2008.02/26(Tue)
君に初恋、桜色。8−4
chapter8−4
鼻腔をくすぐるそれが、秋家の胸をしめつける。何度も何度も、想像して夢に見て、憧れた腕の中。
風邪を引いてふらついた時に少しだけ抱き締められたけれど、あの時はほんの数秒で、よくわからないまま離されてしまった。でも今は、もうたぶん、30秒くらいはずっと抱かれている。
(なんだろう、これ………)
これも石富にとっては、友達とのコミュニケーションの一環なのだろうか。
「………俺はな、なお」
石富が、さっきと同じセリフを言った。秋家はうん、と言って、抱き締められたままで石富の話を聞く。
「俺はな、性的欲求ってやつを、その……女にしか、感じないと思うんだ……」
「……っ……」
いきなりのそのセリフに、ずきりと心が痛んだ。
石富がノーマルなのはわかっていたことだが、こうもはっきり言われてしまうと、かなりきつい。
普通に、断ってくれればいいのに。
どうしてわざわざこんなことを聞かせるのか、意味がわからない。秋家は腹が立って悔しくて、腕の中から逃れようと石富の胸を押し返すように腕を突っ張った。
「なんで、そんなイヤなこと言うの……!いちいち言われなくても、わかってるよ!普通はそうだもんね、俺が異常なんだ!もういいよ、普通にふってよ……!」
泣きそうになって、突っ張っている自分の腕に顔をうずめた。
だが石富は、体を離してくれるどころか腕の力をさらに強め、力で敵うはずもない秋家は、ぱふっと再び胸の中に抱え込まれてしまう。
「バカ、お前のこと異常なんて思ってるわけないだろ。頼むから、最後まで聞いてくれ。俺の本心を、ちゃんと言うから」
聞きたくないと思ったので、秋家は首を横にぶんぶん振った。長く説明されて、だからごめん、なんてことになるのなら、一言『無理』と言ってくれればいい。じわじわ苦しめられるより、瞬殺してくれた方がマシだと思った。
「いらない!どうせ無理なんでしょ?だったらごめんて言やすむじゃん……説明なんて、しなくていい……!」
我が儘を言ってごねる子供みたいに、秋家は腕の中で何度も首を振った。それなのに、腰に回された腕は強い力で秋家の体を拘束し、反対の手にはボールみたいに頭をつかまれ、肩口に押さえつけられている。
確かに体格差はあるけれど、力の差はそれ以上にあるように思えて、余計に悔しくなった。
「頼むから、ぐずらないで聞いてくれ。だからな……女なら、極端な話、気持ちがなくても誰とでもヤれるんだ。でも、男と、セックスするってことは、考えられない。だけど……」
「……っ…聞きたくない!いらない……!」
涙が出てきた。
男とセックスするのが考えられない、つまり、秋家となんて考えられないということだ。わかっている、けれど、本人に直接言葉で聞かされるというのは、どこまで殺傷能力が高いのだろうか。
ショックで、死ねそうだと思った。
女の人となら、できる。石富は過去の彼女達とも、そしてあの久美子とも、当たり前だけどセックスしていたのだ。そしてもしかしたら、今も誰か、この腕に、体に、抱かれることのできる女の人が、いるのかもしれない。
そう考えると、気が狂いそうになる。涙が、バカみたいに流れてくる。
秋家は年甲斐もなく、声を上げてぼろぼろ泣いた。顔を押さえつけられているから、涙が石富の服に染みを作っている。でも、そんなことを気にする余裕なんか、あるわけがない。
こんなにひどいことを言うくせに、どうしてこんなに強く抱き締めてくれてるの。
石富の言葉と行動は、とても矛盾している。それがよくわからなくて、なおさら悲しい。
石富は、ぐずぐず泣いている秋家の頭を、何度も何度も撫でてくれた。
その手は、とても優しいのに。
「……ごめん、泣くなよ。でもな、それは、本当のことなんだ。本当のこと、なんだけどよ……俺お前だけは、こうやって、抱き締めたくなるんだ。中坊ン時から、ずっとそうだった。お前のこと見てて、可愛いなって自然に思ってる時があって、なんかな、たまらなくなるんだ……」
ぎゅっと、石富の腕にさらに力がこもった。
そして秋家の泣き声と、鼻をすする音が、徐々に小さくなっていく。
「……………」
よく、わからなかった。頭が、全然働かない。
でも今、すごく、すごいことを言われた気がする。
抱き締めたくなる……?可愛いって思う……?
