2008.02/05(Tue)

君に初恋、桜色。6−4

chapter6−4

【More・・・】

 ずっと会話もなく、後ろをついて行くようにして到着した石富の家は、ウィンド・ベルから歩いて15分くらいのところにあった。見た目はごく普通の3階建てのアパートで、その2階の1番端、201号室が石富の部屋だった。

「おじゃまします……」
「適当に座っててくれ」

 中に入るとすぐにキッチンがあり、その向こうに6畳くらいの部屋がある。床はフローリングで、グレーの絨毯が敷いてある上に、こたつがぽんと置かれていた。

(1DKかな……?けっこうきれいなんだ)

 学生時代、石富の実家に遊びに行った時の、きれいに片付けられていた彼の自室を思い出す。秋家と同様、男のわりには石富もきれい好きで、こういうところは気が合うなと、そういえば昔、話したことがあった。こたつに置かれている灰皿にも、吸殻が1本あるだけなので、ちゃんと毎日捨てて洗っているらしい。

 秋家はこたつに座り、クンと鼻を動かした。狭い部屋は石富のにおいがして、いくら気分が沈んでいるとはいえ、恋心がきゅうっとときめく。

 部屋の角には液晶テレビがあり、その横の本棚には料理関係の本やマリンスポーツの本、小説らしき文庫本がぎっしりつまっている。そして反対側、こたつのすぐ横にはベッドがあり、足元にコンポが置いてある。ベッドの上に黒いジャージが脱いだままになっていて、あれ着て寝てるのかな、と思うと少し、ドキドキした。

「コーヒーでいいか?インスタントだけど」
「あ、うん。ありがとう」

 石富は持ってきたお盆をテーブルに置くと、部屋とキッチンの間のドアを閉めてからエアコンのスイッチを入れた。そして秋家の左隣に座り、コーヒーの入ったマグカップを前に置いてくれる。

「ありがと……」
「ああ」

 入れてくれたコーヒーを2、3口飲んで、その温かさになんだかホッとした。インスタントだと言っていたが、牛乳が多めに、それと蜂蜜も入っているようで、胃の調子が良くない秋家には甘くて優しい味だった。

「おいしい……」
「甘すぎてないか?」
「うん、大丈夫……あの、それで……迷惑かけてごめん」

 ぺこりと、座ったままだが秋家は頭を下げた。

「その、こんな風に、剣二に迷惑かけるつもりじゃなかったんだけど……」

 久家の理由のわからない行為自体は不可抗力だが、元々の原因はやはり自分にある。そのせいでこうして石富の家に避難させてもらっているのだから、申し訳ないと思って謝ったのだが……石富は無表情で、だが口調は厳しくこう言った。

「……お前さ、俺が迷惑かけられて、それで怒ってると、そう思ってんのか?」
「あ……えと、そうじゃ、ないけど……でも、呆れてるでしょ、俺のこと……」

 冷たい無表情が怖くて、言葉に詰まりながらたどたどしく答える。
 石富は、2年前と同じようなことをまだやっている、成長しない親友にきっと呆れているのだ。だから機嫌が悪いと、そう思っていたのだが。

 ふぅ、と石富は、その秋家の言葉にこそ呆れたように息を吐き、茶色い瞳でじっと秋家を見つめてきた。そのため息にも、視線にもどきりとして、とてもじゃないが同じように見つめ返せるはずもなく、自然と秋家は俯いてしまう。

「……まぁ、確かに、呆れてはいるな……」

 その言葉にショックを受け、ギュッと目を瞑ると、ふわっと左の頬に温かなものが触れた。ナニ、と思った秋家が顔を上げると、石富の右手が自分の左頬に触れていて、心臓が、飛び出しそうなほどに大きくドンと跳ねた。

(ななななな、なに!?)

