2008.02/10(Sun)
君に初恋、桜色。6−7
chapter6−7
後ろを向くと、少し息の荒い石富が立っていて、久美子に睨むような視線を向けている。ひどく機嫌が悪く見えるのは、気のせいだろうか。
「お前……なんの用だよ」
石富は低い声で久美子にそう言いながら、秋家の右隣に腰を下ろし、対面に座る久美子をじろっと見た。
「まぁまぁ、機嫌が悪いこと。実家行ったついでに話あったから寄ったのよ」
石富の不機嫌にも慣れているのか、久美子は平然とそう言い返す。石富は何か探ってでもいるかのように、やけに久美子に厳しい視線を向けているが、久美子は全く意に介さない。
「話したらすぐ帰るわよ。それより私にもお茶くらい出したらどーなの」
「すぐ帰るんだろーが。帰ってからてめぇで飲めよ」
「ホントムカつくわね、あんた」
言葉だけだと刺々しく聞こえるが、これは仲が良いからこそ成り立つ会話だと思った。そんな元夫婦の間に挟まれて、秋家はひどく居心地が悪い。自分のせいで別れさせてしまった2人なんだから、仲なおりしたのならそれを喜んであげなければいけないはずなのに、心に湧くのは、なんとも醜い感情だけ。
(俺、ホントに最低……)
ジュリズの副料理長を辞めさせてしまい、そのせいで離婚させてしまった。
この2人には、どんなに謝っても足りやしない。久美子は謝るなと言ってくれたが、いくら知らなかったとはいえ、自分の責任ではない、とスルーできるほど秋家は厚顔ではない。それなのに、2人の仲の良さには嫉妬なんかしてしまって、一体どこまで自分は最悪な存在なんだ、と心底嫌になってくる。
(邪魔かな……帰った方がいいかな……)
そんなことを考えていると、話があると言っていた久美子が、おもむろにその口を開いた。
「私ね、結婚することにしたわ」
「……え、ええ!?」
大きく驚いたのは、石富ではなく秋家の方だった。久美子は嬉しそうに微笑んでいたが、ちらりと見やった石富は、腕を組んだまま特に驚いた様子もなく無表情だった。
おろおろする秋家をよそに、2人は淡々と会話を続ける。
「式しないから、口頭で報告しとくわ」
「……そうか、おめでとう。今度はうまくいくといいな」
「あんが言うなっつーの。言われなくてもうまくやるわよ」
久美子の報告におめでとうと返した石富だが、顔はやっぱり無表情だった。それにも久美子は慣れた様子でツッコミを入れ、「おめでとうございます」と言った秋家には、「ありがとう」と笑顔で答えてくれた。
(剣二、もしかしてショック、なのかな……)
だからあえて顔に出さないよう作っているのかもしれない、秋家はそう思ったが、石富は変わらず不機嫌を崩さないまま、まだ久美子に厳しい視線を向けている。
「……で?話ってそんだけか?」
「いーえ、これはおまけね。本題はこっちよ」
そう言うと久美子は顔つきを変え、真剣な表情で石富を見つめた。結婚の報告がおまけということに、秋家は少しビックリする。
「この前私が実家に帰ってる時にね、親が美奈子(みなこ)にお見合いを勧めたの。あ、秋家さん、美奈子って私の妹のことね」
久美子は丁寧にも、秋家が知らない、『美奈子』という名前の人物について説明してくれた。久美子の妹、すなわち、石富の元・義妹ということになる、ということは。
(剣二と一緒に歩いてた女の子のことだ……)
石富に会いたいと連絡をしてくるというあの彼女は、美奈子という名前らしい。その子がお見合いを親に勧められた、という話に胸がざわつき、思わず秋家はちらっと石富を見た。石富は、少しだけ気まずそうな顔で久美子を見ている。
「あの子ももう29でしょ?彼氏もいないみたいだし、親も心配になったんでしょうね。、父さんの知り合いの息子さんなんだけど、これがなかなか好条件だったのよ。顔は中の上くらいで、しかも銀行員。いい話でしょ?だから私も会うだけ会ってみなさいよ、ってけっこうしつこく勧めてたの。そしたらあの子、絶対嫌よ!って泣き出しちゃってさ。で、なんて言ったと思う?」
久美子は一旦話を切ると、きりっとした目で石富を見た。石富はふいと目を逸らし、テーブルに肘をついて横を向いた。秋家は、なんとなくその後の言葉が予想できてしまった。