聞き間違いでなければ、石富は確かにそう言った。
「……俺は、男に欲情はしない。でも……例えば、友情とか恋愛とか家族愛とか、そういうモン全部ひっくるめて、『好き』って言葉一つでまとめちまうとするだろ?。そしたら、俺の1番は絶対お前なんだ。男も女も家族も関係なしに、お前が特別に好きなんだよ。でも、それが恋愛感情かって聞かれると、よくわからねぇ。なのに、お前のこと、すごく抱き締めたいし、こうやってると、すげぇ嬉しいんだ……」
こめかみに、温かくて柔らかいものが触れた。
熱い吐息を肌に感じ、それが石富の唇だとわかると、恥ずかしくて体が震えて、胸がドキドキした。
顔を横に向けると、うすく形の良い唇が目の前にあった。少しだけ上を向いて、まだ涙の残っている目で石富を見つめると、優しく笑って、見つめ返してくれる。
「……俺とこうしてるの、イヤじゃないの?」
「バカ。すげぇ嬉しいって言ってるだろ」
「でも、じゃあ……エッチとかは、無理だけど、こういうくらいなら、いいってこと?」
「無理……かどうかはわからねぇが……」
「ねぇ、じゃあね……」
言ったら引かれるかもしれないけど、今こめかみにしてくれたそれを、唇にしてくれないかな、と思った。だから思いきって、その思いを震える唇にのせる。
「……キス、してみよ?」
【More・・・】
タバコのにおい、石富の、体のにおい。鼻腔をくすぐるそれが、秋家の胸をしめつける。何度も何度も、想像して夢に見て、憧れた腕の中。
風邪を引いてふらついた時に少しだけ抱き締められたけれど、あの時はほんの数秒で、よくわからないまま離されてしまった。でも今は、もうたぶん、30秒くらいはずっと抱かれている。
(なんだろう、これ………)
これも石富にとっては、友達とのコミュニケーションの一環なのだろうか。
「………俺はな、なお」
石富が、さっきと同じセリフを言った。秋家はうん、と言って、抱き締められたままで石富の話を聞く。
「俺はな、性的欲求ってやつを、その……女にしか、感じないと思うんだ……」
「……っ……」
いきなりのそのセリフに、ずきりと心が痛んだ。
石富がノーマルなのはわかっていたことだが、こうもはっきり言われてしまうと、かなりきつい。
普通に、断ってくれればいいのに。
どうしてわざわざこんなことを聞かせるのか、意味がわからない。秋家は腹が立って悔しくて、腕の中から逃れようと石富の胸を押し返すように腕を突っ張った。
「なんで、そんなイヤなこと言うの……!いちいち言われなくても、わかってるよ!普通はそうだもんね、俺が異常なんだ!もういいよ、普通にふってよ……!」
泣きそうになって、突っ張っている自分の腕に顔をうずめた。
だが石富は、体を離してくれるどころか腕の力をさらに強め、力で敵うはずもない秋家は、ぱふっと再び胸の中に抱え込まれてしまう。
「バカ、お前のこと異常なんて思ってるわけないだろ。頼むから、最後まで聞いてくれ。俺の本心を、ちゃんと言うから」
聞きたくないと思ったので、秋家は首を横にぶんぶん振った。長く説明されて、だからごめん、なんてことになるのなら、一言『無理』と言ってくれればいい。じわじわ苦しめられるより、瞬殺してくれた方がマシだと思った。
「いらない!どうせ無理なんでしょ?だったらごめんて言やすむじゃん……説明なんて、しなくていい……!」
我が儘を言ってごねる子供みたいに、秋家は腕の中で何度も首を振った。それなのに、腰に回された腕は強い力で秋家の体を拘束し、反対の手にはボールみたいに頭をつかまれ、肩口に押さえつけられている。
