2008.02/18(Mon)
君に初恋、桜色。7−4
chapter7−4
「ありがとう……」
前のファスナーを閉めてくれている時に、秋家は俯いたままお礼を言った。涙でぐちゃぐちゃだと思ったから、顔を見られることは少し、恥ずかしかったので。
「もっと早く来たかったんだけどな……悪かった」
悔しそうに言う石富の気持ちに申し訳なく思い、そんなことない、と言いながら思わず顔を上げた秋家の視界の端に、信じられない人の姿が映った。
(え……?)
一瞬見間違いかと思ったが、そちらに視線を移し見てみると、やはり間違いなく、2年前に別れた恋人・松橋がそこにいた。
「え……と、ど……」
どうして、と言おうと思ったが、驚きすぎて言葉が出てこない。
床には、おそらく石富に引っぺがされて投げられたのであろう久家が座り込んでいて、頬を膨らませた拗ね顔でそっぽを向いている。そして、その久家の横に、松橋がしゃがみ込んでじっと久家を見ている。
(なんで、どういうこと?剣二と一緒に来たってこと……?どうして……)
仕事帰りなのだろう、スーツにコートを羽織った姿で久家の横にいる松橋は、とても怒った顔をしていた。確かにさっき、久家と松橋が知り合いだったということを知ったけれど、今、どうしてここにいるんだろう。
秋家は、ひどく動揺した。なぜ石富と松橋とが同じタイミングでここに現れるのか。たまたま同時に来た可能性もゼロではないが、無理がありすぎる。だとしたら、一緒に来たと考えるのが自然だ。
「本気で殺す気だったわけねーだろ!ちょっとからかっただけじゃん!」
突然の大きな声に驚きびくっとした秋家の肩を、石富が撫でてくれた。だが、何も言わない。
秋家が松橋の存在に動揺していることはわかっていると思うのだが、黙ったまま厳しい表情で、じっと彼ら2人の様子を窺っている。
そっぽを向いたまま大きな声で言った久家は、頬をうっすら赤くしていて、それでも不機嫌極まりないといった顔つきだった。久家のこんな表情は、初めて見た。
感情むき出しで、まるで悪さを親に見つかって怒られ、拗ねている子供のような、そんな素直な表情。
「お前にとってそうでも、相手が同じように受け取るかそうじゃないかくらい、わからないわけじゃないだろう」
久家とは対照的に、松橋は冷静に正論で返す。ぐっと言葉につまる久家だが、それでも何か言いたそうに口を開けたり閉じたりして、頭の中で反論を探しているようだ。
「だって……!だってさ、興味あったんだ……あんたが好きだった人。今も忘れてねーっぽいし、じゃあ相手はどう思ってんのかな、って思ったんだよ。だから、試したんだ……!」
試した、という言葉にぎくりとした。さっき秋家に『どんなにイイのか試してみたくなったんだよね』と言っていたことを思い出し、何を“試した”のか、まさかこの場で言うつもりじゃないだろうな、と胆を冷す。
「……お前な、それが正当な理由になるとでも思ってんのか」
「だって、つらい別れ方したって言ってたじゃん!だから気になったんだ……!でも、最初は見てみたかっただけだけど、段々、ムカついてきた、んだ……だから……」
久家は最後の方を消えそうな声で言い、ちらりと松橋を見てそのまま俯いた。
試した、という言葉を、松橋は『秋家を試した』という行動全体として解釈してくれたようで、久家がどういう意味で言ったにせよ、とりあえずホッとした。
石富に、はっきり久家と関係があったことを知られなくてよかった、と。
「お前にはそれが理由になっても、される方には単なる理不尽でしかない。まっとうな理由の無い一方的な嫌悪は、悪でしかないんだ。でも、気付かなかった俺も悪いけどな……」
親のような松橋の注意の言葉に、久家はもう反論をしなかった。俯いたままの頭をさらに深く沈ませ、蚊の鳴くような声でごめんなさい、と言ったのが聞こえた。
