2008.03/07(Fri)
君に初恋、桜色。8−9
chapter8−9
(……?ここ、布団の中……)
ぼーっとした頭で、どうやら自分のベッドで寝ているらしいことを理解した。そして、じわじわと記憶が蘇ってきて、慌ててがばっと体を起こす。
「剣二……?」
だが寝室に石富の姿はなく、きちんとパジャマを着た自分が1人いるだけだ。あまりにちゃんと着替えをして寝ているものだから、ひょっとして石富とエッチをしたのは夢だったんだろうかと思った。
(そんなわけない……よね)
腰が、少しだけだるい。このだるさは、夢でないことの何よりの証明だ。だが、今なぜこういう状況なのかはよくわからない。久しぶりによく眠れて、ずいぶんすっきりとはしているのだが。
(久家くんのことも片付いて、剣二とも……だから不眠症、治ったのかな……)
石富とセックスして、終わって抱き合ったまでの記憶はある。あの後寝てしまって、だとすれば石富がここまで運んでくれて、パジャマを着せてくれたのだろうか。
はずかしい、と思いながら、窓を見た。カーテンが引いてあるので景色は見えないが、外はずいぶんと明るい。ハッとして壁の時計を見た秋家の顔から、サーっと血の気が引いた。
(9時半!?うそでしょ、仕事……!)
どう考えても朝の9時半。完全に遅刻だ。石富がもういないのは、仕事に行ったせいなのか。なんで起こしてくれないの、と恨みつつ、秋家はベッドから転げるように起き上がり、部屋を出てリビングに向かった。
「……!え、あれっ……」
「よぉ、起きたか。おはよう」
リビングに行くと、キッチンに石富が立っていた。昨日の服のまま、少々窮屈そうに秋家のエプロンをつけて、何か作っている。いいにおいがしたのは、ご飯のにおいだったみたいだ。
「おはよ……じゃなくて!仕事は!?」
「今日は臨時休業だ。有利子さんには連絡しといたから」
「え……な、なんで……」
あまりにあっさりと臨時休業などという石富に、秋家はビックリした。
確かにウィンド・ベルは、不定休気味なところがありはする。基本的に水曜日を定休日としているが、秋家の都合で西澤と次郎の命日は絶対に休むし、石富の来られない日に至っては、もう休むしかないから仕方なく休みにする。とはいえそれも年に数回程度で、よほどでない限り石富は休んだりしない。
それなのに、今日のこれは明らかにずる休みである。どうしたのだろう、と戸惑っていると、こちらを振り向いた石富が、ちょいちょいと手招きをした。
ぺたぺたと裸足で石富の側まで行くと、石富は持っていた包丁をまな板の上に置き、水道で手を洗ってタオルで拭いた。そしたらその手で腕を引っ張られ、ぎゅっと強い力で体を抱き締められた。
「わっ……」
「寝起きの匂いがする……」
髪の毛をくんくんとかいで、石富はおかしなことを言った。
まだ慣れない触れ合いに、秋家は心臓をドキドキさせながらも、嬉しくてたまらないと身を震わせる。まさかこんな甘い朝を迎えることができるなんて、夢にも思っていなかったから。
「そんなにおい、あるの……?」
「あるよ。お前のだけわかる……」
石富は秋家の後ろ髪をゆるく掴み、くっと軽く引っぱった。上を向くと、朝からされるには強烈すぎるキスをされ、ふらふらと倒れそうになる。だがそれをしっかり抱き締めてくれて、石富は笑った。
「今日は初のずる休みだ。一日、どこにも行かないで、色々話そう。それと、いっぱいしよう、な……」
「……っ……」
ぞくっとするような色っぽい声で言われて、カッと顔が熱くなった。
何をいっぱいするのか、秋家にはわからない。わからない……ことにしておく。
(いきなりこんな、心臓壊れそうだよ……)
昨日までの日常とあまりに違いすぎて、現実に思考が追いついていないような気がする。幸せすぎて、本当にいいのかと怖くなる。これはもしかしたら夢なんじゃないかと、まだそんなことを考えてたりする。
片想いが当たり前、で20年、ずっとそうやって過ごしてきたのに、突然抱き締めてもらえる存在になった自分が、まだ信じられない。好きと言ってくれる石富の言葉を疑うわけではないが、どうもこの空気の甘さに免疫がなさすぎて、素直に浸ることができない。
(だって恋愛って、初めてなんだもん……)
いろんな男と付き合ってセックスして、体だけは年齢以上に経験を積んでいるが、恋愛はまぎれもなく初めてなのだ。心の通い合った付き合いというものは、一体どんなものなんだろう?