「私、昔から剣二くんが好きなんだもん!って言ったのよ。ビックリしたわ。そんなこと、考えたこともなかったから」
久美子は頭を押さえて俯くと、はぁ、とため息をついた。やはり、ショックだったんだろう。自分の妹が夫に横恋慕していたなんて、どちらも大事な人間だからこそ、なおのことショックだったに違いない。
「それで剣二、まさかとは思うけど、あんた美奈子に手出してないでしょうね」
ぎろっと睨む久美子に、石富はふざんけんな、と少し怒ったような声を出した。
「出してるわけねーだろ!……お前と別れてからちょくちょく連絡はあったよ。姉ちゃんには黙ってた方がいいね、って言うから、特に隠すつもりはなかったけど、お前には言わなかった。でも、本当にそういう関係は一切ない」
石富は真剣な表情できっぱり言いきり、久美子は安心したように、「そう」と言いながらホッと息をついた。石富の裏切り行為がなかったことへの安心か、それとも大事な妹が手を出されてなかったことへの安心か。久美子はどちらにホッとしたのだろう。
「それであんた、美奈子のことどう思ってるのよ。私のことは関係なく、あの子と付き合う気とかあるの?」
「いや、それは無理だ。美奈ちゃんには悪いが、俺は妹としか思えない。もちろん嫌いじゃないけどな。そういう対象にはなんねーよ」
「……そう、わかったわ。じゃあ、あの子が告ってきたら、ちゃんと断ってあげて。はっきり言われれば、諦めもつくでしょうから。あの子、私に遠慮してずっと悩んでたみたいなのよね……かわいそうだけど、あの子もいい加減、すっぱり諦めて前見なきゃダメだわ。あ、私がこの話あんたにしたってことも、絶対言うんじゃないわよ」
「わかってるよ……」
石富は、少しつらそうだった。告白を断るのは、性格にもよるだろうがけっこう神経を使う。秋家は告白したことはないけれど、されたことは何度かあるので、その度に俺なんか好きになってくれたのに、と申し訳ない気分でいっぱいになる。だが、いくらごめんなさい、ありがとう、と言ったところで、相手にとったら拒否されたことに変わりはない。
(ものすごく、つらいんだろうな……)
告白を決意していた秋家は、改めて素直に気持ちを伝えるという行為に怖さを覚えた。美奈子は、告白したら石富にふられてしまうのだ。だがそれは、決して他人事ではない。
(明日は我が身、か……)
美奈子への同情を禁じ得ない秋家は、心の中で美奈子が新しい恋に早く出会えるよう祈った。
「さて、じゃあ帰るわ。おじゃましたわね」
「……悪かったな、なんか色々……」
石富は申し訳なさそうに久美子に言うと、立ち上がって部屋を出ようとする彼女の後に続いた。
「それじゃあ秋家さん。会えてよかったわ。お元気で」
「はい、あの、お幸せに」
「ふふ、ありがとう」
久美子は本当に幸せそうで、とてもきれいに笑ってくれた。好きな人の元妻という、本来ならあまり会いたくない存在だが、今日偶然とはいえ、会えてよかったと秋家も思った。
「送ってくるから」
「あ、うん」
石富は秋家にそう言うと、久美子と一緒に部屋を出て行った。玄関でなにやらぼそぼそ話し声が聞こえた後、ドアの開けられる音、それからバタンと閉まった音。そして、シーンと静かになった。
(外まで一緒に行ったんだ……)
秋家がいたから話せなかったことを、2人で話しているのだろうか……と考えてしまってから、その思考を払うようにぶんぶんと頭を振った。そりゃ、あの2人の間には秋家の知らないことばかりあるんだから、2人で話したいのも当然だ。卑屈になるな、と自分に言い聞かせ、もう冷たくなってしまったハニーコーヒーを、ぐいと一気に飲み干した。
【More・・・】
久美子が電話をかけてから5分ほど経った頃、玄関のドアが勢いよくがちゃりと開けられ、どんどんと大きな足音がした後に部屋のドアがガラッと開けられた。後ろを向くと、少し息の荒い石富が立っていて、久美子に睨むような視線を向けている。ひどく機嫌が悪く見えるのは、気のせいだろうか。
「お前……なんの用だよ」
石富は低い声で久美子にそう言いながら、秋家の右隣に腰を下ろし、対面に座る久美子をじろっと見た。
「まぁまぁ、機嫌が悪いこと。実家行ったついでに話あったから寄ったのよ」