松橋は久家の肩をぽんぽんと叩くと、そのまま久家の腕を持って立ち上がった。腕を引っ張り上げるように久家も立たせると、くるりと秋家の方を向く。
目が合って、どきりとする。2年ぶりで、しかもあんなおかしな別れ方をしてしまったものだから、気にはなっていた。叩かれたし怖い思いも嫌な思いもさせられて、できるだけ思い出したくないと思ってはいるけれど、ただ、付き合い初めの頃の楽しさは本物だった。石富のことを少しの間でも忘れさせてくれた、唯一の恋人だったから。
「秋家さん」
「えっ……」
松橋は秋家の名を呼んだ後、その大きな体を曲げて頭を下げた。秋家はビックリして、思わず立ち上がってしまう。
「あ、あの……?」
「すみませんでした。こいつのしたこと、全部俺が原因です」
頭を上げた松橋は、じっと秋家の目を見て謝罪した。その言葉に驚いたのは、秋家はもちろんだが、その隣にいた久家も、目を見開いて口をパクパクさせている。
「な、な、なんで翔(かける)さんが謝るんだよ!俺が悪いんじゃねーか!やめてくれよ!」
翔さん、と久家が言ったことで、謝罪に戸惑いながらも秋家は、松橋の名が『翔』だったことを思い出した。そして久家が下の名前を呼んでいることにも、少し驚く。
久家は泣きそうな顔でやめてくれ、と腕を掴んでいるが、松橋は秋家から目を逸らさず、さらに言葉を続けた。
「それと、2年前のこと。今更かもしれないけど……いや、今だから謝れるのかもしれない。あの時も、ひどいことしてすみませんでした。俺、頭の中があなたのことばっかりで、我を失ってたっていうか……すげぇ自分勝手したと思う。嫌な思いさせて、本当にすみませんでした」
再び頭を下げられて、秋家は戸惑った。確かに嫌な思いはさせられたが、こんなに真摯に謝られてしまうと、ひどく胸が痛い。
あんなに愛してくれた松橋に、秋家は同じほどの気持ちを返せなかった。一緒にいても石富のことを考えたりしていて、秋家は常に裏切っていたと云っても過言じゃない。自分の方がひどい人間なんだと、思わず口にしてしまいそうになる。
「や、やめて、松橋くん……!俺なんかに、謝らないでよ……俺は、だって……」
他に好きな人がいた、君を裏切っていた、と言おうとしたが、すぐ側にいる石富の存在がどうしてもその言葉を止めてしまう。人前で頭を下げてまで謝ってくれる松橋に、自分は何も言えない。
自分の根性の無さが歯痒く唇を噛むと、松橋が笑って言った。
「大丈夫、わかってます。だから俺は、あの時イライラしてたんだ」
「え……?」
何が、と聞こうとしたが、松橋はすぐに秋家から目を逸らし、隣で泣きそうな顔をしている久家の頭を撫でた。すると、まるで堤防が決壊したかのように、久家の目からぽろぽろと涙が零れた。
「ちょ、おい……!」
松橋は慌てていたが、誰より1番驚いたのは、間違いなく秋家だ。
――そうやってさぁ、すぐ泣くのも計算なわけ?マジでイラつく。
ほんの何十分か前に、今泣いているこの男に、こう言われたはずだが。
(泣いてる……)
自分のせいで、松橋が頭を下げることが耐えられなかったのか。今まで見てきた久家と、松橋が現れてからの久家は、同じ人間とは思えないほど違いすぎる。大嫌いな秋家の前で、あれだけ好意的な演技をして見せた人間が、松橋の前では感情を隠すことができないのだろうか。
なんだか子供のような久家を見て、秋家は2度目にバーで会った時のことを思い出した。大きなあくびをし、眠くなったからそろそろ帰る?と目をこすっていた姿。あれは、おそらく久家の自然体だったんじゃないだろうか。あの日の全てが演技だったわけじゃなく、少しでも『本当』があったことに、なぜか少し安心した。
「あの、俺ら、帰ります。秋家さん、色々本当にすみませんでした。それと、ありがとうございました。あなたのことは、確かにしばらく引きずってはいましたけど……今は大事な思い出です」
笑顔でそう言ってくれた松橋に、秋家も自然に笑顔になった。