「なぁ、なお」
「ん……?」
抱き締められたまま、秋家は石富を見上げた。おでこをこつんと当てられて、両手で顔を挟まれて、唇の触れそうな距離で石富は言う。
「ちゃんと、付き合おうな」
「え………」
「恋人として、ちゃんと付き合おう。でも、俺たちは親友でもあるんだ。だからただの恋人より、もっとずっと深くなれる。今まで遠回りした分、これから取り戻そうな」
ちゅっと唇にキスされて、昨日に続いてまた涙がぽろっと出た。もう涙腺が、完全に壊れてしまっているらしい。
石富はどうしてこんなに、嬉しいことばかり言って秋家を泣かせるんだろう。
「ありがとう…っ……ごめんね、剣二……俺のために、いっぱい、ごめんね……」
嘘ついて、逃げてごめんなさい、出世の道捨てさせて、離婚させてごめんなさい。
いっぱい傷つけたのに、ずっと守ってくれて、大事にしてくれて……そして好きになってくれて、本当に、ありがとう――
「謝るな、バカ。お前は責任感じてるかもしれないけど……俺な、ジュリズ辞めるの、ほんの少しも迷わなかったんだ。お前が喫茶店やるって聞いてよ、じゃあ、一緒にやればもう離れねーですむなって、そう考えた。どうしようなんて迷いは一切なかったんだ。だから、気にするなって言っても無理かもしんねーけど……頼むから、重いって言うのだけはやめてくれよな」
はは、と、昨日秋家が怒って言ったことをネタにして、笑ってくれた。
「……それは、だって、友情でされても、嬉しくないって意味で……でも、ひどいこと言って、ごめんね……」
「ああ、わかってるよ。もう、謝らなくていい……」
「剣二……」
見つめ合ってキスされて、石富の優しさに胸が締め付けられた。
こんなに素晴らしい人は、他にいない。
誰よりも強くて、誰よりも優しくて、誰よりも秋家のことを愛してくれる。
でも、守られてばかりじゃいけない。強くなって、この人と肩を並べて、一緒に歩きたい。これからずっと、共に生きていくために。
唇を離して、にこりと微笑み合った。その笑顔に、心の中が温かくなって、体中が何かとてもきれいなもので満たされていくような気がした。
「……さぁ、朝飯食おうぜ。お前昨夜、何も食わねーまま寝ちまったからな。腹減ってるんじゃねーか?」
「うん、お腹すいた」
石富のいる朝。石富の作ってくれた朝食。
たったそれだけで、パンに苺ジャムを塗るいつもの作業も、とても幸せで楽しいものになる。
初めてのずる休み。
みんなには申し訳ないけれど、悪い大人を許してください。
(ごめんね、みんな……)
今日だけは、この甘い時間に溺れていたい。石富といっぱい話して、そしていっぱい――
(する、のかな……)
食事中なのに淫らな考えに及びそうな頭をふるふると振って、秋家はジャムを塗ったパンを頬張った。
いつもの何倍も美味しい気がして、まるで、幸せを噛んでいるみたいだな、と思った。
【More・・・】
なんだかいいにおいがして、秋家はとても幸せな気分で目を覚ました。ゆっくり目を開けると、見慣れた壁に窓、そして天井が目に入る。(……?ここ、布団の中……)
ぼーっとした頭で、どうやら自分のベッドで寝ているらしいことを理解した。そして、じわじわと記憶が蘇ってきて、慌ててがばっと体を起こす。
「剣二……?」
だが寝室に石富の姿はなく、きちんとパジャマを着た自分が1人いるだけだ。あまりにちゃんと着替えをして寝ているものだから、ひょっとして石富とエッチをしたのは夢だったんだろうかと思った。
(そんなわけない……よね)
腰が、少しだけだるい。このだるさは、夢でないことの何よりの証明だ。だが、今なぜこういう状況なのかはよくわからない。久しぶりによく眠れて、ずいぶんすっきりとはしているのだが。
(久家くんのことも片付いて、剣二とも……だから不眠症、治ったのかな……)
石富とセックスして、終わって抱き合ったまでの記憶はある。あの後寝てしまって、だとすれば石富がここまで運んでくれて、パジャマを着せてくれたのだろうか。
はずかしい、と思いながら、窓を見た。カーテンが引いてあるので景色は見えないが、外はずいぶんと明るい。ハッとして壁の時計を見た秋家の顔から、サーっと血の気が引いた。
(9時半!?うそでしょ、仕事……!)