石富の不機嫌にも慣れているのか、久美子は平然とそう言い返す。石富は何か探ってでもいるかのように、やけに久美子に厳しい視線を向けているが、久美子は全く意に介さない。
「話したらすぐ帰るわよ。それより私にもお茶くらい出したらどーなの」
「すぐ帰るんだろーが。帰ってからてめぇで飲めよ」
「ホントムカつくわね、あんた」
言葉だけだと刺々しく聞こえるが、これは仲が良いからこそ成り立つ会話だと思った。そんな元夫婦の間に挟まれて、秋家はひどく居心地が悪い。自分のせいで別れさせてしまった2人なんだから、仲なおりしたのならそれを喜んであげなければいけないはずなのに、心に湧くのは、なんとも醜い感情だけ。
(俺、ホントに最低……)
ジュリズの副料理長を辞めさせてしまい、そのせいで離婚させてしまった。
この2人には、どんなに謝っても足りやしない。久美子は謝るなと言ってくれたが、いくら知らなかったとはいえ、自分の責任ではない、とスルーできるほど秋家は厚顔ではない。それなのに、2人の仲の良さには嫉妬なんかしてしまって、一体どこまで自分は最悪な存在なんだ、と心底嫌になってくる。
(邪魔かな……帰った方がいいかな……)
そんなことを考えていると、話があると言っていた久美子が、おもむろにその口を開いた。
「私ね、結婚することにしたわ」
「……え、ええ!?」
大きく驚いたのは、石富ではなく秋家の方だった。久美子は嬉しそうに微笑んでいたが、ちらりと見やった石富は、腕を組んだまま特に驚いた様子もなく無表情だった。
おろおろする秋家をよそに、2人は淡々と会話を続ける。
「式しないから、口頭で報告しとくわ」
「……そうか、おめでとう。今度はうまくいくといいな」
「あんが言うなっつーの。言われなくてもうまくやるわよ」
久美子の報告におめでとうと返した石富だが、顔はやっぱり無表情だった。それにも久美子は慣れた様子でツッコミを入れ、「おめでとうございます」と言った秋家には、「ありがとう」と笑顔で答えてくれた。
(剣二、もしかしてショック、なのかな……)
だからあえて顔に出さないよう作っているのかもしれない、秋家はそう思ったが、石富は変わらず不機嫌を崩さないまま、まだ久美子に厳しい視線を向けている。
「……で?話ってそんだけか?」
「いーえ、これはおまけね。本題はこっちよ」
そう言うと久美子は顔つきを変え、真剣な表情で石富を見つめた。結婚の報告がおまけということに、秋家は少しビックリする。
「この前私が実家に帰ってる時にね、親が美奈子(みなこ)にお見合いを勧めたの。あ、秋家さん、美奈子って私の妹のことね」
久美子は丁寧にも、秋家が知らない、『美奈子』という名前の人物について説明してくれた。久美子の妹、すなわち、石富の元・義妹ということになる、ということは。
(剣二と一緒に歩いてた女の子のことだ……)
石富に会いたいと連絡をしてくるというあの彼女は、美奈子という名前らしい。その子がお見合いを親に勧められた、という話に胸がざわつき、思わず秋家はちらっと石富を見た。石富は、少しだけ気まずそうな顔で久美子を見ている。
「あの子ももう29でしょ?彼氏もいないみたいだし、親も心配になったんでしょうね。、父さんの知り合いの息子さんなんだけど、これがなかなか好条件だったのよ。顔は中の上くらいで、しかも銀行員。いい話でしょ?だから私も会うだけ会ってみなさいよ、ってけっこうしつこく勧めてたの。そしたらあの子、絶対嫌よ!って泣き出しちゃってさ。で、なんて言ったと思う?」
久美子は一旦話を切ると、きりっとした目で石富を見た。石富はふいと目を逸らし、テーブルに肘をついて横を向いた。秋家は、なんとなくその後の言葉が予想できてしまった。
「私、昔から剣二くんが好きなんだもん!って言ったのよ。ビックリしたわ。そんなこと、考えたこともなかったから」
久美子は頭を押さえて俯くと、はぁ、とため息をついた。やはり、ショックだったんだろう。自分の妹が夫に横恋慕していたなんて、どちらも大事な人間だからこそ、なおのことショックだったに違いない。
「それで剣二、まさかとは思うけど、あんた美奈子に手出してないでしょうね」
ぎろっと睨む久美子に、石富はふざんけんな、と少し怒ったような声を出した。