「俺も、ありがとう……元気でね」
「はい」
松橋は泣く久家の肩を抱いて厨房の方に歩いていたが、曲がる手前で、目元を手で拭いながらの久家が、くるっとこちらを向いた。
「ねぇ、そこのしゃべんないおにーさん」
久家の声に、ずっと黙って座っているだけだった石富が、後ろを向いて久家を見る。何か変なことを言うつもりだろうか、とドキドキしていると、久家はこう言った。
「あんた、もしかして『ケンジ』さん?」
「…………だったらなんだよ」
石富はぶっきらぼうに答え、すぐ前を向いた。久家は、ふーん、と意味ありげに言うと、秋家を見てにやりと笑った。
「………!」
「秋家さん、今までごめんね」
そして、やたらしおらしく謝った後、松橋に腕を引っ張られるようにして厨房の方へ消え、裏口から出て行った音がした。
久家の最後のにやり笑いは、おそらくセックスした時に、秋家が名前を呼びながらすると興奮したことに対して、『そういうことだったんだ』という言葉の代わりだったんじゃないかと思う。
違うかもしれないけれど、たぶん、間違いない。結局、秋家にとって久家は、最後まで久家だった。
(もう……)
シーンと静まり返った店内に、秋家は急に緊張した。立ったまま、なんだか石富の隣に腰を下ろすことも躊躇われた。
(なんで、ずっと黙ってたんだろう……)
石富は、何もしゃべらなかった。誰が何を言っても、口を挟まなかった。
何を考えているのかわからず、どうしようか困った秋家が立ったままじっとしていると、急に手首を捕まれた。引っ張られて、石富の隣に座らされる。
「もう首は、大丈夫か……?」
手首を掴んだまま、石富は優しく聞いてきた。だが、声は優しいのだが、表情が心なしか硬い。怒っているような、でも悲しそうな、複雑な表情。
「うん、大丈夫」
「そうか……」
石富も、もしかして緊張しているのだろうか。仮にも親友が首を絞められていて、それを助けた後だ。どういう風に接していいか、石富も困っているのかもしれない。
(なんでこうなったか、説明しなきゃいけないよね……でも、なんで松橋くんと一緒に来たのか、それがすごく気になる……)
話さないといけないことも、聞きたいことも、たくさんある。ありすぎる。
今から昨日の仕切り直しかな、なんて思っていると、やはり石富も、同じことを考えていたようだった。
「なぁ、なお。お互い、全部話そうか。俺もお前も、言ってないことが少し多すぎる……」
やはり複雑なままの表情で、石富は言った。でも秋家は、なぜか今自然に微笑むことができたので、そのまま笑顔で頷いて見せた。
「うん、話す。でも剣二、『少し多すぎる』って、日本語としてちょっと変じゃない?」
秋家がくすくす笑いながら言うと、石富は言われてみれば、と複雑だった表情を崩し、はは、と笑った。
不思議なことに、今日はあまり緊張せずに、全てを話せそうな気がする。昨日まで緊張のし過ぎであれだけグラスを割りまくったのに、今は告白も怖くない……というのは大袈裟かもしれないが、軽い緊張感はあっても、恐怖心はなかった。
(やっと、解放されるんだ……)
石富に対して抱き続けてきた、たくさんの罪悪感から。
その後どうなるかは、わからないけれど。
【More・・・】
秋家の呼吸が落ち着いたのを見て、石富は腕を拘束しているジャージをほどいてくれた。体を支えてくれながら、秋家が体を起こすのを手伝ってくれて、ジャージもちゃんと着せてくれた。「ありがとう……」
前のファスナーを閉めてくれている時に、秋家は俯いたままお礼を言った。涙でぐちゃぐちゃだと思ったから、顔を見られることは少し、恥ずかしかったので。
「もっと早く来たかったんだけどな……悪かった」
悔しそうに言う石富の気持ちに申し訳なく思い、そんなことない、と言いながら思わず顔を上げた秋家の視界の端に、信じられない人の姿が映った。
(え……?)