どう考えても朝の9時半。完全に遅刻だ。石富がもういないのは、仕事に行ったせいなのか。なんで起こしてくれないの、と恨みつつ、秋家はベッドから転げるように起き上がり、部屋を出てリビングに向かった。
「……!え、あれっ……」
「よぉ、起きたか。おはよう」
リビングに行くと、キッチンに石富が立っていた。昨日の服のまま、少々窮屈そうに秋家のエプロンをつけて、何か作っている。いいにおいがしたのは、ご飯のにおいだったみたいだ。
「おはよ……じゃなくて!仕事は!?」
「今日は臨時休業だ。有利子さんには連絡しといたから」
「え……な、なんで……」
あまりにあっさりと臨時休業などという石富に、秋家はビックリした。
確かにウィンド・ベルは、不定休気味なところがありはする。基本的に水曜日を定休日としているが、秋家の都合で西澤と次郎の命日は絶対に休むし、石富の来られない日に至っては、もう休むしかないから仕方なく休みにする。とはいえそれも年に数回程度で、よほどでない限り石富は休んだりしない。
それなのに、今日のこれは明らかにずる休みである。どうしたのだろう、と戸惑っていると、こちらを振り向いた石富が、ちょいちょいと手招きをした。
ぺたぺたと裸足で石富の側まで行くと、石富は持っていた包丁をまな板の上に置き、水道で手を洗ってタオルで拭いた。そしたらその手で腕を引っ張られ、ぎゅっと強い力で体を抱き締められた。
「わっ……」
「寝起きの匂いがする……」
髪の毛をくんくんとかいで、石富はおかしなことを言った。
まだ慣れない触れ合いに、秋家は心臓をドキドキさせながらも、嬉しくてたまらないと身を震わせる。まさかこんな甘い朝を迎えることができるなんて、夢にも思っていなかったから。
「そんなにおい、あるの……?」
「あるよ。お前のだけわかる……」
石富は秋家の後ろ髪をゆるく掴み、くっと軽く引っぱった。上を向くと、朝からされるには強烈すぎるキスをされ、ふらふらと倒れそうになる。だがそれをしっかり抱き締めてくれて、石富は笑った。
「今日は初のずる休みだ。一日、どこにも行かないで、色々話そう。それと、いっぱいしよう、な……」
「……っ……」
ぞくっとするような色っぽい声で言われて、カッと顔が熱くなった。
何をいっぱいするのか、秋家にはわからない。わからない……ことにしておく。
(いきなりこんな、心臓壊れそうだよ……)
昨日までの日常とあまりに違いすぎて、現実に思考が追いついていないような気がする。幸せすぎて、本当にいいのかと怖くなる。これはもしかしたら夢なんじゃないかと、まだそんなことを考えてたりする。
片想いが当たり前、で20年、ずっとそうやって過ごしてきたのに、突然抱き締めてもらえる存在になった自分が、まだ信じられない。好きと言ってくれる石富の言葉を疑うわけではないが、どうもこの空気の甘さに免疫がなさすぎて、素直に浸ることができない。
(だって恋愛って、初めてなんだもん……)
いろんな男と付き合ってセックスして、体だけは年齢以上に経験を積んでいるが、恋愛はまぎれもなく初めてなのだ。心の通い合った付き合いというものは、一体どんなものなんだろう?
