2008.01/22(Tue)

君に初恋、桜色。4−3

chapter4−3

【More・・・】

 秋家は表情のない顔で自宅への外階段を上りながら、石富の言った言葉を頭の中で反芻していた。

――お前は、いつも何も言わない……

 いつもひょうひょうとして豪快で、何事にも強くある石富があんな顔をするなんて、驚いたというよりも、秋家は少し、ショックだった。罪悪感がひしひしと湧いてきて、自分の言動がいかに石富を傷つけていたのか、秋家は今更ながら身に沁みて感じて、胸が潰れそうになった。

 あまりに、身に覚えがありすぎる。言わない、ではなく、言えないことは今までたくさんあったから。

 中学、高校と、好きな女はいないのかと聞かれた時、秋家はいつも「今はいないよ」とごまかしていた。石富には絶対バレないように男の人と付き合って、そしてそれを隠すために嘘をついたことも、一度や二度ではない。

 男とケンカして叩かれた翌日、少し腫れた顔を心配してくれた時も、気付かないうちに男につけられたキスマークを見つけられた時も、やっぱり秋家は嘘をつくしかできなかった。そしてその度に、秋家の胸はちくんと痛み、それでも本当のことなど言えるはずがなかったから、さらに嘘をついた。

 石富は秋家の上手くない嘘に納得しているとは到底思えなかったが、それでも深くは追求してこなかった。あの時は、石富があまり気にしない性格でよかった、と安心していたが、もしかして本当は気を使ってくれて、無理に聞き出すような真似をしなかっただけなのかもしれない。

 心の内を隠すために嘘を重ね続け、そして秋家がついた最大の嘘、高校卒業後の進路については、もはや裏切りでしかなかった。実家を出ることも言わず、石富に聞かれてもできるだけ何も教えないでくれと母親に頼み込み、秋家は黙って好きな男の前から消えた。

 7年前、意を決して石富の実家に電話した秋家を、不在だった石富が連絡もなしに訪ねて来た時。母親は、秋家の了解も取らずに勝手に彼を部屋に上げてくれたが、あれは母なりに、ずっと心配してくれていた証拠だろうと今になって思う。仲の良かった友達に連絡先を教えるななんて、どう考えても普通ではないのだから。
 でもそのおかげで、今のウィンド・ベルがある。

(あの時、どうして怒らなかったんだろう……)

 再会した日、石富は秋家の嘘について何も言わなかった。怒って責めて当然のことなのに、まるで気にしてないように接してくれた。10代の時、ごまかしてばかりだった秋家にそうしてくれたように、自然に。
 それが苦しくもあり、ありがたくもあった。

 言って、責めてくれれば謝れるのにと、自分から謝る勇気の無さに言い訳をし、向こうから言ってきた場合の答えだけを考えていたけれど、ひょっとして石富は、秋家の方から謝るのをずっと待っているのだろうか。何も言わず、嘘をついて逃げた秋家に、自分から詫びさせたい、そう思っているのかもしれない。

『俺からは言わない、責めない。だから自分から謝れ。そしたら許すから』

 いかにも石富が言いそうなセリフを想像し、秋家は妙に納得する。

(そうだよね……親友だと思ってたヤツに嘘ばっかつかれて、平気な人、いないよね……それに剣二って、そういう人だった……)

 いつも笑っていて、かっこよくて女の子にモテるけど、男子にも嫌われない。誰に対しても裏表がなく、よほど理由がない限り他人を嫌ったりすることもない。だから秋家と違って友達は多かった。

 秋家の友達は、皆石富を介しての付き合いだったため、直接自分から連絡を取るような友達は1人もいない。特殊な性癖も手伝って、同性の友達作りはすごく苦手だった。

 今秋家が友達と呼べるのは、2丁目やそういう人の紹介で知り合った、同じ趣向の『仲間』だけだ。しかもその中で、お互い恋愛対象にならない本当に友達と思える相手は、実はそう多くない。だからやっぱり今でも、秋家は友達が少ない。

(だめだ……考えてたらよけ落ち込む……)

 ただでさえ沈んでいる心に、相談できる友達1人いない状況が、ひどく悲しく思える。

 秋家は部屋に上がると、玄関の鍵をかけキッチンに向かった。夜はあまり食べたくないため、卵かけご飯に味噌汁と納豆で軽く夕食をすませ、片付けた後に風呂に入った。
 風呂から上がり、壁の時計を見るとすでに11時前だった。

(メール、きてるのかなぁ……)

 秋家は冷蔵庫からアイスティーのペットボトルを取り出すと、バスタオルで頭を拭きながらソファに座った。すると案の定、テーブルの上に置いてあった携帯電話のランプが、ピコピコ点滅しているのが目に入る。

(いつまで続くのかな……もう、充分まいってるよ、俺は……)

 秋家は泣きそうになり、それでも見ないわけにはいかない性格を恨みつつ、携帯に手を伸ばした。

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

21:47  |  君に初恋、桜色。  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●唯香さま

きゃー♪唯香さま、いらっしゃいませ☆
お忙しいところありがとうございます*:.。☆..。.(´∀`人)
ちょっとキモい展開になってますけどw、アダルト風味にする予定がなんか気持ち悪くなってしまいました…
でもどうにかがんばりますww

剣二がお気に入りで嬉しいです!
この人も色々大変なことがあったので、その辺うまく書いていけたらいいな、と思ってます。
またお越しください♪
遠麗 | 2008.01.24(木) 21:36 | URL | コメント編集

●一気に読んじゃった♪

お久しぶりのカキコでございます〜vv
自分の創作でいっぱいいっぱいになり、なかなかサイト巡りができず…
気付けばストーリーがめちゃんこ進んでる〜〜!と、ようやくたまってた分を読むことができました♪

いやいや…なかなかどうして…店長が切ないよ〜(号泣)
ってか、やっぱり剣二かっちょええvv
好きvvもうもう、「風鈴〜」の時から、剣二が一番好きだったのですが、更にますます好き〜〜っvv

なにやら動き出しそうな今後の展開。ドキドキワクワクしながら待ってますので〜vv
水城 | 2008.01.23(水) 10:48 | URL | コメント編集

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