一瞬見間違いかと思ったが、そちらに視線を移し見てみると、やはり間違いなく、2年前に別れた恋人・松橋がそこにいた。
「え……と、ど……」
どうして、と言おうと思ったが、驚きすぎて言葉が出てこない。
床には、おそらく石富に引っぺがされて投げられたのであろう久家が座り込んでいて、頬を膨らませた拗ね顔でそっぽを向いている。そして、その久家の横に、松橋がしゃがみ込んでじっと久家を見ている。
(なんで、どういうこと?剣二と一緒に来たってこと……?どうして……)
仕事帰りなのだろう、スーツにコートを羽織った姿で久家の横にいる松橋は、とても怒った顔をしていた。確かにさっき、久家と松橋が知り合いだったということを知ったけれど、今、どうしてここにいるんだろう。
秋家は、ひどく動揺した。なぜ石富と松橋とが同じタイミングでここに現れるのか。たまたま同時に来た可能性もゼロではないが、無理がありすぎる。だとしたら、一緒に来たと考えるのが自然だ。
「本気で殺す気だったわけねーだろ!ちょっとからかっただけじゃん!」
突然の大きな声に驚きびくっとした秋家の肩を、石富が撫でてくれた。だが、何も言わない。
秋家が松橋の存在に動揺していることはわかっていると思うのだが、黙ったまま厳しい表情で、じっと彼ら2人の様子を窺っている。
そっぽを向いたまま大きな声で言った久家は、頬をうっすら赤くしていて、それでも不機嫌極まりないといった顔つきだった。久家のこんな表情は、初めて見た。
感情むき出しで、まるで悪さを親に見つかって怒られ、拗ねている子供のような、そんな素直な表情。
「お前にとってそうでも、相手が同じように受け取るかそうじゃないかくらい、わからないわけじゃないだろう」
久家とは対照的に、松橋は冷静に正論で返す。ぐっと言葉につまる久家だが、それでも何か言いたそうに口を開けたり閉じたりして、頭の中で反論を探しているようだ。
「だって……!だってさ、興味あったんだ……あんたが好きだった人。今も忘れてねーっぽいし、じゃあ相手はどう思ってんのかな、って思ったんだよ。だから、試したんだ……!」
試した、という言葉にぎくりとした。さっき秋家に『どんなにイイのか試してみたくなったんだよね』と言っていたことを思い出し、何を“試した”のか、まさかこの場で言うつもりじゃないだろうな、と胆を冷す。
「……お前な、それが正当な理由になるとでも思ってんのか」
「だって、つらい別れ方したって言ってたじゃん!だから気になったんだ……!でも、最初は見てみたかっただけだけど、段々、ムカついてきた、んだ……だから……」
久家は最後の方を消えそうな声で言い、ちらりと松橋を見てそのまま俯いた。
試した、という言葉を、松橋は『秋家を試した』という行動全体として解釈してくれたようで、久家がどういう意味で言ったにせよ、とりあえずホッとした。
石富に、はっきり久家と関係があったことを知られなくてよかった、と。
「お前にはそれが理由になっても、される方には単なる理不尽でしかない。まっとうな理由の無い一方的な嫌悪は、悪でしかないんだ。でも、気付かなかった俺も悪いけどな……」
親のような松橋の注意の言葉に、久家はもう反論をしなかった。俯いたままの頭をさらに深く沈ませ、蚊の鳴くような声でごめんなさい、と言ったのが聞こえた。
松橋は久家の肩をぽんぽんと叩くと、そのまま久家の腕を持って立ち上がった。腕を引っ張り上げるように久家も立たせると、くるりと秋家の方を向く。
目が合って、どきりとする。2年ぶりで、しかもあんなおかしな別れ方をしてしまったものだから、気にはなっていた。叩かれたし怖い思いも嫌な思いもさせられて、できるだけ思い出したくないと思ってはいるけれど、ただ、付き合い初めの頃の楽しさは本物だった。石富のことを少しの間でも忘れさせてくれた、唯一の恋人だったから。
「秋家さん」
「えっ……」
松橋は秋家の名を呼んだ後、その大きな体を曲げて頭を下げた。秋家はビックリして、思わず立ち上がってしまう。
「あ、あの……?」