「なぁ、なお」
「ん……?」
抱き締められたまま、秋家は石富を見上げた。おでこをこつんと当てられて、両手で顔を挟まれて、唇の触れそうな距離で石富は言う。
「ちゃんと、付き合おうな」
「え………」
「恋人として、ちゃんと付き合おう。でも、俺たちは親友でもあるんだ。だからただの恋人より、もっとずっと深くなれる。今まで遠回りした分、これから取り戻そうな」
ちゅっと唇にキスされて、昨日に続いてまた涙がぽろっと出た。もう涙腺が、完全に壊れてしまっているらしい。
石富はどうしてこんなに、嬉しいことばかり言って秋家を泣かせるんだろう。
「ありがとう…っ……ごめんね、剣二……俺のために、いっぱい、ごめんね……」
嘘ついて、逃げてごめんなさい、出世の道捨てさせて、離婚させてごめんなさい。
いっぱい傷つけたのに、ずっと守ってくれて、大事にしてくれて……そして好きになってくれて、本当に、ありがとう――
「謝るな、バカ。お前は責任感じてるかもしれないけど……俺な、ジュリズ辞めるの、ほんの少しも迷わなかったんだ。お前が喫茶店やるって聞いてよ、じゃあ、一緒にやればもう離れねーですむなって、そう考えた。どうしようなんて迷いは一切なかったんだ。だから、気にするなって言っても無理かもしんねーけど……頼むから、重いって言うのだけはやめてくれよな」
はは、と、昨日秋家が怒って言ったことをネタにして、笑ってくれた。
「……それは、だって、友情でされても、嬉しくないって意味で……でも、ひどいこと言って、ごめんね……」
「ああ、わかってるよ。もう、謝らなくていい……」
「剣二……」
見つめ合ってキスされて、石富の優しさに胸が締め付けられた。
こんなに素晴らしい人は、他にいない。
誰よりも強くて、誰よりも優しくて、誰よりも秋家のことを愛してくれる。
でも、守られてばかりじゃいけない。強くなって、この人と肩を並べて、一緒に歩きたい。これからずっと、共に生きていくために。
唇を離して、にこりと微笑み合った。その笑顔に、心の中が温かくなって、体中が何かとてもきれいなもので満たされていくような気がした。
「……さぁ、朝飯食おうぜ。お前昨夜、何も食わねーまま寝ちまったからな。腹減ってるんじゃねーか?」
「うん、お腹すいた」
石富のいる朝。石富の作ってくれた朝食。
たったそれだけで、パンに苺ジャムを塗るいつもの作業も、とても幸せで楽しいものになる。
初めてのずる休み。
みんなには申し訳ないけれど、悪い大人を許してください。
(ごめんね、みんな……)
今日だけは、この甘い時間に溺れていたい。石富といっぱい話して、そしていっぱい――
(する、のかな……)
食事中なのに淫らな考えに及びそうな頭をふるふると振って、秋家はジャムを塗ったパンを頬張った。
いつもの何倍も美味しい気がして、まるで、幸せを噛んでいるみたいだな、と思った。
●れな様
遠麗 | 2008.06.12(木) 22:07 | URL | コメント編集
●いい!
胸キュンしました!
まじで、小説化してもらいたいです
絶対、かいま
すよwww
まじで、小説化してもらいたいです
絶対、かいま
すよwww●米神さま
いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます!
きゅんきゅんしてくれたら私も嬉しいです(^◇^)
この2人、やっとここまで来ましたw
長かったです。
またいらしてくださいね♪
ありがとうございました☆
きゅんきゅんしてくれたら私も嬉しいです(^◇^)
この2人、やっとここまで来ましたw
長かったです。
またいらしてくださいね♪
ありがとうございました☆
遠麗 | 2008.03.09(日) 02:45 | URL | コメント編集
●
何と言うかもう・・・ありがとうございます!
何だか私まで幸せな気持ちになりました(*´▽`*)
思わず秋家さんに貰い泣きしそうになったくらい、二人が幸せそうで嬉しかったです♪
遠麗さんの小説にはもうキュンキュンさせられっぱなしです(≧∇≦)
何だか私まで幸せな気持ちになりました(*´▽`*)
思わず秋家さんに貰い泣きしそうになったくらい、二人が幸せそうで嬉しかったです♪
遠麗さんの小説にはもうキュンキュンさせられっぱなしです(≧∇≦)
●管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
| 2008.03.08(土) 00:49 | | コメント編集
●管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
| 2008.03.08(土) 00:39 | | コメント編集
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読んでいただきまして、ありがとうございます。
小説化などと、めっそうもございません><
しがない素人作品でございます…っ
でも、そう言っていただけると、単純なので本気で喜んでいますw
がんばれます!
よろしければまたお越しくださいませね。
ありがとうございました(^-^)