2008.02/16(Sat)

君に初恋、桜色。7−3

chapter7−3

【More・・・】

 好意を持たれているとは、思ってなかった。だが、憎まれるほど付き合いがあるわけでもない。

(なのに、なんで……)

 痛みと恐怖で思考が鈍り、理不尽な暴力にただ悲しくなった。涙が溢れてきて、頬を伝ったそれはソファを濡らす。

 秋家が泣いていることに気付いた久家は、忌々しそうに舌打ちをすると、秋家の頭を片手で掴むようにしてグッとソファに押さえつける。指が頭皮に食い込んで、痛くて思わず声が出た。

「や、めて、痛いっ……」
「そうやってさぁ、すぐ泣くのも計算なわけ?マジでイラつく」

 また髪を掴まれて、ソファに何回も頭をぶつけられた。ソファなので衝撃は弱いけれど、脳がグラグラと揺られて眩暈がしそうになる。食い込む指の痛さに、さらに涙が出てきた。

 泣くのが計算とか、どうしてそんなひねくれた思考になるんだろう。痛いから、怖いから、自然に出てきてしまうのに。
 自分は、ここまでこの男を怒らせるような、何かをしたというんだろうか。だがどんなに思い起こしてみても、やっぱり西澤の命日の前日に声をかけられるまで、見た覚えすらない。

 イラつく、と言う久家に頭を何度も揺らされ、しばらくしてその手が離された後、秋家は目を閉じ、くたりと顔を横に向けたまま動かなくなった。

 大人しくなった秋家を見て、久家は秋家の長袖Tシャツの裾を両手で胸の上までめくり上げた。幅も厚みもない、細い腰と薄い胸が空気に触れ、エアコンをつけていない店内の冷たさに、ふるりと身が震える。

 久家は拘束した両手を頭の上で押さえつけ、横腹から胸の辺りをすーっと手で撫であげた。

「やだ……やめ、て……」

 頭の中が、くらくらする。何をされているかわかったけれど、言葉でやめてと伝える以外何もできない。体が思うように動かなくて、秋家は力ない声でやめてやめて、と泣きながら繰り返した。

「うるさいって」
「………いた…っ」

 ぎゅうっと、乳首をつねられる。痛みに顔をしかめ、意味もないのに体をねじって逃げようとすると、久家はさらに強い力で乳首を捻り上げた。

「んぅ……!い、たぃ……!」
「おとなしくしろって言ったじゃん」

 冷ややかなその声に身が竦んで、秋家は動けなくなる。
 秋家のことが嫌いだと言いながら体を触る久家。傷つけられるんじゃないかと思い、その恐怖と、肌に感じる寒さにかたかたと体が震えた。

「かっわいい。震えてんの?いいよなぁ、ちっさくて細くてきれいでさぁ。こういうのって、持って生まれた宝だよな……」

 呟くように言った言葉の後半は、よく聞き取れなかった。秋家は目をぎゅっと閉じたまま、腹の辺りを撫でられる感覚にじっと耐える。

「かわいそうだね、秋家さん。よく知りもしない俺にいきなり嫌われて、こんなことされて。かわいそうだから、話してあげようか?」

 その言葉に、秋家は目を開けてぼんやりする視界で久家を見上げた。ここまでされて、話して“あげる”とはずいぶん上から目線だな、となぜかそんなことを思ったが、理由があるのなら聞きたいと思ったので、こくんと小さく頷いて見せた。

 久家はふん、と笑って、秋家の拘束した腕を押さえ込み、顔を覗きこむように体を寄せてきた。嫌だったが反抗する力もなく、すごく至近距離で久家の話を聞いた。

「俺ね、あんたのこと知ってたのよ。あん時店であんたを見つけて、あれ絶対そうだろ、って思った。それでさ、どんなにイイのか試してみたくなったんだよね。だから声かけたんだ。すぐOKしたから、やっぱ軽いんだなって思ったよ」

 久家は嫌味のようにそう言って、おもしろそうに笑った。秋家はただぼんやりと、特に相槌を打つこともせず、続く久家の話を耳に入れる。

「確かに良かったよ、体は。嫌いなんだけど気持ちイイから、めちゃくちゃヤってやったのよ。あ、そーだ。あのセクハラメール、意味ない、とか俺言ったけど、そんなことねーよ?超嫌がらせだから」