「すみませんでした。こいつのしたこと、全部俺が原因です」
頭を上げた松橋は、じっと秋家の目を見て謝罪した。その言葉に驚いたのは、秋家はもちろんだが、その隣にいた久家も、目を見開いて口をパクパクさせている。
「な、な、なんで翔(かける)さんが謝るんだよ!俺が悪いんじゃねーか!やめてくれよ!」
翔さん、と久家が言ったことで、謝罪に戸惑いながらも秋家は、松橋の名が『翔』だったことを思い出した。そして久家が下の名前を呼んでいることにも、少し驚く。
久家は泣きそうな顔でやめてくれ、と腕を掴んでいるが、松橋は秋家から目を逸らさず、さらに言葉を続けた。
「それと、2年前のこと。今更かもしれないけど……いや、今だから謝れるのかもしれない。あの時も、ひどいことしてすみませんでした。俺、頭の中があなたのことばっかりで、我を失ってたっていうか……すげぇ自分勝手したと思う。嫌な思いさせて、本当にすみませんでした」
再び頭を下げられて、秋家は戸惑った。確かに嫌な思いはさせられたが、こんなに真摯に謝られてしまうと、ひどく胸が痛い。
あんなに愛してくれた松橋に、秋家は同じほどの気持ちを返せなかった。一緒にいても石富のことを考えたりしていて、秋家は常に裏切っていたと云っても過言じゃない。自分の方がひどい人間なんだと、思わず口にしてしまいそうになる。
「や、やめて、松橋くん……!俺なんかに、謝らないでよ……俺は、だって……」
他に好きな人がいた、君を裏切っていた、と言おうとしたが、すぐ側にいる石富の存在がどうしてもその言葉を止めてしまう。人前で頭を下げてまで謝ってくれる松橋に、自分は何も言えない。
自分の根性の無さが歯痒く唇を噛むと、松橋が笑って言った。
「大丈夫、わかってます。だから俺は、あの時イライラしてたんだ」
「え……?」
何が、と聞こうとしたが、松橋はすぐに秋家から目を逸らし、隣で泣きそうな顔をしている久家の頭を撫でた。すると、まるで堤防が決壊したかのように、久家の目からぽろぽろと涙が零れた。
「ちょ、おい……!」
松橋は慌てていたが、誰より1番驚いたのは、間違いなく秋家だ。
――そうやってさぁ、すぐ泣くのも計算なわけ?マジでイラつく。
ほんの何十分か前に、今泣いているこの男に、こう言われたはずだが。
(泣いてる……)
自分のせいで、松橋が頭を下げることが耐えられなかったのか。今まで見てきた久家と、松橋が現れてからの久家は、同じ人間とは思えないほど違いすぎる。大嫌いな秋家の前で、あれだけ好意的な演技をして見せた人間が、松橋の前では感情を隠すことができないのだろうか。
なんだか子供のような久家を見て、秋家は2度目にバーで会った時のことを思い出した。大きなあくびをし、眠くなったからそろそろ帰る?と目をこすっていた姿。あれは、おそらく久家の自然体だったんじゃないだろうか。あの日の全てが演技だったわけじゃなく、少しでも『本当』があったことに、なぜか少し安心した。
「あの、俺ら、帰ります。秋家さん、色々本当にすみませんでした。それと、ありがとうございました。あなたのことは、確かにしばらく引きずってはいましたけど……今は大事な思い出です」
笑顔でそう言ってくれた松橋に、秋家も自然に笑顔になった。
「俺も、ありがとう……元気でね」
「はい」
松橋は泣く久家の肩を抱いて厨房の方に歩いていたが、曲がる手前で、目元を手で拭いながらの久家が、くるっとこちらを向いた。
「ねぇ、そこのしゃべんないおにーさん」
久家の声に、ずっと黙って座っているだけだった石富が、後ろを向いて久家を見る。何か変なことを言うつもりだろうか、とドキドキしていると、久家はこう言った。
「あんた、もしかして『ケンジ』さん?」
「…………だったらなんだよ」
石富はぶっきらぼうに答え、すぐ前を向いた。久家は、ふーん、と意味ありげに言うと、秋家を見てにやりと笑った。
「………!」
「秋家さん、今までごめんね」
そして、やたらしおらしく謝った後、松橋に腕を引っ張られるようにして厨房の方へ消え、裏口から出て行った音がした。