確かに体格差はあるけれど、力の差はそれ以上にあるように思えて、余計に悔しくなった。
「頼むから、ぐずらないで聞いてくれ。だからな……女なら、極端な話、気持ちがなくても誰とでもヤれるんだ。でも、男と、セックスするってことは、考えられない。だけど……」
「……っ…聞きたくない!いらない……!」
涙が出てきた。
男とセックスするのが考えられない、つまり、秋家となんて考えられないということだ。わかっている、けれど、本人に直接言葉で聞かされるというのは、どこまで殺傷能力が高いのだろうか。
ショックで、死ねそうだと思った。
女の人となら、できる。石富は過去の彼女達とも、そしてあの久美子とも、当たり前だけどセックスしていたのだ。そしてもしかしたら、今も誰か、この腕に、体に、抱かれることのできる女の人が、いるのかもしれない。
そう考えると、気が狂いそうになる。涙が、バカみたいに流れてくる。
秋家は年甲斐もなく、声を上げてぼろぼろ泣いた。顔を押さえつけられているから、涙が石富の服に染みを作っている。でも、そんなことを気にする余裕なんか、あるわけがない。
こんなにひどいことを言うくせに、どうしてこんなに強く抱き締めてくれてるの。
石富の言葉と行動は、とても矛盾している。それがよくわからなくて、なおさら悲しい。
石富は、ぐずぐず泣いている秋家の頭を、何度も何度も撫でてくれた。
その手は、とても優しいのに。
「……ごめん、泣くなよ。でもな、それは、本当のことなんだ。本当のこと、なんだけどよ……俺お前だけは、こうやって、抱き締めたくなるんだ。中坊ン時から、ずっとそうだった。お前のこと見てて、可愛いなって自然に思ってる時があって、なんかな、たまらなくなるんだ……」
ぎゅっと、石富の腕にさらに力がこもった。
そして秋家の泣き声と、鼻をすする音が、徐々に小さくなっていく。
「……………」
よく、わからなかった。頭が、全然働かない。
でも今、すごく、すごいことを言われた気がする。
抱き締めたくなる……?可愛いって思う……?
聞き間違いでなければ、石富は確かにそう言った。
「……俺は、男に欲情はしない。でも……例えば、友情とか恋愛とか家族愛とか、そういうモン全部ひっくるめて、『好き』って言葉一つでまとめちまうとするだろ?。そしたら、俺の1番は絶対お前なんだ。男も女も家族も関係なしに、お前が特別に好きなんだよ。でも、それが恋愛感情かって聞かれると、よくわからねぇ。なのに、お前のこと、すごく抱き締めたいし、こうやってると、すげぇ嬉しいんだ……」
こめかみに、温かくて柔らかいものが触れた。
熱い吐息を肌に感じ、それが石富の唇だとわかると、恥ずかしくて体が震えて、胸がドキドキした。
顔を横に向けると、うすく形の良い唇が目の前にあった。少しだけ上を向いて、まだ涙の残っている目で石富を見つめると、優しく笑って、見つめ返してくれる。
「……俺とこうしてるの、イヤじゃないの?」
「バカ。すげぇ嬉しいって言ってるだろ」
「でも、じゃあ……エッチとかは、無理だけど、こういうくらいなら、いいってこと?」
「無理……かどうかはわからねぇが……」
「ねぇ、じゃあね……」
言ったら引かれるかもしれないけど、今こめかみにしてくれたそれを、唇にしてくれないかな、と思った。だから思いきって、その思いを震える唇にのせる。
「……キス、してみよ?」
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