2008.01/17(Thu)

君に初恋、桜色。3−6

chapter3−6

【More・・・】

 翌日に熱は下がったが、咳がひどかったためにもう1日休むように言われ、結局秋家が店に出たのは店休から3日後の日曜日だった。

「店長、もう大丈夫なんですか?」

 今日は朝から出勤の晴希は、たまにこほこほと咳をする秋家を、心配そうな顔で見上げてくる。

「うん、平気だよ。俺が休んでる間大変だったでしょ。ありがとうね、ハル君」
「そんな、大丈夫です。でもなんか、石富さんがおとなしかった気がします。あんまりからかわれなかったから……」
「へぇ、そうなんだ……?」

 いつも晴希をおちょくって遊んでいる石富が、『おとなしかった』とはめずらしい。秋家がいないから忙しかったのだろうけれど、おとなしかったと言われるほど静かだったとは、ちょっと驚く。

「なに?ハル君、それがさみしかったの?」

 少し意地悪く秋家が聞くと、晴希は顔を真っ赤にして違います!と叫んだ。

「そうじゃなくて、なんか真面目に仕事してるおとなしい石富さんが変で、き、気持ち悪かったかなって……」
「気持ちわる……?ふ、ふふ、あはは」

 あまりに正直な晴希の反応と言葉に、秋家は声を上げて笑った。いつもからかわれては、可愛らしく頬を膨らませて石富に噛み付いている晴希にとって、おとなしく真面目に仕事をする石富の姿は、不気味な光景に映るらしい。

 普通なら『カッコイイ』と思われてもいいようなものなのに、そう思われない石富が不憫で、そしておかしかった。

「だって店長、なんかね……」
「誰がキモイって〜?」

 笑っている秋家に晴希がさらに説明しようとしたところ、厨房で話を聞いていたらしい石富が、わざとらしい低く怒ったような声でカウンターに出てきた。

「い、石富さん……!」
「はは、剣二、聞いてたの?」

 晴希は顔をひきつらせ、テーブル見て来ます!と奥の席に逃げようとした。

「聞いてたっつーか聞こえんだよ。狭いんだから……っとハル坊!捕まえた」

 逃げようとしていた晴希を捕まえ、石富は後ろから抱きつくようにして体を拘束する。晴希はぎゃーぎゃー言って暴れているが、石富がいつもみたいに遊んでくれるのが嬉しいのか、それでも笑顔だった。

「誰がキモイんだよ。カッコイイの間違いだろうが」
「そ、それも、なくはないですけど、お、概ね(おおむね)変でした!」
「概ねってなんだそりゃ。最近生意気だな、このヤロ」

 無理に慣れないような言葉を使って石富を攻撃する晴希の横腹を、石富はくすぐって反撃する。大型犬と小型犬のじゃれ合いを見ながら、秋家はぽやんとした気分で平和だなぁ、と思った。こんなに心底穏やかな気持ちも久しぶりで、そしてそうなれている理由も明確だった。

 一昨日、話している最中に眠ってしまった秋家は、昨日の朝まで目を覚まさなかった。起きたらおでこには冷却ジェルのシートが貼ってあって、そのおかげかだいぶ頭はすっきりしていた。わざわざ買いに行ってくれたんだろうか、と思うとおもはゆく、嬉し恥ずかし気分でリビングに行った秋家は、こたつの上にあるメモを見つけた。

『起きて咳が出るならもう1日休め。玄関にあったカギは閉めて郵便うけから中に入れとくからな』

 仕事に出る気だった秋家はどうしようか悩んだが、無理をしてみんなにうつしては申し訳ないし、それに石富に電話をするとやっぱり休めと言われたから、昨日も家で寝ていた。

 そして一昨日同様、昨日の閉店後にも石富が食事を運んできてくれて、話しながら一緒に食べた。店を始めてからこっち、秋家がこうまで体調を崩したのは初めてのことだから、石富もかなり心配してくれたのだろう。それが秋家には何よりの回復薬だった。

 だが、昨日はけっこう色々話したのにもかかわらず、やっぱり石富は高校卒業後秋家が連絡を絶ったことも、自身の結婚についても離婚についても、話を持ち出してくることはなかった。もしかしたら、と連絡を絶ったことへの言い訳を考えていた秋家は、ずっと中学時代の話に終始したことにホッとするような、残念なような、複雑な気分になった。

 石富は、秋家が連絡を絶ったことをどう思っているんだろう、それはもうこの7年ずっと気になっていることだ。きちんと話してわだかまりをなくしたい、そう思う反面、だが秋家が石富に並々ならぬ感情を抱いている限り、それは不可能であるようにも思う。

 そうなると、もう過ぎた事だと忘れたように振る舞う石富に迎合した方がお互いのためなのではないか。秋家は石富に想いを吐露するつもりはなく、共に店の経営を続けてく以上、できれば自分の気持ちが消えてくれることを切に望んでいる。そして本当に“親友”になれたらいいと、救いを求めるような願望をずっと持ち続けている。

 だがそれはこの7年、いや、20年経っても叶うことはなく、この先も果たして叶うかどうかはわからない。けれど、少なくとも昨日と一昨日、一緒にご飯を食べてたくさん話したことで、今の秋家は存外幸せを感じていた。

 基本的に温厚な性格のため、いつも穏やかだと言われる秋家だが、常に石富に対して何かしら意識しているため、本当の意味で『穏やか』な気分であることは意外と少ない。だが今日は久しぶりに心の奥から穏当である気がして、ずっとこういうのが続けばいいな、と思った。いや、そう願った。

「さぁ、遊んでないで、もうすぐ開店だよ」

 じゃれ合う石富と晴希に手を叩いて軽く注意をし、はーい、と良い子な返事をする2人にニコリと微笑む。

 しかし願いも虚しく、秋家の日常はまた静かに、だが確実に壊されていく。

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

19:23  |  君に初恋、桜色。  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

 | BLOGTOP |