 あはは、と久家は笑う。あのメールも、実は悪意の塊だったと、楽しそうに。
 あの時、認識や価値観の違いだと思いショックすら受けた秋家だったが、やっぱり嫌がらせだったと知り、今少し傷ついた。

 2度目に会った時、久家からはあまり、悪意や嫌悪のような悪い空気を感じなかったが、腹の中では秋家のことを憎んでいたのだと思うと、今更ながら恐ろしくなった。そしてそんな感情を抑えて隠して、あれだけ友好的な演技をした久家に、いっそ感心もする。

(詐欺師になれるよ……)

 ショックと呆れとで、そんなことを思った。

「ま、それでさ、俺あん時聞いたじゃん。今までの彼氏で1番好きだったの誰?って。そしたらあんたさ、2年前に別れた人って言ったよな……それって、誰?」

 久家の顔から、笑顔が消えた。こっちが戸惑いそうなほど真剣な表情でじっと目を見つめられて、暴力を受けていた時とは違う意味で怖く感じる。

 確かに、今まで1番好きだったのは2年前に別れた人、と久家に言った。そしてそれは、松橋のことだ。
 でもそれを聞いて、一体どうするつもりなのだろう。松橋のことを、久家は知らないはずなのに……知らないはず、だが。

(俺のこと、前から知ってたって言った……誰に聞いて、知ってたの?)

 2年間恋人がいないと言った秋家に、何かあったからじゃないのか、未練があるんじゃないのか、と久家が聞いてきたことを思い出した。あれは、何かあったことを知っていたから、あんなことを――?

「……松橋くん、知ってる、の?」

 目を丸くして問う秋家に、久家はニッと笑う。
 それは、明らかに無言の肯定だった。

「あの人さ、最初俺の名前教えた時、嫌な名前だなって言ったんだ。なんでだと思う?あんたと同じ“家”って字が入ってるうえに、ケンジって名前だからなんだ。そんなの、俺のせいじゃねーよ。でもあんたのせいで、俺は名前からしてあの人には好かれない……あんたのせいでな――」

 そう言って久家は、秋家の細い首に両手をかけた。きゅっと喉の真ん中を親指で押さえられ、息苦しさに吐きそうになり、秋家は呻くような声を上げた。

「ぅく……っ…」
「まだあんたのこと忘れてねーんだ。すごく好きで夢中だったって言ってた……だからいなくなってよ、秋家さん」

 もう久家が何を言っているのかわからない。ただ、殺される、と思った。

 徐々に意識が遠のいて、視界がブラックアウトしかけたその時。
 うわ、という声がしたのと同時に、体の上がふっと軽くなり、圧迫のなくなった器官から一気に空気が入ってきて、秋家は思いきりむせた。

「……!けふっ…こほっ…」
 
 咳をしながら体を横向きに倒し、ヒーヒーと涙目になりながら必死で呼吸をしていたら、背中を撫でてくれる、温かく優しい、大きな手があった。

「大丈夫か!?なお!?」

 そしてよく知っている、大好きな人の声。

(剣二……?)

 こんな、映画のヒーローのようなタイミングで石富が来てくれるなんて、夢みたいだと、酸素不足に少し回りの悪い脳ミソで秋家は思った。
 でも本当に嬉しくて、やっぱり泣いてしまった。

テーマ : 自作BL連載小説 - ジャンル : 小説・文学

17:41  |  君に初恋、桜色。  |  CM(3)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●しぐなるあさま

いらっしゃいませ♪
剣二さん気に入っていただけて光栄です!
これからもっと男前にしていきたいと思います(なれればいーけどw)!
終盤なので、ラストまで気合い入れてがんばります!
ありがとうございました(^-^)
遠麗 | 2008.02.19(火) 04:11 | URL | コメント編集

●男前!!

さすがケンジ!
カッコ良すぎて思わず石富ファンになっちゃいました(*´ω`)
いいですねーー!

えつみの時も元妻の時も「男前!」って思ったんですが(笑
遠麗さんのお話にはいつもカッコいい人が多くてウハウハですv
続きも楽しみにしてます^^
しぐなるあ | 2008.02.18(月) 03:30 | URL | コメント編集

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 | 2008.02.17(日) 14:38 |  | コメント編集

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