「出してるわけねーだろ!……お前と別れてからちょくちょく連絡はあったよ。姉ちゃんには黙ってた方がいいね、って言うから、特に隠すつもりはなかったけど、お前には言わなかった。でも、本当にそういう関係は一切ない」
石富は真剣な表情できっぱり言いきり、久美子は安心したように、「そう」と言いながらホッと息をついた。石富の裏切り行為がなかったことへの安心か、それとも大事な妹が手を出されてなかったことへの安心か。久美子はどちらにホッとしたのだろう。
「それであんた、美奈子のことどう思ってるのよ。私のことは関係なく、あの子と付き合う気とかあるの?」
「いや、それは無理だ。美奈ちゃんには悪いが、俺は妹としか思えない。もちろん嫌いじゃないけどな。そういう対象にはなんねーよ」
「……そう、わかったわ。じゃあ、あの子が告ってきたら、ちゃんと断ってあげて。はっきり言われれば、諦めもつくでしょうから。あの子、私に遠慮してずっと悩んでたみたいなのよね……かわいそうだけど、あの子もいい加減、すっぱり諦めて前見なきゃダメだわ。あ、私がこの話あんたにしたってことも、絶対言うんじゃないわよ」
「わかってるよ……」
石富は、少しつらそうだった。告白を断るのは、性格にもよるだろうがけっこう神経を使う。秋家は告白したことはないけれど、されたことは何度かあるので、その度に俺なんか好きになってくれたのに、と申し訳ない気分でいっぱいになる。だが、いくらごめんなさい、ありがとう、と言ったところで、相手にとったら拒否されたことに変わりはない。
(ものすごく、つらいんだろうな……)
告白を決意していた秋家は、改めて素直に気持ちを伝えるという行為に怖さを覚えた。美奈子は、告白したら石富にふられてしまうのだ。だがそれは、決して他人事ではない。
(明日は我が身、か……)
美奈子への同情を禁じ得ない秋家は、心の中で美奈子が新しい恋に早く出会えるよう祈った。
「さて、じゃあ帰るわ。おじゃましたわね」
「……悪かったな、なんか色々……」
石富は申し訳なさそうに久美子に言うと、立ち上がって部屋を出ようとする彼女の後に続いた。
「それじゃあ秋家さん。会えてよかったわ。お元気で」
「はい、あの、お幸せに」
「ふふ、ありがとう」
久美子は本当に幸せそうで、とてもきれいに笑ってくれた。好きな人の元妻という、本来ならあまり会いたくない存在だが、今日偶然とはいえ、会えてよかったと秋家も思った。
「送ってくるから」
「あ、うん」
石富は秋家にそう言うと、久美子と一緒に部屋を出て行った。玄関でなにやらぼそぼそ話し声が聞こえた後、ドアの開けられる音、それからバタンと閉まった音。そして、シーンと静かになった。
(外まで一緒に行ったんだ……)
秋家がいたから話せなかったことを、2人で話しているのだろうか……と考えてしまってから、その思考を払うようにぶんぶんと頭を振った。そりゃ、あの2人の間には秋家の知らないことばかりあるんだから、2人で話したいのも当然だ。卑屈になるな、と自分に言い聞かせ、もう冷たくなってしまったハニーコーヒーを、ぐいと一気に飲み干した。
●gumyさま
遠麗 | 2008.02.13(水) 00:10 | URL | コメント編集
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はじめまして。先日、コミュに参加させていただきましたgumyです。
拙宅にご訪問ありがとうございました。イラストもお褒めいただきまして恐縮です♪
小説を書いてらっしゃるんですね!それも長編。スゴイです!
今後の展開楽しみにしております。
それでは♪
拙宅にご訪問ありがとうございました。イラストもお褒めいただきまして恐縮です♪
小説を書いてらっしゃるんですね!それも長編。スゴイです!
今後の展開楽しみにしております。
それでは♪
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駄文ながら小説を書かせていただいております。
長編というか、長編になってしまうというのが正しいですかね(@Д@;・・・
まとめられない…
それでは、ありがとうございました☆