2008.01/30(Wed)
君に初恋、桜色。6−1
chapter6−1
「ご、ごめん……!」
誰にともなく謝ると、秋家は慌ててしゃがみ込み、割ってしまったタンブラーのガラス片を拾い始める。
(もう、なにやってんの俺……!)
大きめの欠片だけ手を切らないように拾いながら、秋家は心の中で何度目かわからない自己嫌悪に陥った。
実は今日食器を落として割ったのは、これが初めてではない。ほんの3時間ほど前にはコーヒーカップを割ってしまい、同じようにしゃがんで欠片を拾ったところだ。そしてさらに言えば、こんなに食器を割るのはなにも、今日始まったことではない。秋家はここ数日、こんなドジばかりしている。
久家と会った翌日から今日までの5日間で、秋家が割った食器の数は、今のタンブラーで7個目だった。自分でも嫌になるほど注意力が散漫で、食器は割るはおつりは間違うは、本当に散々なのである。
5日前、石富に全てを話そうと決意したはずの秋家だが、翌日、いざ石富を目の前にしたら、その決意はしゅるしゅるとどこかに消えてしまった。そして、本当に話していいのか、いやきっと石富なら大丈夫、でも気持ち悪がられたらどうしよう、でもやっぱり……ずっとこんな思考を繰り返して、完全に無限ループに陥ってしまっているのだ。
覚悟を決めても石富本人に会えば気持ちは揺らぎ、話そうと思っても帰ろうとする石富を呼び止めることができず、明日にしよう、と思ってしまう。一度は全てが壊れることを覚悟したくせに、あっさりとそれを失くす意志薄弱な自分に、今更ながら情けなくて腹が立つ。
そのうえ夜は相変わらず眠れないから、仕事中にこんなミスばかりして、えつみには怒られてばかりだし、木幡と晴希には心配ばかりさせている。こんなのはダメだとわかっていても、どちらが正しいのか自分でもわからなくて、もう頭の中がめちゃくちゃだった。
ぐすぐすと泣きそうな気分でガラス片を拾っていたら、目の前にほうきとちりとりを差し出された。ここ数日、こうして秋家が食器を割るたびにえつみか木幡、晴希のうち誰かがほうきを持ってきてくれて、細かい欠片を取ってくれる。今来ているのはえつみだから、手伝いに来てくれたのも彼女だろうと思って顔を上げると、ほうきを持って身を屈めていたのは石富だった。
「あ……」
思わず声が出て、顔がカッと赤くなったのが自分でもわかった。恥ずかしくて下を向いたまま、ほうきとちりとりを受け取ろうと手を伸ばすが、石富は渡してくれない。そのままその場にしゃがみ込むと、黙って秋家を見つめているようだった。俯いたままの頭に、視線を感じる。
(きっと、呆れてる……怒ってる……)
この5日間、石富とは相変わらずギクシャクした空気だったが、あまりにも秋家の様子がおかしいので、たまに心配そうな視線を送ってくれていることはわかった。でももう何も、石富は声をかけてはくれなかった。
心配してくれた石富に対して、『なんでもない』と先にその思いを突っぱねたのは、まぎれもなく自分なのだ。どうせ何も言わないんだろう、そう思って石富が何も聞いてこないのは、しごく当然のことだ。
それなのに勝手な話だが、やっぱり好きな人に冷たくされるのは、とても傷つく。
「手、切るなよ」
小さく呟かれた言葉に、秋家はドキッとして顔を上げた。石富はちりとりをホイと差し出し、手に持っている大きめのガラス片を乗せろ、と言ってきた。秋家は手にしていたガラス片をちりとりに乗せ、ありがとう、と小さな声でお礼を言った。
「……お前さ、なんなの、最近」
イラついたような声で言う石富に、一瞬体が凍りつく。すごく、怒っているのがわかった。
「なんかあんだろうけどさ、言えねーようなこと。でも、ちょっと仕事に影響しすぎだろ。……いい加減にしろよな」
まさか自分のことで秋家がこうも悩んでいるとは考えもしないだろう石富は、最後の一言をまるで舌打ちでもしそうな調子で言った。
ぎゅるっと、心臓を握りつぶされたように苦しくなった。息が詰まりそうで、泣いてしまいそうで、気がつくと秋家は、右手で石富の服の袖を握っていた。石富は当然驚いて、微かに震えるその手を見つめてから、そっと秋家の肩に手を置く。
「おい、どうした……」
「剣二……!」
秋家はたまらず顔を上げ、懇願するように石富を見上げて、必死な声を上げる。その目は少し涙で潤んでいたが、かまうものかとすがりつく様に言葉を吐き出した。
「話、あるんだ……今日仕事終わってから、聞いてほしい……!」
あれだけ何日も迷っていたのに、なぜか言葉が勝手に出てきた。言おうと思って言ったのではなく、自然に出た、という感じだった。
石富に、切り捨てられるような気がしたのだ。呆れられて、嫌われて、このまま本当に終わってしまいそうな焦燥感に襲われて、とても怖くなった。
驚いていた石富だったが、秋家の必死なお願いに段々優しい表情になって、肩に置かれていた手に少し、力がこもった。