 石富の手が、頬に、髪に、触れている。
 なにがなんだかわからなくて、秋家の体はカチカチに固まってしまった。きっと顔は、真っ赤なはずだ。

「……お前、また殴られたり、してないだろうな?」

 心配そうに呟かれた言葉に、秋家の心臓はさらにドキドキして止まらなくなる。大丈夫、と首を横に振り、無理矢理少し、笑って見せた。

「なんで、お前は……」

 その声音に、きゅうっと胸が苦しくなった。

――お前は、いつも何も言わない。

 そう言われた時と、同じ声だった。

「剣、二……?」

 またこんな声を出させてしまったことに不安になり、寂しげな目で自分を見ている石富に声をかけると、彼はハッとして、悪い、と言いながらサッと右手を引っ込めた。
 ううん、と秋家が首を横に振ると、石富はばつが悪そうに目を逸らし、居たたまらないとでもいうように急にがばっと立ち上がった。

「俺、タバコ買ってくるわ」
「え、あ、うん……」

 ダウンジャケットを着て財布を掴むと、石富は逃げるように部屋を出て行ってしまう。バタンと玄関のドアが閉まる音がして、ぱたぱたと走る足音が聞こえた。

(なんでほっぺた、触ったのかな……)

 石富自身が自分のしたことに驚いていた感じだったが、あれは無意識だったんだろうか。
 優しい声で心配してくれて嬉しかったが、その後にあんな切なそうな声を出されると、とても苦しくなってしまう。

 秋家はまだドキドキしている胸に右手を当てて、そして反対の手を頬に添えた。ここに触れた石富の手の感触を思い出し、目を閉じてみる。

 大きくて、あたたかかった。

 そして、以前熱が出て倒れそうになった時のことをふと思い出す。眩暈がしてふらついた秋家を、石富が抱きとめてくれた時、あの時一瞬だけ、ギュッと強く抱き締められた。あの時も、そしてさっきも。石富がどういう気持ちで秋家に触れてくれるのかはわからないが、この体に嫌悪なく触ってくれることは素直に嬉しい。
 どんなに小さくても、肌の触れ合い1つが秋家にとっては大きなときめきになるのだから。

(でも、気持ち切り換えなきゃ……)

 石富が帰ってきたら、またお話の続きだ。こんどこそ、嘘ついて逃げたことを謝って、許してもらわなければ。

 少し冷めてしまったコーヒーをこくりと飲んで、ぼーっと本棚に並ぶ本を眺めていたら、玄関のチャイムがピンポンと鳴った。

(え、剣二……?じゃないよね、さっき出たばっかだし……ていうか自分の家じゃん……どうしよう、出た方がいいかな……)

 こんな時間なのだから、郵便や宅配便というわけではないだろう。だとしたら誰か、石富の知り合いということになるのだろうが。

(約束してたのかな。でもそれだったら、俺連れて来ないよね……)

 イラついたように何度もチャイムを鳴らされるから、出ようかどうしようか秋家が迷っていると、がちゃりとドアの開く音が聞こえた。

(……!鍵してなかったの……!?)

 あわあわしている秋家をよそに、その入ってきた『誰か』はすたすたとキッチンを通り、閉められている部屋のドアを勢いよくガラッと開けた。

「いるんなら出なさいよ!……ってあら?」

 ビックリして目を見開いている秋家を見て、部屋に入ってきた人物も驚いている。
 ダークグレーのパンツスーツに身を包み、長い髪をアップにした、見るからにキャリアウーマン然とした、少しきつそうな印象の、きれいな女の人。

「あらら、ごめんなさいね。剣二がいるものと思ったわ」
「い、いえ……」

 剣二、という親しげな呼び方にも、当然のように家に上がってくることにも。
 不安と危機感が混じり合ったような、ひどく心許無い気持ちになった。ドクンドクンと心臓が早鐘を打ち、すごく、落ち着かない。

 間違いなく一度も会ったことのない女性だったが、なぜか声だけは、どこかで聞いたことがあるような気がした。

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

05:46  |  君に初恋、桜色。  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●華和さま

わぁ〜華和さん!
ご訪問ありがとうございますヽ(*^^*)ノ
ここまで長いのにおつかれさまでした♪
これから(たぶん)終盤なので、よろしければ最後までお付き合いくださると嬉しいです☆
ありがとうございました(^-^)
遠麗 | 2008.02.10(日) 23:54 | URL | コメント編集

や、ヤバイです…
剣二さんに惚れましたーっ!(*^▽^*)
可愛いなあ〜店長さんvだったのですが、剣二さん格好いいですvv
華和 | 2008.02.10(日) 13:50 | URL | コメント編集

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