久家の最後のにやり笑いは、おそらくセックスした時に、秋家が名前を呼びながらすると興奮したことに対して、『そういうことだったんだ』という言葉の代わりだったんじゃないかと思う。
違うかもしれないけれど、たぶん、間違いない。結局、秋家にとって久家は、最後まで久家だった。
(もう……)
シーンと静まり返った店内に、秋家は急に緊張した。立ったまま、なんだか石富の隣に腰を下ろすことも躊躇われた。
(なんで、ずっと黙ってたんだろう……)
石富は、何もしゃべらなかった。誰が何を言っても、口を挟まなかった。
何を考えているのかわからず、どうしようか困った秋家が立ったままじっとしていると、急に手首を捕まれた。引っ張られて、石富の隣に座らされる。
「もう首は、大丈夫か……?」
手首を掴んだまま、石富は優しく聞いてきた。だが、声は優しいのだが、表情が心なしか硬い。怒っているような、でも悲しそうな、複雑な表情。
「うん、大丈夫」
「そうか……」
石富も、もしかして緊張しているのだろうか。仮にも親友が首を絞められていて、それを助けた後だ。どういう風に接していいか、石富も困っているのかもしれない。
(なんでこうなったか、説明しなきゃいけないよね……でも、なんで松橋くんと一緒に来たのか、それがすごく気になる……)
話さないといけないことも、聞きたいことも、たくさんある。ありすぎる。
今から昨日の仕切り直しかな、なんて思っていると、やはり石富も、同じことを考えていたようだった。
「なぁ、なお。お互い、全部話そうか。俺もお前も、言ってないことが少し多すぎる……」
やはり複雑なままの表情で、石富は言った。でも秋家は、なぜか今自然に微笑むことができたので、そのまま笑顔で頷いて見せた。
「うん、話す。でも剣二、『少し多すぎる』って、日本語としてちょっと変じゃない?」
秋家がくすくす笑いながら言うと、石富は言われてみれば、と複雑だった表情を崩し、はは、と笑った。
不思議なことに、今日はあまり緊張せずに、全てを話せそうな気がする。昨日まで緊張のし過ぎであれだけグラスを割りまくったのに、今は告白も怖くない……というのは大袈裟かもしれないが、軽い緊張感はあっても、恐怖心はなかった。
(やっと、解放されるんだ……)
石富に対して抱き続けてきた、たくさんの罪悪感から。
その後どうなるかは、わからないけれど。
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
| 2008.02.20(水) 00:23 | | コメント編集
●れおんさま
ホント、やっとここまで…(TwT。)
やっとこさ久家を片付ける(?)ことができましたw
2人で松橋ん家に帰って、この後反省会をする設定になっておりますw
松橋くんにしこたま怒られますw
ラストまでがんばりますので、よろしくお付き合いください♪
ありがとうございました(^◇^)
やっとこさ久家を片付ける(?)ことができましたw
2人で松橋ん家に帰って、この後反省会をする設定になっておりますw
松橋くんにしこたま怒られますw
ラストまでがんばりますので、よろしくお付き合いください♪
ありがとうございました(^◇^)
遠麗 | 2008.02.19(火) 04:25 | URL | コメント編集
●よかった〜♪
やっとここまで…(T_T)
いや、まだ完結はしていませんが秋家さんと一緒にヤキモキしていた人としては感無量です(笑)。
二人とも幸せになって欲しい!!
ラストまで目が離せませんね☆
続き、楽しみにしております(#^.^#)
いや、まだ完結はしていませんが秋家さんと一緒にヤキモキしていた人としては感無量です(笑)。
二人とも幸せになって欲しい!!
ラストまで目が離せませんね☆
続き、楽しみにしております(#^.^#)
れおん | 2008.02.19(火) 00:17 | URL | コメント編集
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