「……わかった。まぁとりあえず、ちゃんと仕事してくれよ。じゃないとお前、何個食器割る気だ」
冗談っぽく言ってから、石富はハハと笑った。その笑顔に、ドクドクと警報のように鳴り続けていた心臓は徐々に静かになり、凍り付いていた体も溶けたように力が抜けた。秋家も石富につられるように涙目でくしゃっと笑い、石富はそれを見てバカだな、と呟いた。
「ごめんね……」
「いーよ。でももう割るなよ」
お互い笑顔で仕事に戻り、この時はよかった、と思った秋家だったが、しばらくして事の重大さに気がついた。
(言わなきゃいけないんだ……)
話があるから聞いてほしい、そう言ってしまった。
これでもう、話さなければならなくなった。逃げることは、できなくなった。
(告白、するのか……)
自分の恋心だけ隠して話そうかという考えも起こったが、イヤイヤと首を振る。これを隠して話しては、なんの意味もない。秋家の嘘は全て石富への恋心に起因しているのだから、それを隠すとなると結局嘘の繰り返しになる。
それに高校卒業後逃げたことについては、事実以外にまかり通る言い訳も浮かばない。もうごまかしは通用しない。
(覚悟決めなきゃ)
腹を括った秋家は、それでも閉店が近づくにつれてどんどん緊張が増していき、結局店が終わるまでにタンブラーをもう1個、派手に割ってしまった。
【More・・・】
パリーンと、ガラスの割れる音が厨房内に響いた。「ご、ごめん……!」
誰にともなく謝ると、秋家は慌ててしゃがみ込み、割ってしまったタンブラーのガラス片を拾い始める。
(もう、なにやってんの俺……!)
大きめの欠片だけ手を切らないように拾いながら、秋家は心の中で何度目かわからない自己嫌悪に陥った。
実は今日食器を落として割ったのは、これが初めてではない。ほんの3時間ほど前にはコーヒーカップを割ってしまい、同じようにしゃがんで欠片を拾ったところだ。そしてさらに言えば、こんなに食器を割るのはなにも、今日始まったことではない。秋家はここ数日、こんなドジばかりしている。
久家と会った翌日から今日までの5日間で、秋家が割った食器の数は、今のタンブラーで7個目だった。自分でも嫌になるほど注意力が散漫で、食器は割るはおつりは間違うは、本当に散々なのである。
5日前、石富に全てを話そうと決意したはずの秋家だが、翌日、いざ石富を目の前にしたら、その決意はしゅるしゅるとどこかに消えてしまった。そして、本当に話していいのか、いやきっと石富なら大丈夫、でも気持ち悪がられたらどうしよう、でもやっぱり……ずっとこんな思考を繰り返して、完全に無限ループに陥ってしまっているのだ。
覚悟を決めても石富本人に会えば気持ちは揺らぎ、話そうと思っても帰ろうとする石富を呼び止めることができず、明日にしよう、と思ってしまう。一度は全てが壊れることを覚悟したくせに、あっさりとそれを失くす意志薄弱な自分に、今更ながら情けなくて腹が立つ。
そのうえ夜は相変わらず眠れないから、仕事中にこんなミスばかりして、えつみには怒られてばかりだし、木幡と晴希には心配ばかりさせている。こんなのはダメだとわかっていても、どちらが正しいのか自分でもわからなくて、もう頭の中がめちゃくちゃだった。
ぐすぐすと泣きそうな気分でガラス片を拾っていたら、目の前にほうきとちりとりを差し出された。ここ数日、こうして秋家が食器を割るたびにえつみか木幡、晴希のうち誰かがほうきを持ってきてくれて、細かい欠片を取ってくれる。今来ているのはえつみだから、手伝いに来てくれたのも彼女だろうと思って顔を上げると、ほうきを持って身を屈めていたのは石富だった。
「あ……」
思わず声が出て、顔がカッと赤くなったのが自分でもわかった。恥ずかしくて下を向いたまま、ほうきとちりとりを受け取ろうと手を伸ばすが、石富は渡してくれない。そのままその場にしゃがみ込むと、黙って秋家を見つめているようだった。俯いたままの頭に、視線を感じる。
(きっと、呆れてる……怒ってる……)
この5日間、石富とは相変わらずギクシャクした空気だったが、あまりにも秋家の様子がおかしいので、たまに心配そうな視線を送ってくれていることはわかった。でももう何も、石富は声をかけてはくれなかった。
心配してくれた石富に対して、『なんでもない』と先にその思いを突っぱねたのは、まぎれもなく自分なのだ。どうせ何も言わないんだろう、そう思って石富が何も聞いてこないのは、しごく当然のことだ。
それなのに勝手な話だが、やっぱり好きな人に冷たくされるのは、とても傷つく。
「手、切るなよ」
小さく呟かれた言葉に、秋家はドキッとして顔を上げた。石富はちりとりをホイと差し出し、手に持っている大きめのガラス片を乗せろ、と言ってきた。秋家は手にしていたガラス片をちりとりに乗せ、ありがとう、と小さな声でお礼を言った。
「……お前さ、なんなの、最近」
イラついたような声で言う石富に、一瞬体が凍りつく。すごく、怒っているのがわかった。
