:29 | URL | コメント編集

●初めまして

初めまして、昨日はブログに来ていただき
どうもありがとうございました。

私は文章はまるっきり書けないので、
小説を描ける方がうらやましいです。

とても読みやすそうな小説なので、
時間がある時にちょっとずつ読ませていただきますね。

それではこれからどうぞよろしくお願いします。
ときわたり | 2008.01.16(水) 18:02 | URL | コメント編集

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

 | BLOGTOP |