「なんかあんだろうけどさ、言えねーようなこと。でも、ちょっと仕事に影響しすぎだろ。……いい加減にしろよな」
まさか自分のことで秋家がこうも悩んでいるとは考えもしないだろう石富は、最後の一言をまるで舌打ちでもしそうな調子で言った。
ぎゅるっと、心臓を握りつぶされたように苦しくなった。息が詰まりそうで、泣いてしまいそうで、気がつくと秋家は、右手で石富の服の袖を握っていた。石富は当然驚いて、微かに震えるその手を見つめてから、そっと秋家の肩に手を置く。
「おい、どうした……」
「剣二……!」
秋家はたまらず顔を上げ、懇願するように石富を見上げて、必死な声を上げる。その目は少し涙で潤んでいたが、かまうものかとすがりつく様に言葉を吐き出した。
「話、あるんだ……今日仕事終わってから、聞いてほしい……!」
あれだけ何日も迷っていたのに、なぜか言葉が勝手に出てきた。言おうと思って言ったのではなく、自然に出た、という感じだった。
石富に、切り捨てられるような気がしたのだ。呆れられて、嫌われて、このまま本当に終わってしまいそうな焦燥感に襲われて、とても怖くなった。
驚いていた石富だったが、秋家の必死なお願いに段々優しい表情になって、肩に置かれていた手に少し、力がこもった。
「……わかった。まぁとりあえず、ちゃんと仕事してくれよ。じゃないとお前、何個食器割る気だ」
冗談っぽく言ってから、石富はハハと笑った。その笑顔に、ドクドクと警報のように鳴り続けていた心臓は徐々に静かになり、凍り付いていた体も溶けたように力が抜けた。秋家も石富につられるように涙目でくしゃっと笑い、石富はそれを見てバカだな、と呟いた。
「ごめんね……」
「いーよ。でももう割るなよ」
お互い笑顔で仕事に戻り、この時はよかった、と思った秋家だったが、しばらくして事の重大さに気がついた。
(言わなきゃいけないんだ……)
話があるから聞いてほしい、そう言ってしまった。
これでもう、話さなければならなくなった。逃げることは、できなくなった。
(告白、するのか……)
自分の恋心だけ隠して話そうかという考えも起こったが、イヤイヤと首を振る。これを隠して話しては、なんの意味もない。秋家の嘘は全て石富への恋心に起因しているのだから、それを隠すとなると結局嘘の繰り返しになる。
それに高校卒業後逃げたことについては、事実以外にまかり通る言い訳も浮かばない。もうごまかしは通用しない。
(覚悟決めなきゃ)
腹を括った秋家は、それでも閉店が近づくにつれてどんどん緊張が増していき、結局店が終わるまでにタンブラーをもう1個、派手に割ってしまった。
●唯香さま
遠麗 | 2008.02.01(金) 23:23 | URL | コメント編集
●米神さま
いらっしゃいませ〜♪
どうも私は間男が好きでしてwなにかとうぜぇ男が登場しますw
しかも、告白なんですけど、まだすんなりとはいかないのです…。
ごめんなさい…!
ハッピーエンドはもう少し先かな…
色々片付けないといけない問題があるので…w
またお越しください☆
どうも私は間男が好きでしてwなにかとうぜぇ男が登場しますw
しかも、告白なんですけど、まだすんなりとはいかないのです…。
ごめんなさい…!
ハッピーエンドはもう少し先かな…
色々片付けないといけない問題があるので…w
またお越しください☆
遠麗 | 2008.02.01(金) 23:18 | URL | コメント編集
●きた〜〜〜っ!!
こんにちは〜☆出だしから興奮状態の水城でございますm(__)m
遂に言っちゃいますか!?店長!!
ってか、やっぱ石富好みだvv(爆)
わ〜わ〜っ!と、落ち着かない気持ちのまま、続きを楽しみにしておりますので〜頑張ってくださいね♪
遂に言っちゃいますか!?店長!!
ってか、やっぱ石富好みだvv(爆)
わ〜わ〜っ!と、落ち着かない気持ちのまま、続きを楽しみにしておりますので〜頑張ってくださいね♪
水城 | 2008.01.31(木) 10:57 | URL | コメント編集
●
お久しぶりです♪
秋家さん、ついに告白ですか!
読んでる私まで緊張してきたので思わずコメントしちゃいました(^▽^;)
久家さん登場からずっとハラハラドキドキの展開で目が離せません。
続きも楽しみに待ってます♪
秋家さん、ついに告白ですか!
読んでる私まで緊張してきたので思わずコメントしちゃいました(^▽^;)
久家さん登場からずっとハラハラドキドキの展開で目が離せません。
続きも楽しみに待ってます♪
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ついに言っちゃうんだ店長…!と思ったら…すみません、変な展開になったです…o(;>△<)O
片付けないといけない男とか女とかいるので(w)、ラブラブエンドはもう少しお待ちください<(_ _)>w
お忙しい中ありがとうございました♪
またお越しくださいませね☆